私(佐藤)がロケットニュース24で記事を書き始めたのは2009年8月からだ。今年で13年目に入った訳だが、まさかこんなに続くとは思ってもいなかった。何しろ、過去の仕事はイヤになったらすぐに辞めていたし、サイト自体が10年を超えて存続するとは当時想像もしていなかった。
当サイトでは現在ライターを募集している。もしも応募しようと考えている人がいたら、13年続ける私が今思っていることが働く参考になるのでは? と思い、経験を振り返ってこの記事を書いてみることにした。
・はじまり
2009年7月28日15時、東京・新宿3丁目の追分(おいわけ)交番前で、当サイトの偉い人Yoshioと出会ったのがすべての始まりだ。当時、立ち上げて間もない当サイトは今と同じくライター募集をしており、面接で待ち合わせたのがこの日のこの時間だった。そこから私の仕事の歴史が始まっている。
その当時の私の状況は、経験もコネもないくせにライターで生きて行こうとしていた。当然仕事も収入もなく、究極のジリ貧状態で食事も不十分だった(人生最軽量の体重52キロ)。ワラにもすがる気持ちで応募し、晴れて外部ライターとしてキャリアをスタートした。
・働く上で有利だったこと
仕事を始める上で、いくつか有利に働いたことがある。先にも述べたようにライターとして活動しようとしていた矢先だったので、多少の執筆経験はあった。とはいえ素人レベルだが……。
10代の頃から書くことが好きで小説家を夢見ていたこともあって、文章を書くこと自体は得意(だと思っていた)。誰の目にも触れることのないノートの山がいまだに実家にある。とにかく書くことには慣れていた。
幸い、当サイトで現在も使っているブログソフトウェア「ワードプレス」の扱い方も知っていた。個人ブログをワードプレスで運用していたので、その点で指導を仰ぐことはほとんどなかった。
・仲間のおかげ
何より貧乏であるがゆえに、やる気は人一倍強かった! これで飯食える! その喜びで夢中になって記事を書きまくった。ちなみに当時はサイトもほぼ無名で原稿料も安かったので、昼夜を問わずに記事を書かざるを得なかった訳だが……。
今では不可能だが、月間100本近く記事を書いていたと思う。とはいえ数を優先しているので、記事の質はいちじるしく低く誤脱字満載。恥ずかしくて自分で読み返すことのできない代物だ。
ただただ必死だった。迷うことなく飛び込むようにして記事を書き続けた日々だ。
年を追うごとにサイトの認知は高まっていき、新しい仲間も増え、今では「昼夜を問わず書く」なんてこともなくなった。初期よりもはるかにゆとりを持って取材や執筆に取り組むことができている。
あの過酷な日々を振り返ると、今は本当に働きやすくなった。ひとえに、編集部の仲間や外部ライターのみんなのおかげだと思う。これからも新しい仲間を迎えて、それぞれが得意分野に専念していけることを望んでいる。
・「良かったこと」と「悩ましいこと」
さて、こうして振り返ると良いことだけが続いているように見える。また「遊んでるみたいに仕事をしていて、楽しそうな職場!」と思われることもしばしば。半分はそうと言えるけど、もう半分はそうじゃないと言っておこう。
ほかの職業と同じように、良いことばかりではない。もちろん悪いことばかりでもない。つまりごく普通の仕事であり、ごく普通の職場だと自負している。多少特殊な仕事ではあるけど、楽しいだけの仕事なんてない。うちだってそうだ。
参考までに、この仕事をしてきて「良かったこと」と「悩ましいこと」をお伝えしよう。
【良かったこと】
■なかなか会えない人に会えた
なかなか会う機会を得られない方々に会えるのは、この仕事の醍醐味の1つだろう。私がもっとも有難く思っているのは、日本を代表するロックバンド「人間椅子」の取材をさせて頂けることだ。20歳の頃にコピーしていたバンドにインタビューできたり、ライブを取材できるのは本当にうれしい! いまだにファンなので、夢みたいな仕事をさせて頂いている。
そのほかにも、カンニング竹山さんの番組(AbemaTV)や、安住紳一郎さんのラジオ番組にゲスト出演する機会を頂いたり。普通ではお会いすることのできない人たちに会えるのは、もっとも良かったことかもしれない。
■いけない場所に行けた
最近はコロナの影響で出かける機会は少なくなったが、県外や海外への取材も稀にある。
今までで印象に残っているのは、ポルトガルでマリオの格好をして街をゴーカートで走ったこと。そしてフィンランドでサンタクロースに「日本の恋人たちのクリスマス現象、何とかなりませんか?」と相談したことだ。それらの場所に行けるのも、この仕事ならではじゃないだろうか。
あとはお台場のフジテレビに27時間滞在したのも良い経験だった。取材という口実があるから、立ち入ることのできない場所に行ける。仕事冥利に尽きるというものだ。
■経験が仕事に役立つ
