アニメや漫画・ゲームなどの2次元作品を原作とし、舞台やミュージカル化した「2.5次元」作品。2次元が大好きな筆者はそうした2.5次元作品を「物語やアクションなどを楽しむもの」としてテレビドラマなどと同じ感覚で、劇場へは行かず映像でのみ楽しんでいた。

2次元好きで2.5次元にハマり「キャラクターがいる」と劇場へ通う友人もいるが、正直理解できなかった。筆者にとって推しキャラは2次元であり、2.5次元は役者さんでしかないからだ。そんな筆者が人生初の2.5次元生観劇で受けた衝撃を、物語のネタバレ一切なしで書き残しておく。

・考えるより先に泣いた

筆者には大好きで敬愛している「推し」がいる。『刀剣乱舞-ONLINE-』というゲームの「水心子正秀」というキャラクターだ。どのぐらい好きかというと、推しが大きくプリントされた2メートル超のタペストリーを購入したものの、いざ部屋に飾ってみると格好良すぎて直視できず、大切に仕舞い込んでいるほどだ。

そんな推しが2.5次元作品に登場すると年始に発表された。その際、友人たちから「良かったね!」「動く推しが見られるよ!」と言われたのだが……正直に言うと、そう嬉しくはなかった。何故なら私が見たい推しは、動かなくともゲームの「イラストで描かれた推し」だけだからだ。

そもそも、筆者は幼い頃から人間の顔の区別が異様に苦手。そのためか、2次元キャラを素敵だと思うことはあっても、3次元の人間を見たときにほぼ「人間だなぁ」という感想しかわかないのだ。

とは言っても2.5次元作品に抵抗はない。好きな作品が2.5次元化された際は映像で、普段テレビドラマなどを楽しむ感覚と特別なにも異なることなく、画面の向こうの物語やアクション、衣装などを楽しんできた。そのため、今回推しが登場する作品も映像で楽しもうと考えていた。

ところが同じゲームを好む友人たちがあまりにも「映像と生とでは全然違う」「推しと同じ空間にいられる」と言ってくるので、それは役者さんのファン的な意見では? と思いながらも、まあ一度ぐらい生で2.5次元を楽しんでみるか……とチケットを確保しておいた。

そして迎えた、推しキャラクターが登場する「ミュージカル『刀剣乱舞』-東京心覚-」の公演初日。筆者が確保したチケットは公演2日目のものだったので、家で初日公演のライブ配信を楽しんだ。物語などはとても素晴らしく感動したが、当然これまでと同様「画面の向こうの物語などを楽しむ」ことに終始した。

人生初の2.5次元作品生観劇当日も、会場に向かいながら楽しみにしていたのは、ライブ配信で観たものと同じ物語を観てどのぐらい考察を深められるかと、生で見る推しキャラクターの衣装はどんな感じかな、ということぐらいだった。

会場に入って座席につき、ほどなくして開演時間になった。そして、舞台上に登場した推しキャラクターを演じる役者さんの姿を観て思ったのは「映像で観たのと同じ感じだな」ということ。なんだ、映像でも生でも変わりないじゃないか。少し落胆していると作品のテーマ曲が流れ──


突然、舞台上に推しが現れた。


何を言っているか全く分からないと思うが正直、筆者にも自分の身に何が起こったのか全然分からなかった。この瞬間、舞台上でテーマ曲を高らかに歌う役者さんは「役者さん」から「推しキャラクター」へと変わり、考えるより先に「推しがいる」事実に涙が溢れて止まらなくなったのだ。

テーマ曲を歌い踊る際にキャラクターらしい動きをしてポーズを取るからだろうか、歌い始めるまで舞台上の役者さんは「推しの衣装を着た役者さん」だったのに、もう「推し」にしか見えない。2次元だったはずの推しが画面という境界線のない空間に、確かに存在していた。

「キャラクターらしい動きをしてポーズを取る」と書いたが、実は筆者の推しはゲーム内で瞬き一つしない。衣装やポーズなどの異なるイラスト6種類が、場面や設定に応じて表示されるのみだ。そのため、役者さんはキャラの動きを再現しているというわけではない。

しかし舞台上で役者さんが演じている推しの一挙手一投足、殺陣に歩き方、表情や視線の変化にいたるまで、何から何まで「推し」そのものだと感じられたのだ。「画面の向こう」の世界だったものが、自分と同じ空間にやってきたようだった。

そこからは「画面の向こう」という線引きのない推しの姿を見て、頻繁に視界をにじませた。映像で楽しんだときと同様、物語そのものにも感動して泣いたが、ただただ推しが素敵すぎるというだけでも泣いた。推しの格好良さも可愛さも、舞台上であますところなく発揮されていた。

物語とライブの2部構成となっている作品のため、ゲーム内では歌や踊りと無縁な推しも、ライブパートではゲーム内に一切登場しないアイドルのような衣装で華麗に歌い踊る姿を見せる。にもかかわらず、そんな姿も確かに「推し」だった。ライブパートでも推しが素敵すぎて泣いた。

そうして同じ空間に生きて動いて喋る推しを3時間と少しの間泣きながら堪能し、衝撃的すぎる人生初の2.5次元生観劇は終わりを迎えた。本当に衝撃だった。なにせ、2次元の世界にしか存在しないと思っていた推しが、同じ空間に存在している姿を目の当たりにしたのだから。

しばらく放心状態で過ごし、劇場を出てとりあえず他のお客さんを真似て記念撮影をしてから駅へ向かい、階段を踏み外しそうになったり電車を2度も乗り過ごしながら帰宅した。そしてこの日の記憶を閉じ込めたくて、帰宅後はご飯も食べずにお風呂に入り即就寝した。

「映像と生とでは全然違う」──その通りだった。生で観劇するとカメラが捉えていない部分も観られる、というレベルの話ではなかった。「画面」という境界線を失った空間で観る「2.5次元」は確かに、2次元と3次元の境界をも曖昧にして「推しがいる」世界を見せてくれたのだ。

映像で「画面の向こう」の物語を楽しむのも良いが、映像では生で観劇した際の言葉にするのも難しいほど心動かされ、ただただ「推しがいる」と感動し涙するほどの衝撃は得られない。機会があれば、今後は可能な限り生での観劇を楽しみたい、そう強く思った。

参考リンク:ミュージカル『刀剣乱舞』-東京心覚-「刀剣乱舞-ONLINE」
執筆:伊達彩香
Photo:RocketNews24.
(C)ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会

▼素敵な方のおかげで、人生初の生2.5次元を存分に楽しめました。ありがとうございました!

▼映像より生の方が……とは言ったものの、映像は映像で楽しい。5月23日・大千秋楽公演の配信も楽しみにしております。

▼格好良すぎて直視できず今も仕舞われている、推しと推しの親友のタペストリー

▼推しのおかげで出会えた愛刀。世界を広げてくれる素晴らしい存在、推し……!