人は誰しも悩みを抱えて生きるもの。世知辛い現代社会においては、「悩みなんて皆無だし快調の極み」という人の方が少ないだろう。それでも何らかの悩みのはけ口があればいいが、誰に打ち明ければいいか、どう解決していいかわからないという人も多いはずだ。

今回ご紹介するお店は、必ずや悩める人の一助となってくれるに違いない。その名も「寺カフェ」。なんと本物のお坊さんが常駐していて、人生相談もできてしまうカフェなのだ。実際に悩み多き筆者(西本)がガッツリ相談してきたので、その様子をご覧いただきたい。

・モダンでエスニックでワールドワイド

代官山駅から徒歩2分、駒沢通り沿いに「寺カフェ」はある。その情報をちゃんと下調べしてきたはずなのだが……

筆者は一度お店の前をスタスタと軽快に素通りしてしまった。「寺カフェ」という名前にとらわれすぎていたせいだ。外観からお寺の要素はうかがえず、むしろ極限まで代官山に溶け込んでいるオシャレ具合である。

しかしお店の中に入ると、モダンな雰囲気の中に仏像や仏画などの仏教テイストが混じり始める。心くすぐられつつ落ち着けるようなエスニックさだ。

現代人にとっては縁遠くなってしまった仏教の世界。お寺を訪れる機会も、お葬式や法要の時くらいのもの。そんな時代だからこそ、「もっと仏教を身近に感じてもらえるよう、お寺の方から出かけていこう」というのが「寺カフェ」のコンセプトである。

また、そこには「悩める人が気軽に訪問できる拠(よ)り所でありたい」という想いもこめられている。まさに「現代の駆け込み寺」だ。お寺の建物の中でカフェを開いているところはあっても、こうして一等地に店を構えているのはレアケースとのこと。

お店では「寺カフェ」ならではの食事メニューが楽しめるし、日替わりで駐在しているお坊さんに人生相談もできる。そのほかにも写経や数珠作りが体験できたり、夜にはお坊さんと話しながらお酒を飲める「坊主BAR」が定期的に開かれたりと、イベントはさまざまだ。

国内でも珍しい「寺カフェ」の試みに、ロイター通信などの海外メディアからの取材も多いという。日本人である身としては、なおのことその魅力を体感しておかねばなるまい。


・初めての人生相談と、心優しきお坊さん

さて、そんな「寺カフェ」でこれから実際に人生相談に挑んでいくわけだが……その前に少しだけ筆者自身についてお話させてほしい。

お恥ずかしいことに、無趣味・無特技・無職歴という「無」尽くしの男である私。「無の3段撃ち」の使い手であるがゆえに、悩みには事欠かない。コンプレックスを大量所持しているため、卑屈さも人並み以上だ。ちなみに人生相談は初体験。

そして今回相談を受けてくださるのは、浄土真宗本願寺派「信行寺(しんぎょうじ)」の現役の僧侶でありながら、「寺カフェ」の僧侶を統括されている三浦性曉(しょうきょう)さん。事前に相談を申し込んだところ、丁寧なご挨拶と温かな笑顔でこちらを出迎えていただいた。

三浦さんは僧侶歴40年のプロ中のプロ。それだけに相談を受けてきた経験も豊富で、内容としては恋愛に関するものや会社での人間関係などの悩みが多いそう。迷える筆者のことも導いてくださるに違いない。

大ベテランのお坊さんと向かい合ってカフェの席に座ると、身が引き締まるように感じた。やや緊張を覚えつつ、私は話を切り出した──。


「本日はよろしくお願いいたします。さっそく相談させていただきたいのですが……」

三浦さん「はいはい、何でしょう」

「私、趣味がないんです。初めて会う方とお話しする機会があってもあまり盛り上がらない、取っかかりゼロのツルツル人間なんです」

三浦さん「(笑)」

「無理に探すものでもないとは思うのですが、話の盛り上がる趣味があったら円滑に進むこともあるかなと……自分に合った趣味を見つけるにはどうしたらいいでしょうか」


いきなり己の中の空洞をさらけ出していく私。もし自分がこんな相談をされたら、「まぁ……いろいろやってみれば?」と片ひじをつきながら気だるげに返してしまうだろう。

しかし三浦さんは真摯(しんし)な顔つきで、「趣味に限らず、自分に合うものを見つけるのは難しいですよね」と前置きしてから、こう話してくれた。


「ですが趣味が広く、いろいろな経験をしていれば、やはり人生のうえでは力になると思います。おこがましい言い方ですが、私は流行りものと呼べるものは何でもやってきました。スポーツならテニスやらスキーやら……」


と、自分のさまざまな趣味を話しだす三浦さん。す、すごい……! 圧倒的な「無」で占められている私とはまるで対極……!


