突然だが、あなたは東京に『六町』という町があることをご存じだろうか? つくばエクスプレスで荒川を越えた先にあるこの駅は、足立区の中でも「ほぼ埼玉」と言っても過言ではないくらいギリギリにある。都民でもこの駅がピンと来ない人は多いのではないだろうか

そんな駅からさらにバスに乗り換え埼玉に近づいた先にあるのが、伝説の立ち食いそば屋『そば政』である。そのアクセスしにくさにもかかわらず、マニアの間で高い評価を受けるこの店。一体どんな味なのか? そこで行ってみることにしたぞ

・入店ハードルがかなり高い

前述の通り、東京北部の端の端という立地かつ電車とバスを乗り継ぐため、近隣住民以外のアクセスが難しいこの店。その上、入店ハードルを跳ね上げているのが営業時間だ

なんと、この店は、月曜日から木曜日の7時30分から13時までしか営業していない。金・土・日・祝日が休みなだけでなく、平日の営業している日でも13時で閉店してしまうのである。

・行ってみようとした

というわけで、平日12時に向かうことに。秋葉原からつくばエクスプレスに乗り、北に向かうこと約20分、六町駅に着いた。ホームに降りると、薄暗い中に「六町駅」のパネルがぼんやり浮かび上がる。なんだこの不気味な雰囲気は!? 少なくとも北千住駅までは普通だったはずだが……。

それはさて置き、バスを探すと、六町駅のバスターミナルには6つのバス停があった。どれやねん……。店の住所は「南花畑4丁目14-2」だが、バスの停留所には「南花畑4丁目」はないようだ。

そこで、道行く人にこの住所に行くバスを聞いてみたところ、「1番のりばかも……」と教えてくれた。人は温かい。1番のりばに向かうと、バスは1時間に1~2本程度だった。ここ東京23区内だよね……?

ともかく、1番バスのりばから10分ほどバスに揺られ「花畑4丁目」で下車。完全に住宅街だが、こんな場所に本当に伝説の立ち食いそば屋があるのだろうか

グーグルマップを参照しながら住宅街をさまよう。だが、おかしい。目的地の住所にはついているのに、そば屋の気配が皆無である。人の流れもほぼない。う~ん(ウロウロ)……ん? ひょっとしてここか?

閉まってる! 12時の昼時ど真ん中なのに!! ひょっとして潰れてしまったのだろうか? しかし、調べてもそういった情報は出てこない。

・出直し

かわりに、「そばが無くなり次第閉店になるため営業時間より早く閉まることがある」ということが分かった。今日は売り切れたということか……。出直しである。


数日後、再びバスに揺られて『そば政』に向かう私。2度目ともなると、バスへの乗り換えもスムーズになり、11時前には店に着くことができた。さすがに今回は万全だろう。……と思いきや

ファ!? また閉まっとる! 以前の記事で、北海道の秘境・音威子府駅にある『常盤軒』に行ったが、その時より遥かに苦戦している気がする。都内にありながら入店ハードルは秘境レベルと言えるかもしれない。まさに幻(まぼろし)の店。

だがしかし、新しくわかったこともあった。それは店のすぐ近くに『足立車検場』というバス停があるということ。六町駅から竹の塚駅行きのバスに乗ったら、もっと店の近くで降りられるわけか。

・繰り返す夏の日

というわけで、さらに数日後の平日。前回の発見を生かし、今回は3番のりばからバスに乗る。窓越しに聞こえるセミの声、窓の外を流れる木々……このペースなら9時30分には着くだろう。

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セミ鳴いてる。3度目の正直

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だが、本当につぶれていないのだろうか? 立ち上る陽炎が不安気に揺れる。そんな陽炎の中を走るバス。どこかで見たような風景が流れていく。ひょっとしたらこの数日間は夢だったのではないだろうか。ずっと同じ夏の日を繰り返していただけなのかもしれない。私はバスを降りた。

眩しすぎる太陽。一瞬視界がホワイトアウトするように濁る。目を細めると、徐々に戻って来る足立区の街並みとセミの声。いつも閉まっていたシャッターは開いていた


あ、開いてるっ……! 思わずつぶやいた。扉を開けると、店内は人でいっぱいで、ほとんどの人が「冷肉そば(税込480円)」を一心不乱に食べている。まるで白昼夢のような光景にのどが鳴った。

・陽炎と既視感の向こう側

さっそく「冷肉そば」を注文すると、細く真っ白な麺がこんもり乗ったそばが登場。艶めかしいその光は、夏であることを忘れるほど涼しげで美しい。赤みがかったつゆをたっぷりつけて食べてみたところ……

口の中が涼しい。そう感じさせるほどののど越しの良さである。また、つゆは辛みと出汁と肉汁が絡み合うパンチ力のある味。


そんなつゆと繊細なそばのハーモニーが暑くなった体の芯に響く。ウマァ! こんなそばが480円で食べられるなんて……。


もっと食べたい! もっともっと食べたい!! 次々とそばをつゆにつけていると、箸の先にゴツッとした感触が。つゆの中に何かある? なんだこれ? 引きずり出してみると……

! 分厚い大ぶりの肉がつゆの中から発掘されたァァァアアア!! 肉そばの肉ってこれだったのか! マジで480円かよ!! SUGEEEEEEE!!!!!!!

もはや疑いようもない。この店こそ立ち食いそば界のレジェンドである! 陽炎と既視感の向こう側に高コスパすぎるそば屋を見た!!

・攻略情報

まとめると、もし店に行くつもりなら、月曜日から木曜日の9時30分頃までに来店することをオススメする。また、車以外で行くなら、つくばエクスプレス・六町駅から3番のりば発のバスに乗り、10分ほどの『足立車検場』で降りるのがベスト。

そうすれば、あなたも陽炎と既視感の向こう側へと到達することができるはず。入店ハードルは高いが、それだけの感動が待っているぞ! それではグッドラック!!

・今回紹介した店舗の情報

店名 そば政
住所 東京都足立区南花畑4丁目14-2
営業時間 月~木7:30~13:00
定休日 金・土・日・祝日

Report:立ち食いそば評論家・中澤星児
Photo:Rocketnews24.

▼美しいそばが艶めかしく光る

▼そば湯で割ったつゆも激ウマだった

日本、〒121-0062 東京都足立区南花畑4丁目14−2