つい1時間ほど前のこと、私、P.K.サンジュンは生まれて初めて「傘泥棒」を目撃した。売り物の傘ではなく、人様の傘をかっぱらうタイプの傘泥棒で、確かにこの日は急に雨が降り始めるバッドコンディションではあった。

それにしても──。傘泥棒はあんなに堂々と、あんなにナチュラルに傘を盗んでいくものなのだろうか? ありのままをお伝えするため特にオチはないが、現行犯傘泥棒の一部始終をご報告したい。

・くもり予報だったけど

私がまさにこの記事を執筆している現在、窓の外からは雨音が聞こえている。ただ昨日の天気予報では「くもり」となっていたので、私はいつも通り娘を自転車に乗せて、保育園まで送り届けてきたところだ。

ちょうど娘を降ろしたタイミングで、ポツポツと降り始めた雨。「マジかよ。曇りじゃなかったのかよ」──。私は昨日の天気予報を恨みながら、ダッシュで電動自転車をこぎ続けた。

・犯人は80代と思われるおじいちゃん

弱い雨に打たれながら15分ほどが経過し、もう少しで我が家へ到着しようというその時、事件は起きた。30メートルほど先から、傘をささずにこちら方面へ向かってくるご老人。年の頃は80代か、もしかしたら90歳に届いているかもしれない。

慎重は160センチに満たない程度の小柄なおじいちゃんで、白髪は短めに刈り込まれていた。おじいちゃんの他にも傘をさしていない人はチラホラいたので、当初はおじいさんが特別目立っていたワケではない。いや、むしろその後の行動もごくごく自然な雰囲気であった。

おじいちゃんは私から見て左側、おじいちゃんから見て右側にあるコンビニに入るかと思いきや、入り口の傘立てから1本傘を抜き取ったではないか。どれにしようか迷う様子は微塵もなく、まるでドライブスルー感覚でその手には傘が握られていた。

この時点で私とおじいちゃんの距離は、およそ10メートルまで縮まっていた。私はスイッチを入れてこう口にした。「ちょっと、おじいちゃん」──。

・現行犯なう

その1秒後、コンビニから飛び出してきたのは50代と思(おぼ)しきガタイのいい男性。男性は「ふざけんな、この野郎!」と口走りつつ、おじいさんの背後から傘を奪い取ったのである。

反射的に私は自転車のブレーキをかけた。男性とおじいちゃんは巨人と小人ほどに体格が違う。おじいちゃんは特に悪びれる様子もなければ謝罪するでもなく、ただ「ああ……」と口にしてそのまま立ち去ろうとした

男性は「ちょっと待て、この野郎! ……チッ、とんでもないジジイだな」と口にし、おじいちゃんの後を追うことはしなかった。ただ目が合った私に「ね?」みたいな顔をして、再びコンビニに吸い込まれていった。

・とてもイヤな気持ち

男性の言うことは至極真っ当で「ふざけんな、この野郎」であり「とんでもないジジイ」でしかない。法律のことはさほど詳しくないが、普通に考えれば “窃盗罪” に該当するのであろう。男性が声を荒げるのも当然だ。

一方で、おじいちゃんの正体を考えると、いずれにせよ暗い気持ちにしかならなかった。傘が買えないほど困窮しているならそれはそれでツラいし、逆に経済的な問題ではなく「これくらいいいだろ」的な感覚ならそれはそれでツラい。

また、おじいちゃんが天涯孤独だとしたらツラいし、逆に普段は孫や家族に囲まれた幸せな環境にいてもツラい。こちらが唯一救われるとしたら「ボケ」が原因の犯行であるが、正直おじいちゃんはボケている感じはしなかった

・スイッチを入れられる心構え

冒頭でもお伝えした通り、この記事に特にオチはない。……が、唯一私が伝えられるとしたら「いつでもスイッチを入れられるようにしておこうね」ということくらいだろうか? 仮に持ち主の男性が現れなくても、私の声掛けにより傘泥棒は防げていたハズだ。

想定していないことが起こると、人間はビックリして結局何もできないことが多い。例えば当サイトのあひるねこは「ぶつかり男を目撃したが、ビックリしすぎて何もできなかった」と話している。

別に彼を非難するわけではないが、私なら絶対にそうならない。なぜなら常に「スイッチを入れられる心構え」をしているからだ。何もこれは悪事に対してだけではなく「電車で席を譲る」などの善行でも同じことがいえる。

人格者と呼ばれる人はスイッチを自分で入れずとも “自動スイッチ” が起動するようになっているが、私はまだまだ未熟者。ゆえに、瞬時にスイッチを入れられる心構えだけは常にしている。なぜならそれがより良い世界を作ると信じているからだ。

話はややとっ散らかったが、基本的には「ただ傘泥棒を目撃した話」である。でも本当、何というか……泥棒を見ちゃうと少しもハッピーな気持ちにならないよね。

執筆:P.K.サンジュン
Photo:RocketNews24.