「突き詰めたものはないですが、反面、誰とでもしゃべれるようになりました。例えば『囲碁をやりますか』『将棋をやりますか』『音楽聞きますか』と言われても、何でも『はい』って言えるんです


「その方が得ですよね、人間関係も広がりやすい」と三浦さんは語る。まさしくそれこそが私の理想像だ。だが、その境地にたどりつくまでが難しい……と思っていたところに。


「まずは何か1つ、単純に自分のやってみたいことをやる。合う合わないは後からわかるわけです。やってみて、嫌だったらすぐやめる。それくらいの余裕を持ってやられたらよいと、私なりには思います」


そんな優しい提案を告げられる。さらに三浦さんはこう語りかけてくれた。


「毎日いろいろなことをやるんだくらいの勢いで、恐れずにやるのがいいと思いますよ。そうしたら1年365日、新たなことに出会えるじゃない。それがそのまま人生の糧(かて)になるかはわかりませんが、無駄なものだと気付くのもいいじゃない


おぉ、目からウロコのようなお言葉だ……! 「偉そうに言っちゃったけど」と付け足す三浦さんに、私は「とんでもないです」と返しながら、内心「プロだ……! 人生相談のプロ……!」と感動を覚えていた。


・まだまだ続く人生相談と、厳しくも温かいお坊さん

なんだか自分の世界がひらけていくと同時に、心を解きほぐされるような心地がする。しかし私の相談は無遠慮にもとどまるところを知らない。「すみません、あと2つくらいあるんですけど……」と打ち明けたところ、三浦さんは「いいよ」と寛容に応じてくれた。


「あの……こんなこと取材先の方に申し上げるのもどうかと思うんですが……私、今年の3月にライターになったばかりでして」

三浦さん「うんうん」

「それまでの経験も少なければ引き出しも少なくて、仕事は楽しいのですが将来どうなるかという不安もありまして……どのように頑張ったらいいでしょう


緊張も和らいできたせいか、規格外にフワッとした問いを投げつけてしまった。そのうえライターが取材先に弱音を吐くという前代未聞の構図。しかし三浦さんはこちらの目を見つめたまま、瞬時にピシャリと言い放つ。


「大きな目標がまだ見つからないのだったら、目の前のことからやればいいじゃない。大きなことはもうちょっと先で考えればいい」


自分でも耳を疑うようなフワフワな問いであったにもかかわらず、三浦さんの返答は真芯をとらえていた。


「自分の持ってる100%の力を120出すくらいの勢いで、目の前のことをやらないと。そうじゃないと周りは認めてくれない。『将来どうなるか』じゃなくて、『目の前の仕事をどうしよう』と考えればいい。特にあなたの場合、経験が少ないとおっしゃるなら、1つ1つが経験でしょ?」


何だろう、この初めての感覚は。タメになりすぎて怖い。今まで眠っていた細胞が目覚めていくかのようだ。「いろんな人に出会って、想いを聞いて、本当の自分を探しながら人生を歩んでいくのがいいと思いますよ」と三浦さんは付け加える。

出会い。その言葉に触発され、そしてきっと良い答えをいただけるだろうという確信のままに、私は最後の相談を口にしていた。


「あともう1つは、恋愛方面の相談なんですが……」

三浦さん「ええ」

端的に言って彼女が欲しいんですが、どうしたらいいでしょう

三浦さん「(笑) まあそれこそ……手当たり次第に行くしかないよね? 待ってたって来てくれないよね」

「そうですよね……」

三浦さん「女性と上手く行きたいというのは全く悪いことじゃない。だから堂々とすればいい。『あなたが好きです』って


超絶ドストレートなアドバイス……! 助言を求めておいて言えたことではないが、ビビリの私にはハードルが高すぎる……!


「うすうす感じていらっしゃるかと思うんですが、なかなか勇気が持てない人間なんですよね……」

三浦さん「まあちょっと控えめというかね。それがあなたの人格だから、悪いなんてことは決してないけど……ここに入ってきて挨拶した時も、『慣れないのかな』と思った。ディレクターか何かが別にいるのかなって」 


うっぐぅうううう!! ひ、1人です……! 1人で来ました……!!


三浦さん「あなたの『丁寧に』という気持ちはわかるけど、もうちょっと大きく構えた方がいいんじゃないかな」

「私のこと、『不慣れそうだな』って思われました……?」

三浦さん思いました。はっきり言って。いやね、腰が低すぎたのよ」


んひゃぁあああああ!! 見抜かれちゃってーら!!!!!!!


