アニメ『名探偵ホームズ』が公開より40年を迎えた。小説『シャーロック・ホームズシリーズ』を原作にした、オリジナル作品である。

子どものころ学校に行くのが嫌で仕方がなかった記者は「帰ったらテレビで名探偵ホームズが見られる」と、当時は生きる糧(かて)のひとつにしていた。あれは再放送だったのだろうか(記者は現在36歳)。

推理小説色は薄い冒険活劇な感じで、基本的には1話完結。いずれの話も、ワクワクが止まらなかったことを覚えている。そんな『名探偵ホームズ』のデジタルリマスター版が、2024年3月22日より2週間限定で映画館で上映されるという。これは行かずにはおれまいよ。


・作品を知らなくても楽しめます

今回上映されるのは、全26話の中から選び抜かれた4作品。1984年に『風の谷のナウシカ』と同時上映が行われた『青い紅玉(ルビー)』『海底の財宝』。1986年に『天空の城ラピュタ』と同時上映された『ミセス・ハドソン人質事件』『ドーバー海峡の大空中戦!』だ。

制作に関わっているのは宮崎駿さんほか、錚々(そうそう)たるメンバー。そもそもこの作品はイタリアの国営放送からの発注を受け、東京ムービー新社(現トムス・エンタテイメント)が製作したTVアニメシリーズだ。

イタリアからの製作資金が途絶える等々のトラブルがあり、宮崎さんはシリーズ初期の6話のみ携わるかたちで降板したという。子どものころはそんな事情は知らずのほほんと楽しんでいたが、えらいことである。

大変な局面を乗り越えて世に放たれたであろう『名探偵ホームズ』に登場するキャラクターたちは、全員擬人化した犬。毎度モリアーティ教授とその部下たちが悪事を働き、ホームズが助手のワトソンとともにそれを阻止するという、わかりやすいストーリーだ。

今回映画館で上映される4話も例にもれずそのような話なので、今まで同作に触れたことがない人でも楽しめるようになっている。



・エモいとはこういうことか

同世代ばかりかと思いきや、劇場内には意外と若い人の姿が多かった。40年の時を経て映画館で上映されるくらいだ。幅広い層に刺さっているのだろう。

映画を見ながら「ああこんなシーンあったなあ」と全体を通して感慨深く、ちょっぴり懐かしい気持ちになる。意外にも話の内容はほとんど覚えていた。

それくらい記憶に残る作品で色あせない、と言えるかもしれない。そして昔は意識したことがなかったが、改めて目の当たりにすると宮崎駿さんらしさがとても濃くあらわれている。

例えば食べものの描き方、それを食べる登場人物たちの動き、乗り物に乗って駆け抜ける情景や、部屋の中の小物のひとつひとつ。

記者の世代が特にそうであると思うが、宮崎駿さんの作品は細胞に刻まれていると感じられるほどに、体の一部のようですらある。

故に、今回の4作品を見た時の “しっくり” とくる感じが尋常ではない。「これがエモいということか」と、普段そんな言葉を使わない記者が思ったりした次第である。


そしてこんなことを言うと、年長者はこれだからとため息をつかれるかもしれないが……。でも、手書き感あふれるアニメーションって、やっぱり良い。こうも温かくて柔らかい映像は、今ではなかなか見られないだろう。

古めかしさはないのに、どことなく郷愁を誘われる。『名探偵ホームズ』はそんな作品だったのだと、大人になった今だからこそ知ることが出来た。

冒頭に書いた通りで、公開は各館ごとに2週間限定。上映館も限られているので、最寄りの映画館情報を確認してから出かけてほしい。

あの時見ていた人も、はじめて見る人も、見ればホッと落ち着き、その世界の虜(とりこ)になるのではないかと思っている。

執筆:K.Masami
Photo:Rocketnews24.
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▼YouTubeで1話目が公開されているので、これを見てから行っても良いかも