突然だが、料理は得意だろうか。筆者はからっきしである。料理というのは一定のレベルまでは “スキル” だろうから、「苦手で……」というのは言い訳に過ぎない。必要に迫られれば身につくはずで、そこに至るまでの努力をしたくないという単なる筆者の怠慢(たいまん)だ。

しかし最近、コロナ禍で苦戦する飲食店が次々に食材とレシピのセット、いわゆる「ミールキット」を販売。筆者も恩恵にあずかっているのだが、もうちょっと本格的に料理をしてみようと思い立った。

食材宅配サービスOisixから、有名シェフとのコラボレシピ「おうちレストラン」に挑戦。スキルレベル1の筆者でもレストランのような料理を作れるのか? 人から見るとブロック塀くらい、しかし筆者にとっては天をつく断崖絶壁に挑んだ記録である。


・なぜ料理をしないのか

なぜ料理をしないのか、ひと言でいってしまうと「好きじゃない」からだ。料理番組は見ないし、食材がズラッと並ぶスーパーや市場でも心がおどらず、情報誌のレシピページは飛ばして読む。

どれくらい経験値が低いかというと「できること」から数えた方が早いほど。ごはんは炊ける、味噌汁を作れる、カレーなど「パッケージに作り方が書いてある料理」は作れる、というレベルである。使える野菜は少なく、魚介類の下処理はやったことがない。つまりレパートリーがめちゃくちゃ乏しい。

まかない付きの住居に住んだり「1日1食、あとは菓子」のような不摂生生活を送っているうちに、いつしか世は群雄割拠(ぐんゆうかっきょ)のコンビニ戦国時代に突入。簡単に食料が手に入る世の中になった。

田舎にありがちな「法事で女性が台所仕事をする」というような機会も、運良く避けてきて今日に至る。新品同様に光り輝く魚焼きグリルからも、日々の食生活がうかがわれよう。


・「おうちレストラン」やってみる

今回は初めて注文する人限定の「おためしセット」ということで、キャンペーン価格(税込1980円)でオーダーした。ほどなくダンボール箱いっぱいの食材が冷蔵便で届く。メインのメニューは「チキンスパイシーパエリア風」だ。

コロンとした瓜のような食材は「トロなす」だそうで。初めて使う。

レシピの詳細は実際に購入して確認していただくとして、基本は食材を切って炒めるだけ。調理の指示書も「〇〇を入れて」「焼き色をつける」程度の、ごく簡単なものになっている。

鶏肉はすでに塩やみりんで下味がついているものが同梱。ゴロゴロと大きく、少し炒めただけで甘い香りが立ちのぼり、すっごく旨そう!!

今回のレシピを考案した和知徹氏は「肉のスペシャリスト」と呼ばれ、経営する銀座のレストラン『マルディグラ』も肉料理を愛する人たちが集まるビストロなのだとか。


ですが。


ですが。


食材とひと言でいっても、たとえば肉と野菜では、火の通りの早さが違いますよね?

初めての食材は、どれくらいで火が通るのかわかりにくい。とくに肉に関しては、生焼けを恐れるあまり警戒心が強くなってしまう。大きな肉に火を通しているうちに、野菜がクタクタになって崩れてくるという事態に苦戦。

「火のあんばい」は経験がものをいう。若い頃、交際相手に料理を振る舞おうとしてバチバチとはねる油に恐れをなし、半生の唐揚げを出してしまったことは苦い思い出だ。初心者としては「この順番で材料投入」とか「この状態になるまで炒める」とか、もうちょっとだけ詳しい指示が欲しい。

味つけは「タンドリーソース」がついているので、自分で調整する必要はなし。これはありがたい! ただ、どんなレシピにも必ず出てくる「塩で味を整える」という一文はちょっと抽象的だ。「整っている」とはどういう状態かね?

完成。ぱっと見はそれなりにできているように見えるが、「トロなす」は熱で崩れて原形を留めていない。

そもそも「トロなす」は皮をむくのか? とか途中でGoogleで調べたりしているうちに時間が経過。調理時間20分の「カンタンレシピ」とあるのだが、実際は1時間以上かかっている。


ちなみに肝心の味の方は……


うんまぁぁぁい!


