スマホ、スマホアプリ、スマホアクセサリー、歩きスマホ、スマホ依存症……そこかしこで使われている「スマホ」という身近なワード。
スマートフォンの略称であることは知っていても、なぜスマ “フォ” ではなくスマ “ホ” なのか、おぬし、気にならぬか? 気にならぬなら、ここまでだ。
ここでWikipedia日本語版「スマートフォン」を見てみよう。
この略語を初めて使ったのは、矢崎飛鳥だとされている。
そして、恐縮ながら、それは私だったりする。
・スマートフォンの歴史
日本でスマートフォンという言葉が広く使われ始めるのは、アップルがiPhoneを発表した2007年以降だが、英語の“smartphone”(ひと綴りである)は’80年代からその記述が確認されている。
スマートフォンの定義は曖昧だが、その時点から見て高機能な電話機を指すものとして間違いない。
ちなみに現在、英語圏では、たんに“phone”(フォン)と呼ぶことのほうが多い。
テクノロジー界隈を除いて、いちいち「スマートフォン」と言わないし、日本固有の略称「スマホ」は当然、通じない。
日本はガラケーの息が長かったので、一般的にも区別する必要があったのだろう。
・本格的にスマートフォンの時代が到来
かつて私は「週刊アスキー」で副編集長を務めていた。テクノロジー専門誌だったので、iPhoneが出る少し前から海外のスマートフォン(それはノキアやモトローラの製品を指していた)を紹介する機会がたびたびあった。
やがてiPhoneが日本で出て、Androidも登場し、いよいよ「スマートフォン」という文字が表紙や誌面を頻繁に飾るようになる。
──長くね?
そう切り出した編集長Mは、電車の中吊り広告を作っていた。その号の特集記事を見出しに列挙するわけだが、パソコン、自作PC、ケータイなどすでに略称が定着していた見出しの中に、いきなり「スマートフォン」はさぞキツかったろう。
特に中吊りは(本誌もだが)縦組だったので、文字を載せられる縦の幅(専門用語で “天地” という)が狭い。
ス
マ
|
ト
フ
ォ
ン
これに「最新」とか「徹底比較」とか文字を加えて見出しを作るとなると、とても1行に収まらない。キッツキツだ。
見出しは、目に飛び込んできてナンボの世界。完結さとインパクトが重要だ。「スマートフォン」と7文字入れていたらフォントが小さくなってしまい、目に飛び込んでこない。
そこで緊急会議が開かれ……なかった。
編集長Mと私、もうひとり一緒に副編をやっていたI君と3人で、ものすごくカジュアルにその場で話し合った。のちにそれが広く定着することになるとは、知る由もなかった。
編集長M「スマートフォン長げ〜よな」
副編I君「フツーに略すとスマ “フォ” だけど、なんか違うような……」
私「……あ、もう記事にスマ “ホ” って書いちゃっ……」
……そう、私はすでにスマホという語を何度か誌面に(ほぼ無意識に)用いていたのだ。おそらく感覚的に略したので、ほかの略称と迷った覚えはなかった。
編集長M「じゃスマホな」
話し合いは、1分かかってないだろう。ほぼ議論ゼロだったが、その場の全員がスマ “フォ” に違和感を示し、スマ “ホ” に同意した。
これだと縦組でも横組でも目に飛び込んでくるし、発音もしやすい。
イヤホン、ヘッドホン、インターホン然り、「フォン」が浸透しないのは、日本人が下唇を軽く噛んで「フォ」と発音するものがある際、それを「ホ」に置き換えがちだからと思われる(フォントは? フォカッチャは? というご指摘は無視します)。何より「スマホ」だと、たった3文字で済む。
ス
マ
ホ
天地も余裕だ。パソコン、自作PC、ケータイのどれよりも短い。「最新」「徹底比較」もドンとこいだ。
深くは考えなかったが、その流れは、ごく自然だった。ただ、あまりに自然だったので、我々3人は、その後しばらく、この日の出来事を思い出すことはなかった。
世間ではスマホ、スマフォ以外にスマホン、スマフォンといった略称が一時期、氾濫したが、徐々に淘汰され、スマホに統一されていった。
──そして、あっという間に10年の歳月が流れた。
日本人の大半がスマホを持つようになり、スマホという語はますます身近なものになっていた。
ある日、とある大学教授から編集部に連絡が入る。略称「スマホ」の語源を調べていたら、どうも初出が週刊アスキーの誌面らしい。言い出しっぺを知りたいのだそうだ。
あの日のやり取りがおぼろげに蘇る……。
編集長M「……たぶんアックン(私の呼び名)じゃね?」
副編I君「うん、アックンのような……」
私「……俺かなぁ……」
編集長M「じゃアックンな」
10年も経てば、記憶なんてだいたいこんなもんだ。初期のスマホ関連記事は、ほぼすべて私が担当していて、勝手にスマホって書いてたみたいだしアックンでいいじゃんとなり、それを機に正式に略称スマホ考案者=私ということにしていただいた。
以降、たまにテレビに呼ばれたり、アスキー退社後も様々なメディアで紹介していただき、親戚や知人が自慢してくれ、どなたかがWikiに記載してくれた(ありがとうございます)。
あくまで言語なので違うルートから定着した可能性も完全には否定できないが、いち早くスマホ時代の到来を察知し、スマホスマホと言い(書き)続けたことは間違いないので、ロケットニュース読者の皆様にも略称スマホがこんなふうに誕生した(説がある)と記憶してもらえたら幸いだ。
とはいえ、スマホの時代もこの先そう長くは続くまい。次に来るテクノロジーの略称・通称を生み出して、真の “メディア王” に おれはなる!!!!
執筆:矢崎飛鳥(ACCN)
Photo:RocketNews24