今でこそ大手3社ばかりだが、かつては日本全国あらゆるコンビニエンスストアがあった。

特に地域限定のコンビニの中には 北海道のセイコーマートのように地元密着で発展したガラパゴス店や、個人商店がフランチャイズの皮をかぶっているだけの店もあり、個性豊かでマニアも多い。

──そんなローカルコンビニの生き残りが、今回ご紹介する「フジファミリーショップ 前山店」。愛知県豊田市、地元住民に愛される店の様子をお伝えしよう。

・懐かしさあふれるたたずまい

今回は目的地として訪れたため問題はなかったが、何も知らずに通りかかったらこの店がコンビニだとは気が付かなかっただろう。

黄色を基調とした装飾に、紺色のロゴ。タイムスリップした気分になるほどに、フジファミリーショップ 前山店は懐かしい雰囲気をまとっていた。


もともとはフジパンが本部として立ち上げたチェーン店なのだそうで、イメージとしてはヤマザキショップのような感じだろう。

しかしフジパンが撤退し、「フジファミリーショップ」の名前を掲げて営業するのはこの1店舗だけになってしまった(看板が残る商店や閉業後の跡地は残っている模様)。


──そう聞くと悲壮感があるのだが、どうやら一般的にイメージする「本部がなくなって取り残されたコンビニ」とフジファミリーショップ前山店にはギャップがあるようだ。


しばらく店舗の前で観察をしていると、10台ほどが停められる駐車場には入れ代わり立ち代わり車がやって来る。

お客さんは老若男女問わず、常連さんもいれば筆者のような観光客も多いよう。誰もがどこかウキウキした様子に見えるのは気のせいじゃなさそうだ。


なんていうか、ご飯の買い出しに来たっていうよりも 近所で評判のケーキ屋さんに来たみたいなテンション……とでも表現したらわかりやすいだろうか。

その様子を見ているだけで気になるし、もう観察を切り上げてお店に入っちゃおう。


ちなみに店の脇には、現代ではなかなか稼働している姿を見ることができない コカ・コーラのビンの自販機が設置されている。

買い物が終わったらコーラでも飲んじゃおうかな。


・あったか過ぎるお惣菜

入店すると、そこにはコンビニらしからぬ光景が広がっていた。

ポップはお手製が多く、商品はスーパー的なラインナップ。設備の古さは否めないが お客さんが多いだけあって活気がある。


特に目立っていたのはお総菜コーナー

購入時にホカホカのご飯をよそってもらえるという種類豊富なお弁当


単品のお惣菜も充実


「つぶコーンコロッケ」「いかげそメンチ」といったちょっと珍しいものも混ざる揚げ物コーナー


そして名物は、フタが閉まるまで入れ放題で税込500円の手作りカレー(ふたが閉まらない場合は608円)。


月~土曜日の14時以降は、お店で焼いているフワフワのワッフルも人気なんだとか。


驚くべきことに、店内のお惣菜やデザートはすべて自家製なのだそう。マジで身も心もあったけぇ。

「こんな店が学生時代に近所にあったら幸せだったのに……!!!!」と思わずにいられないや。


・お惣菜を食べてみた

吟味をかさね、今回購入したのはこちらの9点、税込1761円分だ。

・ワッフル4種(イチゴ&レアチーズ、コーヒー&チョコ、ブルーベリー&ヨーグルト、バナナ)
・揚げ物3種(唐揚げ×2、ホタテクリームコロッケ、いかげそメンチ)
・干し芋


ワッフルは甘さ控えめのフワフワな生地の中に、ホイップクリームとそれぞれの味のソースがみっちり。

ひとつでお腹も心も満足できるので、スペシャルな日の3時のおやつにおすすめだ。あと、朝ご飯にもいいかも。

個人的にはコーヒー&チョコが好きかな。こっくりとしたチョコペーストとほろ苦コーヒークリームは、背伸びしたいお子様にも喜ばれそうな味だ。



揚げ物は濃い口な味付けで、ご飯のおともやおつまみにピッタリ。


特にいかげそメンチは、かまぼこっぽいベースの中に練り込まれたげその食感が心地よい。

初めて食べたが、これは全国のお総菜売り場で売っても大人気になる予感がする。


そして干し芋は、昔ながらのホックリと素朴なお味

近年流行しているねっちり&ウエッティな干し芋からは外れているのだが、それが逆に心にじんわりと温かい感じがした。



・ビンの自販機でカンパイ!

──さて、話は戻って買い物後のこと。

お惣菜の会計を済ませた筆者は、ワクワクしながら店の脇の自販機の前に立っていた。


お目当てのコカ・コーラは130円。4枚の硬貨をゆっくりと投入してボタンを押すと、


「コトン」という音とともに扉の向こうにビンが転がり落ちてくるのが見えた。


ぶ厚い扉を開けて商品を取り出せば、購入完了!


当然のことながら、ビンの栓抜きなんて持ち合わせていないけど 大丈夫。

世代の方にはお馴染みかもしれない。自販機のボディに空いたこの小判型の穴を使うのだ。


内部に取り付けられたツメに王冠を引っかけ 力を加えると、


てこの原理で 驚くほど軽い力で栓が開いたぞ!


初めてビン自販機で買ったコーラを飲んだ感想は……

「うん、味はまぁ普通かな」

ただ ビンのぶ厚く冷たい感触はいつもよりもコーラをヒンヤリと感じさせてくれたし、歯が当たって「ゴチン」と鳴ったのもなんだか面白い。


飲み終わった後は、自販機の横に置かれたケースにビンを返すシステムになっている。

薄く水色がかったビンと赤色のケースのコントラストは、自分と同じようにジュースを買って飲んだ誰かの存在を教えてくれるみたい。

ほんのりと心に残った温かさが、買い物の時に感じた温度と似ている。



古いものが淘汰されていく現代、地元の方がずっと通い続けている “いつものお店” で、ひとつひとつ手作りで作られたお弁当を買って食べる。

……うっすらだけど、誰かから自分へ、自分から誰かへと人のつながりが続いていくような温かさと心地よさを感じた。

フジファミリーショップ 前山店では、きっと今日も明日も 誰かがお弁当を買ってホカホカのご飯を食べているのだろう。

変わらない日々のぬくもりを感じたくなったら、きっと筆者はまた豊田へ、フジファミリーショップへと足を運ぶ予感がする。

執筆:高木はるか
Photo:RocketNews24.



▼お店のロゴは「ffs」

▼店の脇には地域猫もいた

▼なぜか品ぞろえが良すぎてビックリしたカップ麺「ニュータッチ」のご当地店シリーズ

▼それに対して、文房具とお酒の品ぞろえは割り切りを感じて面白い


▼お菓子のチョイスも渋くてイイね!

▼干し芋はレジの横に陳列してあった

▼たばこだけでなく、葉巻も売っているニッチな品揃え

▼ロゴ入りの冷凍庫は貴重なのかも!?