家で作ったとは思えない。おそらく食材は厳選された自慢の逸品で、しかもシェフのソースで味つけしているので失敗しようがなく、かなり美味しかった。

なお、レシピブックには「おすそわけ」ということで、「ラタトゥイユ丼」のレシピがおまけでついていた。せっかくなので、こちらも作ってみたのだが……


具材がドロドロに煮溶けた、手本の写真とは似ても似つかぬものができた。


ただしこのラタトゥイユもどきも、見た目はアレだが味は美味しい! 材料の「甘夏ミニトマト」というのをつまみ食いしたのだが、単体でも甘くて美味しいトマトだった。未知の食材に出会えるのがミールキットのいいところかもしれないな。


・レギュラーメニュー「Kit Oisix」

さて、先ほどの「おうちレストラン」、味は美味しかったのだが理想通りにできたかといえば消化不良である。実は今回の「おためしセット」には「Kit Oisix」というレギュラーメニューも付属している。リベンジでこちらも作ってみよう。

メニューは「ジューシーそぼろと野菜のビビンバ」「小ねぎとのり、豆腐の韓国風スープ」「たっぷりケールのチーズナッツサラダ」だ。

このキットも必要な野菜がすべて同梱されているほか、「必要な分だけ」のミニミニ豆腐や海苔、温泉たまごまでついている。自分で用意するのはゴマ油と中華ダシ、白米だけ。

豆腐や海苔なんて、もちろん大容量パックで買った方が安い。けれど、筆者の自治体でも「家庭ごみの中の廃棄食材」がたびたび話題になり、有効に使えていない人が相当数いることを示している。筆者も買ったはいいが、いつのまにか消費期限を切らして捨てる食材があるので耳が痛い。

すぐに気がついたが、こちらは「おうちレストラン」よりレシピが丁寧で「えのきをフォークでほぐす」というような下処理も解説されている。これは助かる! 「強火にする理由」のようなワンポイントアドバイスもありがたい。

「きのこって洗うの?」とか「芽が出たタマネギは食べられるの?」とか、初心者にとって料理とは石ころだらけのオフロードだ。歩いた経験が少ないから、1つ1つにつまずいてしまう。あらかじめ石ころを取り除き、道を舗装しておいてくれるのがミールキット。至れり尽くせりとはこのことだ。

さらに主菜のこの段階まで進んだら、副菜のこの作業をやるように、という手順の指示がある。ゲームブックのように「次は〇ページに進め!」「元のページに戻れ!」と指示があるのだ。

おそらく熟練者が自然にやっているだろう複数の作業の「同時進行」ができるようになっている。これだよ、これ! こういう情報が必要なんだよ!!

完成品を食べてみると……


こちらも、うんまぁぁぁい!


プラモデルを作るように、順を追って作業を進めていくのが好きな人なら、たぶん必ず完成できる。何事も理屈から入る筆者の性格上、ロジカルに作業を進められると料理も苦痛じゃない。かつ、新しい食材と出会うのも新鮮だ。なんか……料理、楽しいかも……!


・ミールキット、楽しかった

今にして思うと、作る順番が逆だった。レギュラーメニューの「Kit Oisix」はかなりの初心者でも順を追って作れるようになっている。一方の「おうちレストラン」はちょっとだけ上級者向け。少なくとも野菜の下処理くらいはさっさとできる人を対象としているのでは。

今回の「おうちレストラン」のお試し期間は終了しているが、公式サイトではたびたびキャンペーンを行っている。初めて注文する人のハードルを下げているので、気になる方はチェックしてみて欲しい。


自分で買い物するのに比べ、どうしてもミールキットは割高である。けれど、自分では決して買わないような食材に出会えることや、丁寧に手順を解説してくれること、そして料理の楽しさを感じられるのは意外な利点だった。

トロなす、ケール、ラディッシュなどは、普通に生活していたら我が家のキッチンには一生登壇しないであろう食材たちだ。指示どおりに動いているだけなのに、知らない味が生まれてくるのも面白い。

慣れてくれば本来の目的である「献立を考えなくていい」「買い物に行かなくてもいい」「時短」というメリットも享受できるだろう。苦戦もしたが、なかなかに楽しかった。


参考リンク:オイシックス・ラ・大地株式会社
Report:冨樫さや
Photo:RocketNews24.