ザ・ブルーハーツの名曲、TRAIN-TRAINの歌詞にあるように、世の中は「いいヤツばかりじゃないけど、悪いヤツばかりでもない」と思う。さらに言えば、とんでもないクズ人間がいる一方で、仏レベルの人格者もいるものだ。今回は、私(P.K.サンジュン)が韓国で経験した、クズ人間と人格者の話をしたい。

・20年くらい前の話

あれはもう20年ほど前のことだろうか。私が韓国に留学していた頃の話だ。その出来事が起こったとき、私は留学から約1年が経過しており、たどたどしい韓国語がしゃべれる程度の語学力であった(ちなみに現在は超ヒドい)。

当時の私は日本から留学していた在日韓国人や日本人ばかりと遊んでおり、それは日本に帰国するまで続いた。遊ぶ……ではなく、実際のところは数人の友達と一緒に住んでおり、睡眠中以外は友達の誰かしらと顔を合わせるくらいの距離感。まさに私の青春時代である。

俺が住んでた下宿② 友達と3人でワンフロアを貸し切ってた。一番思い出深い下宿。

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そんな中、その出来事は起こった。日本での夏休みを終え、私がソウルの金浦(きんぽ)空港に降り立ったときのことである。

当時、夏休みなどの長期休暇明けで日本からソウルに渡る際は、いつも荷物がメチャメチャ多かった。なぜならば、韓国で手に入らないものを日本で大量に買っていくからである。お菓子などの食料品をはじめ、ビデオやCD、電化製品にいたるまで、韓国では買えないものを日本で調達していたのだ。

しかもこのときは、友人たちに “目玉みやげ” があった。横山光輝先生の漫画「三国志」全60巻である。ただでさえ荷物が多いのに、自分のため……というより友人たちに笑って欲しいがために、私は日本で三国志を全巻購入し、わざわざ韓国に持ち込んだのだ。

大荷物をトランクに放り込み、乗り込んだタクシー。答えを明かしてしまうと、このタクシードライバーこそがクズ人間である。私が行き先を告げると、彼は聞こえてないようなフリをしつつ、一向にメーターを上げようとしない。

今は知らないが、当時の韓国ではぼったくりドライバーが大勢いて、韓国語が怪しい我々はよくターゲットにされたものだ。なので「またか……」と思いつつ、タクシードライバーとつたない韓国語で対決することを決心した

私:「おじさん、メーターあげてよ。通常料金しか払わないよ。俺、道順も知ってるし」

ドライバー:「……じゃあ、2万ウォンでどうだ? いつもより早く到着させるぞ」

私:「いや、結構。俺は別に急いでないから。普通に行けば1万ウォンくらいでしょ」

イヤーな空気が流れる車内。日本円にすればたかだか1000円くらいの話だが、私は絶対に折れなかった。なぜなら、ここで私が引いたら “次の人” に被害が及ぶからだ。これは留学中ずっと守り続けた信念で、何度タクシードライバーと対決したかわからない。

ちょっと電車に乗って西面「ソミョン」にやってきた。ここもなかなか栄えとるがな。

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──話を戻そう。窓の外はからりと晴れていたが、車内は重苦しい空気のまま。私は高速道路を流れゆく、韓国の田舎町をぼんやりと眺めていた。……その時だった。

車がガタガタ揺れたかと思うと徐々にスピードダウンし、高速道路の路肩に緊急停止してしまったのだ。故障である。舌打ちしながら車外に出て、ボンネットを開ける運転手。……こちらこそ舌打ちしたかったが、私は車が動き出すのをひたすら待った。

10分ほど経っただろうか。運転手がエンジンをかけると、車は再び走り始めた。私は大人になり、むしろ空気を和ますつもりで「おじさん、もう普通料金で行ってよ?」と話しかけた……。するとタクシードライバーは、

「お前、さっき早く行く必要ないって言ったじゃないか」

……と切り返してきたのだ。

ウォッラァァァァァアアアアアアアアアアア!!!!!!!

ブチ切れた私は「止めろォォオオオオオ!」と咆哮し、そこまでの料金を叩きつけて車を飛び降りた。トランクから大量の荷物をおろし、高速道路の路肩を自力で歩き始めたのだ。しばらくして、後から追いついてきたタクシーが横を通る際、

死ねぇぇぇぇぇぇええええええええええええ!

と、絶叫した。理不尽に対する怒りと、韓国人としての情けなさが入り混じった心の叫びであった。

釜山着いた。結構田舎でビビってる。郊外なのかな?

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だが、高速道路のはるか遠くにタクシーが見えなくなる頃、私は徐々に焦り始めた。まだ目的地までは30キロくらいある。もちろん、高速道路のど真ん中でタクシーが捕まるハズがない。さらには、とんでもない量の荷物……。

「なぜ俺は三国志を買ったんだ?」

と自問自答しながら、トボトボと高速道路を歩いていた。荷物のせいで、歩みは死ぬほど遅い。だがしかし、タクシーを降りて15分ほどが経過したとき、奇跡は起こったのだ。

亀ほどのノロさで歩いている私の目の前に車が停車、中からタクシードライバーと同じ歳くらい(50代くらい?)のおじさんが話しかけてきた。下手くそな韓国語で事情を説明すると、おじさんは「とにかく乗れ」と言う。

先ほどの仕打ちを受けた直後なので、心の中には全韓国人を敵に回すような刺々しさもあったが、どう考えても高速道路を歩き切るのは不可能だ。おじさんにペコリと頭を下げ、私は車に乗り込んだ。

車中、おじさんは無言だった。私も行き先を告げたっきり口は利かなかった。車に乗り込んだ直後はやさぐれていた心も徐々に落ち着き、それはやがておじさんへの申し訳なさに変わっていった。おじさんの行き先は知らないが「偶然同じ街に住んでました」なんてことはないだろう。要するに私は「余計な手間」なのである。

とりあえず釜山に向かうことにしました。

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目的地に近づく頃、私はおじさんにどうお礼をしていいかわからなくなっていた。頭に浮かぶのはただ一つ、“金” しかない。別におじさんが金目当てだとは思わなかったが、きちんとお礼の気持ちを伝えるには、金しか考えられなかったのだ。

やがて家の目の前に到着し、大量の荷物をおろした後、私はおじさんに5万ウォンほど渡そうとした。普通のタクシーなら1万ウォンで済むが、それが私なりに出来る精一杯の誠意だったのだ。

しかし、おじさんは金を握った私の拳を上から両手で握りしめ、一言だけこう言った。

「韓国人みんなが悪い人間だと思わないで欲しい」

そう告げるとおじさんの乗り込んだ車は、にぎやかなソウルの街並みに消えて行ったのだった……。

俺の住んでた下宿。二階の右側の窓が俺の部屋。

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冒頭でお伝えした通り、世の中は「いいヤツばかりじゃないけど、悪いヤツばかりでもない」と思う。この日、私は相反する「クズ人間」と「仏のような人格者」の両名に、わずか1時間ほどで巡り会ってしまった。1998年の暑い夏、私がまだ19歳だった頃の話である。

執筆:P.K.サンジュン
Photo:RocketNews24.

▼2年半ほど韓国に留学していた頃の話だ。

俺が通ってた学校。見た目は当時と全然変わらない。

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