チャイナの自動販売機ってーと、映画『マッドマックス』に登場しかねない、煤と埃、得体の知れぬネバネバした物体で幾重にもコーティングされた、どこか凄みのあるオンボロと相場が決まっていた。

自販機荒らしの本場である。動かないのは当たり前。当然、金を入れても商品は出てこない。資本主義は張り子の虎。騙される馬鹿が悪いあるね!──と思いきや、中華自販機は治安の良いシンセンや上海といった大都市で密かに普及し、機能面では日本のそれと遜色ないまでに発展していた。

中の商品に関しても、映画のチケットから医薬品、新鮮野菜に上海名物の上海蟹といった感じで独自の進化を遂げている。そして今回、偶然巡りあわせたのが「ワイシャツの自動販売機」であった。

なぜにワイシャツを自販機で買わねばならないの?

明日大事な商談なのにクリーニング出し忘れた! 課長に怒られちゃう! 深夜1時、右往左往する我らがサラリーマン……。そ、そんなとき、闇夜にぼんやり輝く蛍光灯の明かり。そう、パテパテに折り目のついた真新しいワイシャツが24時間、年中無休で買えてしまう時代になったのだ。

上海から数百キロ、世界最大の卸売市場「イーウー福田市場」のそこかしこに設置されたワイシャツ自販機。一着79人民元(972円)の表示価格に一瞬、激安感を感じるも、100均ショップでお馴染みのアイテムに、当たり前の如く15円だの20円だのという衝撃プライスがくっついている約束の地においてはぼったくりと言っても過言ではない。

それが証拠に、買ってる人を一人も見かけない。ただの一人も──

取材用に一着買ってみようかと思ったが、サイズが分からなかったのでやめた。たぶん、今年中に絶滅する予感大。買うなら今だ!
(取材・文=クーロン黒沢

▼お菓子感覚で並んだワイシャツたち

▼ちょっと微妙な柄も79元で絶賛発売中

▼サイズは事前にご確認を。試着はできません。

▼喧騒のなか、マシン周辺だけは静寂に包まれていた……