心の中で虚勢を張っておどけてみたものの、恥ずかしさはぬぐえない。出会いの瞬間から内なる卑屈さがバレバレだったなんて……! 今にも己の未熟さを責めようとしていた私に、三浦さんは激励の声をかけてくれた。


「自分のこと控えめだって言うけど、ちゃんとここに来てるわけだから、それなら堂々としてればいい。私は僧侶のプロですけど、ライターのプロじゃないんだから。要はみんな『誰か』になる必要はないわけです。自分をしっかり見つめていくことが大事」


いつの間にか恋愛の話からは離れていたが、三浦さんの言葉は人生の全てに通ずるものだった。誰かになる必要はない。自分らしく。そして堂々と。


三浦さん「誰かを目標にして目指すにしたって、その人になろうとするんじゃなくて、その人を越えていかないといけない……でしょ?」

「越える気概で頑張らないといけないですよね……!」

三浦さん「そうです。自信を持ってやっていったらいい。あなたはあなたでないと


私は私。そう声をかけていただいたおかげで、身体が軽くなったように感じた。確実に勇気も湧いてきている。いきなり変わることはできないかもしれない。けれど踏み出す一歩一歩が、昨日よりは少し先まで届くような、そんな予感がしていた。

ふと気付けば、相談が始まってから1時間が過ぎ、終了の時刻に差しかかっていた。三浦さんはこのあとも、別の方との相談予定が控えているらしい。

「本日はどうもありがとうございました」と心からの感謝をお伝えすると、三浦さんは「ぜひまたいらしてください。今度はお仕事じゃなしに」と笑顔を返してくださった。別れ際に、記念に2人で写真を撮らせていただくことに。

今日というこの日を、決して忘れることはないだろう。三浦さん、本当にありがとうございました。いただいた言葉を胸に、精進していきたいと思います……!


・美味しい料理とデザートと、そして教訓

相談を終えたあと、せっかくなので「寺カフェ」の食事もいただくことにした。

精進料理を含むヘルシーな御膳がメニューに並ぶなか、メインディッシュに選んだのは、ひときわヘルシーそうなブッダボウル(税抜950円)と呼ばれる料理。

レタスやアボガド、大豆、ひじき、おからにプチトマトなど、何種類もの野菜が詰まったサラダボウルだ。実はアメリカ西海岸が発祥で、野菜をたっぷり盛った様子がブッダのお腹に似ていることから名前がつけられたそう。お味噌汁とお新香もついてきた。

ボウルにスプーンを差し入れると、そのたびに色とりどりの野菜が顔を出し、さまざまな食感と味わいを楽しむことができる。美味しいうえに栄養価満点で、文句のつけようがない一品だ。

続いてデザートは、ユニークなメニュー名が目を引いた「寺ミス(税抜750円)」。

言わずもがな「寺」と「ティラミス」を合わせた命名であり、普通のティラミスとは違って、粒あんや黒糖が用いられた和風の仕上がりが特徴的。おまけにパフェ形式だ。

小倉粒あんと生クリームが溶け合った甘さはたまらない。ティラミスケーキと合わせて堪能できるのは何ともぜいたくで、とてもボリューミー。

「寺カフェ」ならではのメニューに舌鼓を打ちながら、私は三浦さんとの人生相談を思い返していた。こちらの悩みに対して最初から最後まで真摯(しんし)で、時に厳しく、それでいて優しさに包まれているような時間だった。

こんな厄介な客を受け入れてくださった三浦さん、ならびに「寺カフェ」のスタッフの方々に、改めて深く感謝を申し上げたい。

そして、この記事を読んで「寺カフェ」に興味を持たれた方は、仏教への関心度合いにかかわらず、ぜひ気軽に足を運んでみてほしい。ご紹介したようにお坊さんとお話しができるほか、それ以外のイベントも盛りだくさんで、美味しい食事まで楽しめる。訪れない手はない。

各種イベントは事前に申し込みが必要となるので、ホームページを確認しよう。きっと訪れれば優しく迎えてもらえるし、価値ある教訓を得られるはずだ。あの空間を体験した筆者からすれば、“自信を持って” 、“堂々と” おすすめできる場所である。

・今回紹介した店舗の情報

店名 寺カフェ 代官山
住所 東京都渋谷区恵比寿西1-33-15
営業時間 11:00~22:00(L.O 21:00)
定休日 年末年始

参照元:寺カフェ 代官山
Report:西本大紀
Photo:Rocketnews24.

▼モダンでエスニックな雰囲気の「寺カフェ」

▼お坊さんと気軽にお話しができる。大変お世話になりました

▼食事もめちゃくちゃ美味しい

▼デザートまで美味しい