『HUNTER×HUNTER』連載再開、およそ4年ぶりの新刊リリース、『冨樫義博展 -PUZZLE-』開催など、稀代の漫画家・冨樫義博先生の周辺がかつてない盛り上がりを見せている。

森アーツセンターギャラリーで行われている同展示会には350点を超える原画や資料が展示され、チケットの抽選販売が行われた日程も。最寄り駅の日比谷線・六本木駅コンコースでは柱巻き広告が注目を集め、写真を撮る人が絶えない。

もし筆者が念能力者なら六本木周辺にうずまく熱気を目視できるほどだろうが、東北の地方都市にひっそりと “もうひとつの聖地” があるのをご存じだろうか。


・冨樫先生の出身地、山形県新庄市

冨樫先生は山形県新庄市出身。

『名探偵コナン』の青山剛昌先生の出身地である鳥取県北栄町や、『こちら葛飾区亀有公園前派出所』舞台のJR 亀有駅周辺など、漫画を活かした街づくりの実践地は数あるが、新庄市はそれほど有名な観光地とは言えないだろう。しかし、実はゆかりのスポットが複数ある。

陸の玄関口となるJR新庄駅。ここには「かむてん神社」という小さな社(やしろ)がある。


「かむてん」とは、冨樫先生がデザインした新庄市の公式イメージキャラクター。見てのとおり天狗をモチーフとしており、新庄市の北東にある神室山の天狗伝説がもとになっている。

神社ではデジタルおみくじが引けるほか、商売繁盛の「COME店(かむてん)」や合格祈願の「COME点(かむてん)」のご利益があるらしい。

さらに、駅に隣接する「もがみ体験館」にはミニ漫画ミュージアムがある。


羽海野チカ先生など、新庄市にゆかりのある数人の漫画家とともに紹介されている冨樫先生。ゴンやキルアが描かれた日本的な祭りのイラストは不思議な世界観! 冨樫先生も小さい頃から地元の「新庄まつり」に親しんできたそう。

写真撮影は不可なのでお見せできないのだが、ここで必見なのが『HUNTER×HUNTER』の構想段階のキャラクターメモ。

鉛筆でさらさらっと描かれた「ラクガキ」とも呼べそうな1枚は、すでにしっかり『HUNTER×HUNTER』の原型となっており鳥肌ものだ。「あの壮大な世界が、本当にひとりの人間の頭の中から生まれたんだ」と実感できて身震いする。

東京で開催中の『冨樫義博展 -PUZZLE-』にも膨大な数の原画が展示されているが、人混みの中で白線を踏まないよう気を遣って見る原画よりも、誰もいないミニミュージアムで1枚の鉛筆画に向き合う時間は、比較できないほど濃密だ。

この展示コーナー、かつては「新庄・最上漫画ミュージアム」として大々的に展開していたらしいのだが、だいぶ縮小されてしまったようなのが少し残念。現在は多くが鉄道関係の展示になっている。

・静かなる聖地

もう少しPRしたら、新庄市は漫画の聖地として全国から人が集まる地になりそうなポテンシャルを秘めていると思う。しかし現状、地元自治体や観光機関の姿勢はそこまで積極的には感じられない。

少々もったいない気がするが、それゆえにファンが大挙して押し寄せるようなこともなく、新庄市にもゆったりした時間が流れているのかもしれない。


執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.