終わりましたね、エヴァ。ロケットニュース内でも見に行った方がいたようで、彼らの感想が記事になっています。そちらを見て、やっぱりエヴァはスゴいなと。

なぜなら、あちらで綴られていた内容が、私(江川)の見えたものとは違ったからです。近い世代のファンが見ても、感じることも見えることもそろわないという点から滲み出る奥深さ。きっと答えは視聴者の数だけあるのでしょう。

私にとって、エヴァで最も意識をひかれていたポイントは、常にシンジくんとゲンドウを中心に描かれる親子というテーマでした。というのも、めちゃくちゃ私的な話ながら、私の父親がゲンドウみたいだったので。

・シンジくんへの共感

私が初めてエヴァを見たのは小学校高学年くらいのころ。TVで夕方にやっていた時の話です。当時はシンジくんの味方でした。



確かに他のアニメと比較して、主人公にしてはかっこよくないと感じました。ですが、それ以上にゲンドウの重苦しく、やたらと試すようなことをしてきてとっつきにくい父親感が、自分の父親と重なる感じ。

また、強引に絡んでくるミサトさんがやや鬱陶しくも、でも慣れるにつれて、そう悪い気はしてなさそうな感じ。ほどよい距離感で接してくる冬月や、対等に接してくれる感ある加持さんのような他人の言葉の方が素直に聞けるところなど。

シンジくんの、彼を取り巻く大人たちに対する感じ方に、作中の登場人物の中では最も年齢が近いというのもあってか、共感が持てたわけです。

旧劇場版の終わり方も、個人的にはまとまっていて、それはそれで、そういう終わり方もするものだろうと思っていました。これについては、歳をとった今も変わりません。あれもまた、終わり方のうちの一つだと。


・大人の都合がわかる

そこから少し時がたち、次に新劇場版の「:序」や「:破」を見たのは、20代前半になったころ。ちょっとシンジくんにイラっとしたわけです。

シンジくんの状況に対し、大人たちの要求が強引で無茶すぎる点に同情の余地はあれど、もっと早く腹をくくれよと。メンタル弱すぎだろうと。

そして逆に、ネルフの大人たちの都合なんかの方に同意するように。まあ、「大人の都合」がわかってしまう年齢になったことと、まだ14歳なシンジくんよりも私の方が歳を取って、見え方が変わったわけですね。

また、20代あるあるではないかと思いますが、脱子供をした的な自覚から子供っぽさをやたらと軽視するというか、子供っぽさを容認する余裕がまだ持てていないというか、そういうのもあったかと思います。

そして「:Q」を初めて見たのが2012年。20代半ばです。一番強い感想は「ミサトさんちゃんと説明しろや!」という。そして「シンジくんも落ち着こうぜ」とも。

ただ、アンチWILLEとかじゃなく、シンジくんにDSSチョーカーをつけたりとか、その辺のリリンたちの心情と事情は分かってしまう。また「ネルフの目論見を阻止する」のが目的なら、シンジくん爆殺はアリだろうなとも。「やむを得ない犠牲」みたいな。

現実の社会でも、コミュニティのために個の犠牲を厭わないというのは、日常的に起きていること。集団の都合のための犠牲を当然と思えるようになった私からすると、ミサトさんがチョーカーの爆破スイッチを押せなかったことで、むしろ組織の長としての能力を疑問に感じました。

この時の私は20代半ばですから、精神が14歳のシンジくんとも、アラフォーのミサトさんとも歳が離れています。一番近いのが精神的には28歳なアスカでしょうか。でも、アスカもキレすぎじゃない? みたいなことを思っていました。


・全員わかる

で、いよいよシン・エヴァンゲリオン劇場版が放映されるとなった2021年3月8日。私の年齢はそろそろアラサー卒業で、アラフォーにシフトというところ。

シリーズを見始めた時にはシンジくんと一番年齢が近かった子供が、ミサトさんたちと年齢が近くなってからシリーズの終わりを迎えるところに、奇妙な感慨深さがあります。

直前にもう一度「:Q」を家で見て、そのまま初日の朝から映画館にて「:||」を見てきました。すると、こんどはミサトさんがシンジくんを爆殺できなかったことも、中身は28歳なアスカがキレ散らかしていたことも、納得できてしまったのです

「:Q」でのミサトさんのシンジくんへの接し方を納得できた理由については、ネタバレになるので伏せておきます。ミサトさんの経験と、シンジくんをどう見ていたかを察し、そりゃあ無理だよなと。ミサトさんはずっとシンジくんの味方だったんだなぁと、ちょっと泣けました。

アスカについては、28歳の自分がどうだったかを考えたら、ある程度納得できてしまいました。その年齢では、大人の事情を飲み込める程度のメンタルや、社会への恭順を身につけつつあっても、まだ少しトガったところがありました

自信や行動力なんかに満ちていた割に、無自覚ながらも自分の事で手一杯で、他を気遣う余裕や俯瞰的な視点を持てるほどの経験があったとは言えないなと。

だから「:Q」以降のアスカは、28歳としては多分普通か、むしろ立派な方だと、28歳をそこそこ前に通り過ぎた今になって思えるようになっていたわけです。そして、そう思えてしまうと、もはや否定はできません。


