マクドナルドの新作バリューセットが840円する時代。外食するならそれくらい払う覚悟を持っている人も多いと思うが、立ち食いそばはそんな現代人の強い味方だ。かけそば1杯290円とかザラである。

だが、店によって味にバラつきがあり、同じ価格でもハズレから大当たりまで存在するのが難しいところだ。外観からは味が判断できないため、ぶっちゃけ初入店は “賭け” と言えるだろう。そこで、本記事ではそば屋200店を食べ歩いた私(中澤)が大当たりだけをご紹介していきたい。なお、金額は取材当時のものである。

小伝馬町『おか田』

まずは、ベーシックな良店から始めたい。小伝馬町『おか田』はそんな重大な任務を見事果たしてくれることだろう

かけそば1杯300円、カレーライスセットで600円、かき揚げ天乗せても720円! まだマクドナルドの新作バリューセットより安い。しかもしかも……

単品でも満足するくらいそばもカレーもしっかり量がある。甘めのつゆもウマく、トロッとしてスパイシーなカレーとも相性抜群! 店内も綺麗で全ての平均値が高い。その走・攻・守揃ったバランス感覚の良さは、立ち食いそば界のイチローと言える。


小川町『韃靼 穂のか』

次に、そばがウマイ店と言えばこの店を外すわけにはいかない。個人的にそう思うのが小川町にある『韃靼 穂のか』だ。トッピングに天ぷらはなし。その時点で心意気のようなものを感じるが実際食べると納得の味

キリッと辛口のつゆと美しい十割そばがキレキレなのである。その鋭さはまさに抜き身の日本刀。バッサバッサと切り捨てるキレ味の鋭さは、立ち食いそば界のダルビッシュ有と言っていい。


四谷三丁目『音威子府TOKYO』

メニューが少ないと言えば、『音威子府TOKYO』も「ざる蕎麦(税抜き880円)」「たぬき蕎麦(税抜き980円)」の2種類しかない。840円以上するそばを紹介してしまって申し訳ないのだが、この店のそばにはそれだけの価値がある

なにしろ、ここの黒いそばは「日本一ウマイ」と言われる音威子府そばを東京に持ってきたもの。音威子府は旭川から2時間北上した秘境駅で、電車の本数も1時間に1本以下なので、食べに行く労力を考えたらこの店のコスパはめちゃくちゃ良い

ちなみに、私は、本場である北海道・音威子府でも食べたことがあるのだが、あの濃厚なそばの味が確かに再現されている。ただし、つゆの味は東京の繊細な味で、そばの持つ野趣味と見事にマッチ。その二刀流の共演は、立ち食いそば界の大谷翔平と言っても過言ではない。


浅草橋『ひさご』

とは言え、立ち食いそばの良さと言えば安いこと。そこで、安くて安定の味を発揮する浅草橋『ひさご』をご紹介したい。

https://instagram.com/p/BnSoEJ-h6c0/

濃厚な暗黒つゆは、意外とスッキリ飲める甘さもありウマイ。そんなつゆを存分に味わうなら、きつねそば(税込350円)がオススメ。つゆの色に染まりきった油揚げは噛むと「じゅわっ」と甘辛さがあふれ出す

350円台でこの染み入る味はまさに実力派だが、外観は素通りしてしまうくらい街に埋もれているのが玉にきずだ。地味でも味のあるこの店はマニアが好みそうないぶし銀。立ち食いそば界の和田豊だ。


人形町『きうち』

味があると言えば人形町『きうち』のいかゲソ天も噛めば噛むほど味がある。フタのように丼にかぶせられた大判のゲソかき揚げ天から旨みが染み出したつゆは、モチモチ麺と相性抜群。

素材の味を活かす濃すぎないつゆは食べれば食べるほどにウマイ! その流れに逆らわない自然なウマさは落合博満のホームランのようである。


飯田橋『豊しま』

この記事を書く時に、200店の中で印象に残っている立ち食いそば屋をまず考えたのだが、忘れられないのが飯田橋にある『豊しま』だ。「元祖 厚肉そば(680円)」のマンガみたいな分厚い肉は完全に主役。忘れられない! 忘れられるわけがない!!

しかも、そんな肉は箸で持ち上げるとホロッと崩れそうになるほど柔らかく甘辛い味がしみている。記録よりも記憶に残るインパクトを持つこのそばは、立ち食いそば界の新庄剛志と言えるかもしれない。


茅場町『がんぎ』

食感のインパクトで言うと茅場町『がんぎ』も捨てがたい。プチプチ弾けるスパゲティーのような麺はそばとは思えない食べ心地

だが、鼻に抜ける風味は間違いなくそばだ。その弾ける食感とそばの風味が濃厚なつゆと合っていてのど越しもグッド。個人的には新しい食べ物のようにすら感じる。そばの新たな扉を開くこの店……立ち食いそば界の野茂英雄か


入谷『山田屋』

そばと言えば、つゆの味を置いては語れないものだ。そして、個人的に都内で最強クラスのつゆの味だと思うのが、入谷の『山田屋』。

舌に染み込むようなコク深さは、立ち食いそば屋の “もさい” イメージとは無縁で垢抜け感のようなものすら感じる。磨き上げられた技術と研究が輝くような味。その美しさは、古田敦也の職人的な守備を彷彿とさせる。


六町『そば政』

最後に、個性派そば屋を。アクセス難易度の高さと気ままな開店時間から、近所の人以外の入店ハードルが異常に高い『そば政』だ。個人的には、北海道音威子府より食べるのが大変だった。

しかし味はそんな苦労も報われるレベル。真っ白なそばと肉の旨みあふれる赤みがかったつけつゆのハーモニーはまさに激ウマである。しかも、つゆの中には「ドーン!」とチャーシューも入っており、税込480円というのが信じられない。まさにレジェンド。立ち食いそば界の長嶋茂雄だ


──以上、店や味の詳細についてはここでは書ききれないため、気になる人は各記事でご確認いただければと思う。

気づけば、200回も続いていたこの連載。100回の時点で、「さすがに200回は無理だろ」と思っていたけど、続けることができたのはひとえに読者の皆様のおかげだと思っている。いつもお読みいただきありがとうございます。

そして、東京に200店舗も立ち食いそば屋があったことにビックリだ。一体、何店舗あるんだろうか? そば屋が続く限り今後も放浪していきたい。引き続きよろしくお願いいたします。

執筆:立ち食いそば評論家・中澤星児
Photo:Rocketnews24.
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