外を出歩く機会の増えた私(佐藤)にとって、今年の夏は危険だ。2024年7月29日には、栃木・群馬・埼玉・茨城・静岡で気温40度を記録しており、不用意に歩き回ることは難しくなっている。

戸外で仕事をしている人たちは大丈夫なのだろうか? たとえば、浅草・雷門前で客待ちをしている人力車の車夫たちは大丈夫なのだろうか? もしかして、彼らの服装は一般的な洋服よりも戸外で過ごすのに適しているのかも?

そこで車夫に、「暑い中でも快適に過ごせる服」について尋ねたところ、「結局それか」ってなってしまい、頂いたアドバイスを無視する結果になってしまった……

・屋外で1日中和装の仕事

先日私は、Amazonで「菅笠」(網代笠)を購入している。これが思いのほか快適であることに気づき、さらに巣鴨でもんぺも購入している。

「和装は夏を乗り切るのに向いているんじゃないか?」、1日中和装でいる職種の人に、意見を求めればきっとその答えがわかる。そう思い、浅草に来たのだった。


ここにはたくさん、1日中和装で働く人たちがいる。そう、車夫だ。


東京メトロ銀座線の出口から雷門の前にかけて、通りには大勢の車夫がいる。今まで1度も乗ったことがなかったので、彼らに注目することはなかったけど、話を聞こうと思ってよく見ると、みんな少しずつ格好が違うことに気づいた。

誰の意見が参考になるだろうか? 行きつ戻りつしながら、彼らの姿をよく見たところ、1人だけ私と意見が合いそうな人物がいた! その彼は菅笠(竹笠)をかぶっていたのだ。

「戸外を歩くには菅笠が1番」、そう確信している私と彼は気が合うはず! きっと良い意見をくれるに違いない。ってことで声をかけた。服のことだけを聞くつもりだったが、人力車の事情についても知ることができた


・人力車の事情

服の話の前に、彼から聞いた人力車の話をさせて頂こう。

彼の姿を正面から撮影したかったのだが、彼は個人で車夫をやっているために撮影NGだった。背中からならOKってことで、背面写真を掲載している。車夫にもタクシーのように個人があるとは知らなかった。

だが完全個人というわけでなく、「雅」という屋号の会社に所属している。使用する力車は見えるところになく、乗せてくれるように頼んだところ、「今、車をもってきますね。3~4分お待ちください」と言われたのだ。会社ごとにテリトリーがあって、彼らは路上に停められない様子。


実のところ、力車に乗るか迷っていた。というのは、観光コースが決まっていて、そのルート以外に好きな場所に連れていってもらえないと思っていたからだ。実際はそうではなく、時間内で力車が走れる場所ならどこにでも連れていってもらえる。ちなみに私は、20分5000円で依頼している。


彼の扱う車は「長崎人力車俥屋」のもの。長崎県で昭和51年から車曳(ひ)きと、人力車制作を1人で営む方の手掛けた車で、約200万円もする立派な車両だ。


背面には鳳凰が刻まれててカッコイイ!


タイヤにも特徴があって、多くの車はタイヤが横広とのこと。この車両のタイヤは縦長で、クッションがきいていて乗り心地が良いとのこと。でも少しパンクしやすいらしい。


これで祭りの衣装屋に案内してもらう。


・身も蓋もない……

佐藤「で、ぶっちゃけ何を着るんですか? やっぱ皆さん「鯉口シャツ」を着てるんでしょ? 涼しそうだし」

車夫「僕は着ないです。鯉口はすぐビショビショになって、気持ち悪いんですよね」


佐藤「じゃあ、そんなに向いていないと。今は何を?」

車夫「僕が着てるのは、うち(雅)のTシャツです。すぐ乾くので。エアリズムみたいな素材なんすよ」


佐藤「綿はそういう素材より乾きにくいと」

車夫「でも、鯉口の方がふさわしい格好ってのもありますけどね。あとは好みでしょうねえ」


佐藤「じゃあ下(下半身)は? それ半パンですけど」

車夫「これは「半ダコ(股引)」って言います。裾が膝上の股引ですね」


佐藤「短い方が涼しいですよね」

車夫「そりゃ長いよりは」


車夫「でもね、正直に言うとね……」

佐藤「正直に言うと?」


車夫「何着ても、暑いんすよ」


佐藤結局それか……。外にいる以上、暑さは避けられない……」


佐藤「あ、腹掛けはどうなんですか?」

車夫「暑いです」


佐藤「じゃあ外せば」

車夫「ダメなんですよ。着けてなきゃダメなんですよねえ、そういう決まりで」


佐藤「じゃあ暑さ対策としておすすめは~?」

車夫「しません」


いろいろお話をしながらも、お店についてもちゃんと説明してくれた。


車夫「永澤屋(新仲見世)は明治創業の老舗で「江戸一」ってメーカーのものはひと通り揃います。足袋や手ぬぐいも」


車夫「この通り(奥山おまいりまち)は、祭り用品ではなくステージ衣装が買えますね。まあ東洋館とかフランス座も近いもんで」


車夫「ひさご通りの奥に、祭り衣装ではよく知られる「あだちや」「絆纒(はんてん)屋」があります。僕のこの笠は、通りを入ってすぐの帽子屋さんで買いました。被り物もここなら何でもありますよ」


こちらが「あだちや」で……。


こっちが「絆纒屋」。隣り合う2つのお店はご家族なのだとか。「僕は絆纒屋さんの方を使わせてもらってます」というので、それなら私もこちらで買い物するとしよう。


佐藤「いろいろ教えて頂いてありがとうございました! アドバイス、参考になりましたよ!」


……とかなんとか言いながら、彼のアドバイスをガン無視した……。


・車夫のアドバイス、無視してしまった…

私が購入したのはコチラです!


Lサイズの「刺しゅう入り鯉口」(税込9800円)と「本ダボゴムズボン」(税込4300円)である。鯉口は濡れるって言ってたのに、忠告に従わなかったよッ!


鯉口は本来、身体にフィットした方がシルエットが良いそうだ。だから私の身体にはMサイズがふさわしい。けど試着したら、Lサイズの方がしっくり来たのでコチラを購入。


背面の「唐獅子牡丹」がカッコいい! それで気に入っちゃってね、アドバイスを無視したというわけ……。龍とか虎の刺しゅうもいいな~って思ったんだけど、チンピラすぎるので唐獅子に落ち着きました


股引はピタッとしたものを着用した方が粋とのこと。でも着るのが手間だし、そもそも涼しくはないらしい。そこで「ダボ着」と呼ばれるこのゆったりしたズボンを選んだ。

半パン(半ダコ)が涼しいって言われたけど、祭りでもないのに白い半パンはいてるおっさんがいたら、ちょっとアレじゃない?


このズボンは「腹当」付きで、そこにポケットが付いている。スマホ入れるのにちょうど良さそう。


ってことで着てみると……。涼しい! 両方綿素材100パーセントなので、肌ざわりが軽い!


汗はしっかり吸ってくれそうだけど、ベッチャリする可能性も否めない。


車夫さん、アドバイス無視してごめんね。とりあえず、コレを着て出かけてみたいと思います。お互い、熱中症には気をつけよう! また浅草に行ったら、お声をかけますね! ってことで、暑さ対策に祭り衣装はアリかもしれないぞ。部屋着としても良いかもよ!


参考リンク:NHKニュース永澤屋あだちや絆纒屋
執筆:佐藤英典
Photo:Rocketnews24
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