・ゲンドウとシンジ

で、ゲンドウとシンジくんです。本シリーズは、二人のこじれた親子関係がどう解決されるのかも、重要なテーマの一つだと思っています。旧劇場版ではゲンドウが心情を吐露し、シンジに「すまなかった」と言い残して死にました。

そして、基本的にはシンジくんの精神的成長をもって物語が終わる感じだったと認識しています。子供が成長して親に対する理解が深まり、それが軸となってこじれた親子関係に一応の決着がつく……的な。

「:||」では、この点が旧とは大きく違っていたように感じました。これは見た人がどうとらえるか次第であり、私に見えたものが唯一の解釈ではないということから、ネタバレにはならないだろうと判断して述べると、今回はシンジくんが成長し、そしてゲンドウも成長したのではないかと。

子供と親の両方が成長し、子は親の助けを、そして親は子の助けをもって相互理解が深まり、その親子それぞれの着地の仕方をする……と。そして両者が、それぞれの先に進んでいくわけです。


・こじれた親子関係

子供側の成長を軸になされた親子間の相互理解というのは、現実社会でも普遍的なものだと思います。子供は「あの頃は子供だったから」と。親は「お前、成長したな」みたいな。良い感じな「仲良し親子」になれるでしょう。

対して「:||」の解決スタイルは、両者が互いに相手から独立した立ち位置から、親子でありつつもより冷静に一人の人間としてお互いを見られるようになるスタイルではないかと。


親子という関係を経験した先にある、対等な大人同士というような。よく言えば互いを理解して尊敬し、過去に対して譲歩もした、悪く言えば親子としてはドライに見えなくもない、独特な関係性に行きつく感じ。

両方のスタイルに優劣はなく、むしろ向き不向きの問題だと思います。ただ、個人的に後者のスタイルは、より「こじれ度」が強い親子関係を解決する方法の、一つの理想像ではないかとも思うのです。

「こじれ度」が強いと、その後はどうやっても互いに遠慮が抜けないもの。例えば「オー!マイキー」みたいな、じゃれ合う系仲良しファミリーには、絶対になれない種類の関係性に変化していると思うんですよね。

「なれない」と書くと、そうなる方が理想的みたいな捉え方もできてしまうかと思いますが、それは違います。理想的な在り方そのものが、もう違っているのです。ですから、じゃれ合わなくとも仲違いしているわけではない感じ。

何にせよ、洗練された解決スタイルを、シンジとゲンドウに見せられてしまった。これは、ぎこちない親子関係の経験者にブッ刺さると思うんですよ。それこそロンギヌスの槍並みの貫通力で。

かく言う筆者もそのたぐい。冒頭で述べた通り、ゲンドウのイメージが私の親父に似てるんですね。特に若いころの。四六時中重苦しい雰囲気で、やたらと子供を試すようなことをして、恐ろしく不器用だったわけですよ。

子供の頃は当然嫌いでしたし、終ぞ得体の知れない苦手な存在でした。しかし今になると、そこそこ事情が見えてくるわけです。結局向こうも向こうで、こちらの事がわからなかったんだろうと。

でもそういう親父って、世の中にそこそこいると思うんです。ゲンドウは「苦手な親父」の典型的な例のうちの一つなんじゃないかなと。特に昭和生まれ世代。

幸い、うちの親父はゲンドウほど色々拗(こじ)らせることもなく、老いがもたらした柔和さもあってか、今ではずいぶんと丸くなりました。

そして私もトガりまくっていた10代は既に遠い過去。物分かりが少しは良くなり、今ではそれなりの関係に落ち着いています。

でも、28歳のシンジほど上手くはやれなかった。追い越したと思っていたシンジが凄く立派になって、追い越されてしまった感。


・晴れ渡った感

「:Q」まで見た段階では、マジにこれどうやって終わらせるんだ? と思っていましたが、蓋を開けてみれば本当に良い最後だったと感じています。

見終わってとても気持ち良かったし、綺麗にまとまっていて、これ以上は無いんじゃないかと言うほどしっくりきました。親子関係がこじれた経験がある一視聴者的には、感動の中に若干の苦味もあったわけですが、それもまた良しと。

心底晴れ渡った空みたいな終わり方で、エヴァが本当に終わったことを、どこまでも納得しました。でも年齢が違ったら、また違うのかもしれません。もしかしたらモヤっとさせられがちな世代も、あるのではないかと思うのです。

どの視点で見えたものが正しいとか、優れているとか、今更そんなものは無いのがエヴァ。23年前の旧劇場版以降、世界中のファンたちが散々やり合って、結局どこにも行きつかなかったのですから。全ては庵野監督の頭の中。

きっと世に公開される感想の多くは、すでにアラサー以上な「エヴァ世代」の人によるものでしょう。年齢と共にエヴァの見え方が変わってきた自覚を持つ私としては、世代別の感想も気になるところ。

例えば元のシンジくんと同じ、現役の14歳のエヴァファンの感想とて、それはおっさんの感想と同じくらい正しく、興味深いものになるのだと思うわけです。逆に還暦を迎えたゲンドウと同じ世代のファンの感想もまた同様に。

まあ、そういうのはブルーレイやDVDが出てからの方が、考察と共に多く出てくるのかもしれません。とりあえず今は……もう何回か見たいですね。

参考リンク:Instagram @evangelion.official
執筆:江川資具
Photo:RocketNews24.
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