古生物好きの皆さん、以前ネットで話題となった『リアルサイズ古生物図鑑 古生代編』を覚えていらっしゃるだろうか? ロケットニュースでも製作秘話や、製作陣が食べてみたい古生物についてインタビューさせていただいた図鑑である。斬新な見せ方で、単純に眺めるだけでも非常に面白く、個人的には全ての小学校の図書室に置かれるべきだと思っている。
あれからおよそ1年。彼らがまたしてもクレイジーな本を出したぞ! 『古生物食堂』というタイトルで2019年8月23日から発売されているものだ。出版元の技術評論社から献本いただいたものを確認すると、「各種古生物を料理したらどうなるのか……?」というテーマに基づき、ガチに味などを科学的に考察し、レシピまで載せているヤバい本だった!
・巻末がガチ
『リアルサイズ古生物図鑑』といえば、ナマナマしい3Dによる表現が魅力の一つ。それに対し、『古生物食堂』は漫画家の黒丸さんを起用。本書において、古生物たちはことごとく調理されてしまうわけだが、イラストのお陰でマイルドに表現されているのが特徴だ。
例えばアノマロカリスなら、「しんじょう揚げの甘酢餡かけ&みそディップとフィンの素揚げ」になっている。そしてそのレシピもマジに普通の料理本のような感じで、アノマロカリスの触手のほかに、例えば玉ねぎが何個とか、片栗粉がどれくらいとか、細かく掲載されている。
メインの食材が、アノマロカリスの触手である点を除けば普通のレシピブックである。しかし、得意な調理方法が燃やすかそのまま食べるかの2択な筆者的には、巻末付近の「古生物食堂 勝手口」と題された部分を特に推したい。
ここではレシピ内における「なぜそうしたのか」という疑問に対するアンサーが、参考文献と共に細かく書かれているのだ。そういった点から、著者や出版社がそう望んだか知らないが「現存しない生物を食材として使用した場合、どんな料理ができるのかを推測するための方法論」を体現した一冊……と言える気がする。
それゆえに、作品内に架空の食材を使った料理を登場させることが多い全ての創作活動家には特におススメだ。本書で実践されている科学的な根拠付けは、作品のリアリティを上げるのに活かせることだろう。
また「勝手口」では、レシピ作成に際して味などのモデルとなった、現代でも生きている「モデル生物」も紹介している。古生物を食材としてゲットするのは不可能だが、モデル生物ならワンチャンあるというもの。ある程度は本書のレシピで実際に再現可能なのだ。
・デスモスチルスのカレー
というわけで、勧める以上は実際にやってみせねばならぬというもの。今回は本書の176ページに記載されている「デスモスチルスのカレー」にチャレンジしてみることに。調理の様子にいく前に、まずはデスモスチルスについて紹介しよう。
デスモスチルスとは約1800万年前に生息していた哺乳類。世界で初めて化石が発見されたのは岐阜県だ。なお、本種を分類する基準となる標本(ホロタイプという、あらゆる標本の中で1番重要な標本)が国立科学博物館にて常設展示されているぞ!
・モデル生物
デスモスチルスについて簡単にお分かりいただけたところで、いざカレー作りである。「古生物食堂」によると、味のモデル生物となったのはトド。ということで、ネットでトドの肉をゲット。
他の食材は、にんじんやらジャガイモなど普通のカレーと大体同じである。ちょっと違うのが、なすとトマトが入っている点。また、ローリエ、クミン、コリアンダーなどが入っているところも本格的だ。しかも圧力鍋を使うと書かれている。
さてどうしたものか。筆者の調理スキルは壊滅的であり、調理器具も包丁と小さい鍋しかない。それどころか、家には冷蔵庫やら一切の調味料の類も無い。一応全力で調理に挑むつもりだが、スキルや道具的に難易度が高すぎて無理な部分は、創意工夫をもって簡略化も仕方ないだろう。
ということで……
……創意工夫の結果、ナスとトマトとカレーが先にできあがった。あとはトド肉である。レシピでは、ヨーグルトやらローズマリーなどと共に揉みこんで、冷蔵庫で3日寝かせるとある。しかし冷蔵庫を所持していないので、寝かすプロセスは省略。そのまま適当に鍋で肉を加熱することに。
ちなみに肉はかなり獣臭い。ヨーグルトとかローズマリーと共に寝かせるのはきっと臭いを取る目的もあるのではなかろうか。独特の甘ったるい臭いもする。そして焼いてみると真っ黒に。焦げているとかではなく、そういう肉質なのだろう。
これを各種ハーブやらスパイスもろともカレーにブチ込んでいく。混ぜる順番が違っても、最終的に入ってるものが一緒ならきっと大丈夫だろう……。え、駄目? そんなー。
ちゃんと途中でトマトも投入。ちなみにナスはもう随分前から白米の上でスタンバイしている。
そして適当にコトコトやって完成。これがトド肉カレー……いや、「デスモスチルスのカレー」である。
さて、味の方はどうだろう? 食べてみると……甘い臭いがする。これは好みが分かれるタイプだ。全体的にはやはり鯨に近い。食べる前の臭いも鯨っぽい。しかし、噛むと中からなにやら独特の甘みが染み出してくる。そして熊のような陸の獣っぽい臭みもそれなりにある。
陸の獣と鯨を足して2で割った感じ……だろうか? 自分でも作ってみようという方は、冷蔵庫で3日寝かせるプロセスは絶対やった方がいいと思われる。この肉の臭いは強烈なので、ジビエ系が苦手な人はどこまで臭みを消しても中々厳しい気がする。
しかし、もし本当にデスモスチルスがトド的な味で、その辺に沢山いるのであれば……やはりハントされていたと思われる。国立科学博物館にあるデスモスチルスの頭骨標本はかなりデカい。頭だけで筆者の上半身くらいあるのだ。全身からは結構な量の肉や脂が取れるだろう。
今回ネットで買ったトド肉は、それなりに肉に血が回っていた。こうなればどんな生き物の肉でも臭みは増すというもの。まあ北海道産の生肉だし仕方ない。もしいたるところで捕れて、新鮮な肉が容易に提供される環境であれば食肉化も待ったなしな気がする。
ということで、『古生物食堂』だが、中々こういうタイプの本は他に無いだろう。たとえ料理ができなくとも、古生物の肉質や味について興味がある方なら楽しめるに違いない。無論、料理が堪能な方で、ちょっと変わったものを作ってみたい……という場合には、モデル生物の肉を用いて再現を試みるのもアリだ。ホームパーティとかで出したらきっと盛り上がるぞ。
参考リンク:技術評論社「古生物食堂」、Yahooショッピング「トド肉」
Report:江川資具
Photo:Wikimedia Commons(©N. Tamura)/ RocketNews24.