過去にもいくつかご紹介してきたが、なんだそれ、と思わず声に出してしまう珍品と出会うのもプラモデルの楽しさ。いまやプラモデルは時代を切り取り、文化を伝えるアイテムといっても過言ではない。

というわけで今回は「トイレ」を作ってみたいと思う。

繰り返すが「トイレ」だ。しかも最近ではめっきり見なくなった和式便所。


・マイルストン「俺たちの1/12 和式便所」(希望小売価格:税抜1980円)

挑戦するのはマイルストン × 青島文化教材社の「俺たちの1/12 和式便所」。アクションフィギュア情景用プラモデルで「俺たちの1/12 男子便所」「俺たちの1/12 洋式便所」とシリーズになっている。

どんな情景で使うんだよ、とツッコミたくなるが、たぶんアレやコレや遊び方があるのだろう。今回は純粋にプラモデルとして作っていきたい。

開封してみると、塗装推奨だが「成形色(元の色)で組み立てても便所の雰囲気は十分に表現できます」とのことで、パイプなどの金属部分はあらかじめシルバーに着色されているほか……

どこかで見たようなポスター各種も同梱。


しかもしかも便器は2パターン、水洗系に至っては「フラッシュバルブ、背面タンク、コーナータンク」と3パターンから選べるのだ。トイレットペーパーも通常パターンと、よく清掃直後にやられている「三角折り」パターンから選択可能!

なんというこだわり! これなら「イメージと違う」ということがないだろう。誰もが「理想のトイレ」を作れる!!

そのぶん使わないパーツ(余るパーツ)が出てきて、少しもったいないけれど、このこだわりがファンに支持される秘訣だよな。

組み立てには接着剤が必要。説明書も丁寧で、迷うことなく組み上がっていく。しかし自分の人生で、トイレを組み立てる日が来るとは思わなかったなぁ……。

内部構造もしっかり再現されている。完成後は見えなくなる部分だが、説明書に色指定もあるので、こだわり派は塗装も可能。ここまでは、あっという間に組み上がる。

小物も筆塗りで用意したぞ。ポリ容器には、油性マジックで黒く塗ったラップを使って、ゴミ袋を表現してみた。

さてさて、実は開封したときから気づいていたのだが、壁パーツは真っ白。ここは完全に塗装が必要なのだ。エアブラシをもっていない筆者、こんなに広範囲を筆だけでムラなく塗れる気がしない。


ハケ? ローラー? どっちにしても冒険だなぁ。上手くできるだろうか。


面積が広いから塗料はたっぷり欲しいが、混色すると後から同じ色を再現できない点も心配。でも単色で買ってくると、「思ったのと違った」となるたびに買い直さないといけないし。


こんなときの救世主……助けてセリアさん!


セリアは物量ではダイソーにかなわないイメージだが、ちょっと趣味のよい手芸用品やクラフト素材が充実しており、筆者のように「自分じゃできねーよ」という作業が立ちはだかったときに非常~に役に立つ。

リメイクシートやタイルを買ってきたぞ。これをチョチョッとカットして壁に貼りつければ……

このとおり! 塗装なしで、それっぽくなった。


のだが、しかし

…………

…………

…………

う~ん、なんか違う。物足りない。なんというかキレイすぎるのだ。


筆者が求めているのは、薄暗い蛍光灯で照らされ、便器は茶色く変色し、いつも床がジメジメと湿っているような、もっと世紀末感のあるトイレ……!

いまや洋式トイレに押され、新築住宅からはすっかり姿を消した絶滅危惧種。思い出すのは旧校舎や町役場、診療所、公園のトイレ……それが「俺たちの和式便所」なんじゃないのか? ここはウェザリング(汚し塗装)すべきだろう!

しかし困った。ウェザリングは基本の塗装ができるようになった後の、いわば応用編のようなもので、かろうじて小物のベタ塗りができる程度の筆者には到底無理だ。

なにか方法がないものか、とググっていたら……いいものがあるじゃないか! タミヤの「ウェザリングマスター」といい、アイシャドウのように塗りつければ、砂ぼこりなどの汚れが簡単に表現できるという。神か!!

付属のブラシで塗ってみると……おおっ! いい感じで着色する。


これは楽しい! 不自然でない程度に少しずつ色がのるので失敗しにくいし、どんどん汚したくなる!

いいね、いいね、もっと不潔な感じにしたいね~! なぜだか中毒性がある!! 汚くするってどうしてこんなに楽しいんだ?

便器もタンクも汚していくぞ。真っ白な陶器なんてつまらない!! どうしたって経年劣化で水垢や黄ばみができるだろう。1度できてしまった黄ばみが、後からどうゴシゴシしても落ちないのは普段から経験済みだ。

止まらなくなった筆者はジオラマスポンジを染めて、綿ぼこりまで仕込んでいく。


パステルカラーの壁紙なんてヤメだヤメだ。昭和っぽい板張りに変更。なんならベニヤ板が欲しいくらいだ。


・完成品はこちら

完成である。薄汚いタンク。


女子トイレによくある、個室に入った瞬間「あ゛~~~~~!」ってなるトイレットペーパー。


手垢にまみれて、間違っても握りたくない手すり。


誰が突っ込んだのか、「スッポン」ことラバーカップ。


技術が足りず、床のタイルを十分に演出できなかったのが残念である。もともとのタイルの上から色を塗ればよかったのだろうが。


・ものを汚すという魔力

本当に上手い人は、どういう種類の汚れが、どういう原理で付着するのか理解して再現していくのだと思うが、筆者にはこれが限界である。

今回使った「ウェザリングマスター」にも、スス、アカサビ、オイル、赤焼け、青焼け……と、まだまだ無数のカラーがあるのである! 奥が深い。

しかし、普段「キレイにする」ことには熱心だが、「汚くする」ことがこんなにも魔力のあるものとは知らなかった……。どんどんエスカレートしてしまう。まだ足りない、もっと汚くしたい! 悪魔のささやきが聞こえる。

なぜだか非常にカタルシスが得られた。清潔神話に疲れたあなた、ストレス解消に思いきり汚いトイレを作ってみないか?


参考リンク:株式会社マイルストン
執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.
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