ハゲを隠すため、私はこれまで数十万円を費やしてきた。高めのシャンプー、育毛剤、ヘッドマッサージブラシ、劇的変化を謳(うた)う薬、モニター全員が大絶賛している毛根復活マニュアル、スゴ腕の美容師、そしてAGA治療薬……。

最後のAGA治療薬が功を奏し、私はなんとかハゲ戦線で勝利を収めつつあるのだが、まだ完勝とは言えない。頭頂部を見ると、 “薄毛の息吹” がしっかりと聞こえるのが現状だ。

これはなんとかして隠したい。うまいこと処理して欲しい……と考えた私は、激安理髪店・通称1000円カットの前にいた。


なぜ1000円カットかというと、もしこの値段でハゲを隠してくれるのなら利用しない手はないと考えたからだ。ちなみに、私は今まで表参道の美容院に勤めるスゴ腕美容師にハゲを隠してもらっていた。


表参道から1000円カット。落差はすごいが、果たしてハゲ隠しテクに大きな差はあるのか。確かめるべく入店すると、いかにも “昭和の散髪屋さん” といった感じの椅子に案内された。続けざまに定番の質問。


親父さん「どうします?」


それに対して私は答える。


「このまま短くして欲しいのですが、頭頂部が薄くなっているので、出来るだけハゲを隠してもらえないかなと思いまして


親父さん「はい」


──私のわがままなリクエストに対して、顔色ひとつ変えずに承諾する親父さん。いかにも職人といった雰囲気に、安心感をおぼえる。これは期待できそう……と思いながら待つこと10分。仕上がりは……



さっぱり〜!


で、肝心の頭頂部はというと……



申し訳ない。私のハゲがひどすぎて、さすがのプロフェッショナルでも完璧なリカバリーは難しかったようだ。そもそも「無い袖は振れない」と言うように、無い髪は生み出せない。

私の頭頂部の具合でハゲ隠しをリクエストすることは、ノースリーブを振袖に仕立てろと言うくらい無茶な注文だったのかもしれない……と思ったそのとき!


私は気づいたのだ。頭頂部の髪の毛だけ異様に長いことに。こ、これは……



親父さんからのメッセージ! いや、愛!!


なんという粋(いき)な贈り物! いま、私の頭頂部には親父さんの優しさがしっかりと詰まっている!!

だから、私の頭頂部はまったく寂しくない。それどころか、しっかりと温かい。まるで、マッサージでも受けたかのように。そう、1000円カットの施術は “ホットヘッドスパ” 込みだったのだ。

こりゃあ数ヶ月後、また店に行かねばなるまい。そのときは、頭頂部の長い髪が今日より増えていると信じて──。

執筆:和才雄一郎
Photo:RocketNews24.

▼ちなみに、ビフォーがこんな感じで……

▼アフターがこちら

▼頭頂部のハゲ具合比較