経験が仕事上でプラスになるのも、ウェブライターの特徴かもしれない。たとえば、43歳から続けているポールダンスは、「ネタになるかも?」と思ったことが始まりだ。やってみるとハードな運動でみるみる身体つきが変わって、結果的にダイエットに成功。さらに大会にまで出場してしまった。
経験が仕事になるという観点がなければ、ポールダンスに挑むことはなかっただろう。何をやっても「記事になるかも?」と思えば、ためらわずに挑むことができる。ある意味、仕事が後ろ盾になっている気がする。
【悩ましいこと】
■常に仕事のことを考えなければいけない
その気になれば、なんでも記事にできる。とはいえ限度がある。やみくもに記事にすれば良いというものではない。だが、初期はやる気があるがゆえ、貪欲ゆえに目に映るものを手当たり次第に書こうとしてしまう。
その結果、まったく気が休まらない。いつどこで何をしてても「あ! コレは!!」と考えるようになって、ものの価値を記事になるかどうかで判断してしまう。そうすると、突飛なモノにしか反応できなくなって、世の中がつまらなく感じ始めてしまう。
突飛なモノを見つけて「スゴイ!」と書くのは誰でもできること。そうではなくて、素朴なモノ・普通のモノを見て「これのここがこうスゴイ!」というのがやるべきことだ。
それができない自分はまだまだだと気づかされる日々。おかげでいつまでも気が休まらない……。
■自分のつまらなさにうんざりする
文章を書くこととは、詰まるところ自分と向き合うことだ。真っ白な画面に1文字ずつ打ち込むとき、自分の中で沸き立つ言葉を探す。その作業は自分との対話にほかならないだろう。
残念ながら10年以上続けても、心底自分のことを面白いと思ったことがない。やってもやっても、これで良いと思えたことがない。多少は自分を褒めるけど良い結果は長く続かず、また地道に自分の引き出しに潜り込んで、ふさわしい言葉を探す。
やればやるほど自分の本質的なつまらなさに気づくだけで、ほとばしるような新鮮な煌めきを見たことがないのだ。それでもやらなければ、仕事だから。自分に絶望している暇はない。仕事なんだよ。
■数年に1度訪れるスランプ
自分のつまらなさを突き詰めると、数年に1度のレベルで何かが大きく破綻する。「カタストロフィ」というヤツだ。絶望的な感情を飛び越えて、もはや1文字も出て来ない。何を書いても文章がよどむし、前後の文脈の整合性が取れない。スランプ、あるいは崩壊である。
今までに何度か経験し心底イヤになって、もう仕事を辞めようとさえ考えたこともあった。
しかし最近はその周期と度合が緩やかになって、「抗わない」というスキルを習得した。抗わずに過ぎ去るのを待つのみ。そんな時は自分を許す。いいんだよ~って。
以上が良いことと悩ましいことだ。貴重な経験ができる反面、執筆には悩む。その狭間を行き来するのがこの仕事だと私は考えている。
・熱意があるから
この仕事は「たのしそう」「ラクそう」と思われることが多い。実際楽しいこともあるけど、先に挙げたように続けていれば「悩みの沼」にハマって、度が過ぎると抜け出せずにモチベーションが下がることもある。
それでも立ち直って、いまだに続けていられるのには明確な理由があるからだ。
それは熱意。「伝えたい」という熱意。
きっと誰でも日常生活で悩んだり苦しんだり、憤ったり悲しんだりしているはず。その日常のネガティブな要素をささやかな笑いで中和したい。くだらないネタを提供して、ちょっとだけ気が楽になってもらえればと思っている。フフって笑わせたい。
10代の頃に何冊もノートを書き潰した頃よりは衰えたけど、それと同じ熱意を持って、自分の言葉で誰かがほんの少し笑顔になってくれれば嬉しい。本望だ。その熱意がいまだにあるから、辞めずに続けて来られたんだと思う。
・応募しようという人へ
これから当サイトで仕事をしてみたいという人にお尋ねしたい。
この先、ずっと文章を書き続けられるだろうか?
この仕事を通じて、明確にやりたいことを持っているだろうか?
「楽しそう」だけが動機になっていないだろうか?
この問いに即答できるのなら、ぜひともこちらのページから応募して欲しい。
もしできないのなら、今一度考えてみて欲しい。決して楽しいことだけではない。つらいと感じることもあるし、書けなくなる瞬間も訪れる。それを乗り越えられるかどうか、ちょっと想像して頂きたい。
ロケットニュース24のライターの仕事は、「自分たちが楽しむ仕事」ではなくて「読む人を楽しませる仕事」であると、13年続けてきた私は1人のライターとして思っている。こんな私でさえも、辞めたいと思ったことがあると覚えておいて頂きたい。
本稿は何も怖がらせようと思って書いているのではない。「思ったのと違う」と感じる人ができるだけ少ない方が良いと考えてつづっている。もしかしたらうちではないところでライターとして適正を見出す人もいるかもしれないので、ライター志望の方はさまざまなサイトに応募してみるのもひとつの手だ。
何より、伝えたいという熱意を大事にして欲しい。きっとあなたの言葉は誰かに届く。
執筆:佐藤英典
Photo:Rocketnews24