『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』終幕から1年。25年以上の長きに渡った我々の旅は終わったが、その余韻はたしかに心の奥に残っている。
このたび、同作をテーマとした旅行ガイドブック「るるぶ」が登場!
作品のモデルとなった実在の土地を1冊まるまる特集。おもなスポットは「第3村のモデルがある浜松」「第3新東京市として知られる箱根」「庵野監督の出身地・宇部」だ。
以下、劇場版を視聴済みであることを前提として、ネタバレ全開でご紹介したい。
・静岡県浜松市
ニアサードインパクトを生き延びた人々が自給自足の生活を送る「第3村」。
かつての同級生たちの立派に成長した姿に頼もしさを覚えるとともに、大人にならない(なれない)シンジやアスカとの対比が印象的だった。
大きな転車台(蒸気機関車を方向転換させる装置)がシンボルとなっている第3村では、客車を図書館や公衆浴場として活用している。寄せ集めのバラックで村人が暮らす様子は、戦後日本をほうふつとさせる。
正確なジオラマを作り、徹底的にカメラワークにこだわって映像化されたという第3村。モデルとなった場所のひとつが、静岡県浜松市の天竜二俣駅とされる。
現地の見学ツアーでは実際に稼働する転車台をはじめ、貴重な鉄道遺産が見られるそう! 鉄道員のための洗濯場や浴場にも第3村の雰囲気がある。
第3村ではレイの変化が大きなテーマだった。まさに生まれたばかりの赤ん坊がすべてを吸収するように、人間らしさを手に入れていくレイ。
苦しい状況でもたくましく生きる人々。加持リョウジが愛していた、土に触れて作物を育てるという根源的な喜び。トウジやレイの気配が、そこここに残っているような場所だ。行ってみたい!
・神奈川県箱根町
もうひとつの主要舞台が、第3新東京市の所在地である箱根。おもにテレビシリーズや「序」「破」で頻出するエリアだ。
芦ノ湖、大涌谷、仙石原など、地名を聞くだけでエヴァを連想する場所ばかり。地下の大空間にはジオフロントとネルフ本部があるはず。
本誌ではマップとともに作品舞台が解説されている。「序」「破」などとマークがつけられ、何作目に登場したか一目瞭然。芦ノ湖周辺は何体もの使徒との激戦地となったことがわかる。
「るるぶ」だけあって、周辺情報のページも充実。
なかには直接作品に関係するというよりは、「登場キャラと一緒に行くならここ」というような拡大解釈のページもあるが、旅行ガイドとしての実用を想定しているのだろう。
通常版のるるぶに比べると控えめだが、飲食店や温泉にも触れられている。ファンブックとしての側面と、実用的なガイドブックとしての側面。両者のバランスに配慮した誌面になっている。
・山口県宇部市
最後に庵野秀明監督の出身地でもある山口県宇部市。
シン・エヴァ最終作のラストシーンでは、唐突にも思える現実的な空撮風景に「あの駅はどこ!?」と世間がざわめいた。
それまでも実在の地名や風景はたびたび登場しているのだが、私たちの住む現実世界と完全に「リンクした」瞬間ではないだろうか。「あぁ、シンジはエヴァのない世界で大人になったのだ」と寂しいようなホッとするようなエンディングだった。
その舞台は宇部新川駅。周囲にもゆかりのスポットが点在しているという。「さらば、全てのエヴァンゲリオン」のコピーとともに線路が伸びるティザービジュアルも駅の近くがモデル地だそう。
テレビアニメの常識をくつがえす哲学的で難解な作品背景や、圧倒的迫力の戦闘描写で、20年以上も前に社会現象を巻き起こした同作。
ときに淫靡(いんび)な雰囲気さえ感じる人間ドラマは衝撃的だった。しかし旧劇場版の鑑賞後に筆者が抱いた感想は、おそらく多くの人と同じく「困惑」だ。
それから数十年。
筆者にとってシン・エヴァは、スッと腑に落ちる完結編だった。理解しきれない部分もたくさんあるが、すべてのキャラクターに終着点があったように思ったからだ。チルドレンはそれぞれの世界で生きていく。本当に「終わった」と感じた。
おそらくどこを旅しても、行く末を見守り続けた親のような気持ちで、温かくキャラクターを思い出せるだろう。いまこそ作品をめぐる旅に出てみたい。
・『るるぶエヴァンゲリオン』
『るるぶエヴァンゲリオン』(AB判・オールカラー80ページ・税込1430円)は全国の書店やEVANGELION STOREで取扱中。
上記では紹介しきれなかったが、作中に登場する鉄道車両のページや、レトロアイテムのページ(たとえばアスカが肌身離さない携帯ゲーム機「ワンダースワン」!)もおもしろい。
作品で描かれるのは架空の土地、架空の人物であるはずが、現実と結びつくような不思議な感覚だ。旅行に出かける予定のない人も、読み物として楽しい1冊。ぜひお手に取ってみて欲しい!
参考リンク:JTBパブリッシング
執筆:冨樫さや
Photo:PR TIMES、RocketNews24.