そのラーメンを食べた瞬間、筆者はとてつもない無力感に襲われた。一体どうやってこの風味を表せばいいのか。自分の語彙ではとても追いつかない。曲がりなりにもライターの身であるのに、「説明など無理なので皆さん各自で食べるといい」という最低のコメントをしそうになる。

だがここはどうにか踏みとどまって、できる限りのレポートを試みようと思う。そもそも何故そんな状況に追い込まれたのか。きっかけは、「燻製(くんせい)ラーメン」という新しいジャンルの料理が食べられると聞きつけ、とあるラーメン屋を訪れたことだった。

東京・要町駅から4分ほど歩くと見えてくるのが、「KEMURI」の文字が踊る特徴的な看板を掲げた建物である。

何も知らずにこの看板を目にしていたら確実に驚いていただろう。「煙の業者だろうか」とあやふや極まりない推測をもてあそんでいたに違いない。目の前の建物こそが件(くだん)のラーメン屋「麺屋 KEMURI」。燻製ラーメンの専門店だ。

とはいえ当たり前のように書いているが、燻製ラーメンとはどんな一品なのか。その謎を探るべくやってきた筆者は、お店の中に踏み入るや、かぐわしい洗礼を受けた。店内に満ちる燻製の香りが鼻孔をくすぐってきたのだ。

いやが上にも高まる期待を胸に、券売機の前でしばし悩んだあと、「くんそば醤油(750円)」のボタンを押す。他にも「くんそば塩(800円)」や「くんそば煮干(900円)」などがあったが、初入店なので王道の醤油味を選択。

ラーメンを待つあいだも心地良い匂いに包まれていた。もはや私自身が燻製にされているような、「当店は注文の多い料理店です」と注意書きがあってもおかしくないような香ばしさだった。

当然ながら到着したラーメンもまた、比類ない香気をまとっていた。

底の深い丼の奥に、きらめくようなスープと具材が見て取れる。こういうタイプの丼に入ったラーメンでハズレを引いたことがない。いびつな経験則のせいもあって、麺を持ち上げる箸は勢いづいていた。

そして話は冒頭に戻る。1口目をすすった瞬間、打ちのめされたかのごとく身体が硬直した。どうすればいい。どうすればこの言いようもない風味を表現できるのかと。

なんとか表すとするなら、淀みなく爽やかな、それでいて鮮烈な芳香が吹き抜けていったような感覚だ。押しつけがましくなく、嫌味がないのに濃厚なスモーキー具合なのである。

店員の方にうかがったところ、スープに使われている調味料が燻製されているとのことらしい。細身のつるつるとした麺から絶妙に香りが立つ調整ぶりには恐れ入る。実に美味しい。

むろんスープそれ自体も絶品だ。すっきりと淡麗な味わいは、芳醇な燻製の香りとマッチすることこの上ない。おかげで丼の中身があっという間に空になった。

……と、ここまで言葉を絞り出してはみたものの、やはり最終的には「いろいろ書いても仕方ないので皆さん食べた方がいい。話はそれだけ」という最低の境地に落ち着いてしまう。どれだけ口の中で反芻(はんすう)しようと、うっとりするだけで適切な表現が浮かばない。

微力ながら、少しでも皆さんの足を引き寄せるような記事になっていれば幸いだ。筆者としても再び、いや幾度でもこの不思議なお店に足を運ぶことになる気がしている。煙のようにつかめない魅力を、ぴたりと表す言葉が見つかるその日まで。

・今回紹介した店舗の情報

店名 麺屋 KEMURI
住所 東京都豊島区西池袋5-22-2
営業時間 11:30~15:00、17:00~22:30
定休日 月曜日、第1・第3火曜日

Report:西本大紀
Photo:Rocketnews24.

▼「麺屋 KEMURI」の「燻製ラーメン」

▼香りが絶妙。スープも最高

▼チャーシューやメンマなどの具材も燻製されているもよう

▼卓上には味変用の調味料も用意されていたが、あっという間に食べ過ぎて試すのを忘れてしまった