人と人とのあいだには、物理的な距離だけではなく、親密感や一体感といった心理的距離が存在する。話題のエヴァンゲリオンシリーズだって、他者との「心の距離」が一貫したテーマだったと思う。

JTBコミュニケーションデザインが行ったアンケートによると、テレワーク環境下で感じられる社長との距離は、4人に1人が「1万キロ以上」だという。日本ーパリ間か!

これは全国の経営者のみなさん、聞き捨てならないのでは。ほかにはどんな回答があるか、ちょっと結果を見てみよう。


・社長との心理的距離

全国の20代~60代、平均して週2日以上テレワークをしている男女1030人に尋ねた。

まずは社長との「気持ちの上での距離」を、物理的な距離や位置関係に例えてもらった。あくまでも心の距離だから、実際に離れているかどうかは関係ないぞ。従業員数500人以上という、そこそこ規模の大きな企業が対象だ。

結果、ごく身近に感じている人から、異星人ほどに遠く感じている人まで、だいぶバラけた。


・第1位 違う都道府県にいる(500キロメートルくらい)23.9%
・第2位 別の部署、別のフロアにいる(30メートルくらい)21.0%
・第3位 同じ都道府県内の別のビルや建物にいる(30キロメートルくらい)19.8%
・第4位 違う星にいる(4億キロメートルくらい)14.4%
・第5位 海を隔てている、違う国にいる(1万キロメートルくらい)10.8%


違う星(4億キロ)って……! JTBの分析では「地球と火星の距離に相当します」とさらっと流しているが、もはや意思疎通できる気がしない。


同社では第4位と第5位を合わせて、4人に1人が「1万キロ以上」と答えていることに注目。

とりわけ「違う星」と答える人は、リモートワーク日数が多いほど増えるという。ニューノーマルな働き方が、社長との心理的距離を遠ざける要因と推察している。

一方で筆者が気になるのが、少数派ながら「一心同体と感じる(0メートル)」「すぐそばにいる(1メートルくらい)」という人! 同じ部屋なのはもちろん、机もぴったり隣り合っているくらいの感覚だぞ。『釣りバカ日誌』って現実だったのか……。


・直属の上司との心理的距離

続いて直属の上司について尋ねると、「姿は見えているが、少し離れている(5メートルくらい)」「すぐそばにいる(1メートルくらい)」が多い。これは適度な距離といえるだろう。

「5メートル以内」でまとめると62.5%になり、社長に比べてグッと近くなる。さすがに「違う星にいる」くらいに感じられていたら、報告も連絡も相談も不可能だ。異星人とは仕事ができないからな。

ただし自由回答によると、新型コロナの影響で距離が「遠のいた」と感じる人もいれば、「近くなった」と感じる人もいる。

前者では「直接会う、話す機会が減った」「上司の感情が読めない・状況がわからない」「状況を理解してもらえない」など、上司と意思疎通できない切実な状況を訴える声が……。

一方で「オンラインなどでコミュニケーションの機会が増えた」「理解や思いやりを感じる」などの回答もあり、JTBでは「リモートワーク下でも心理的距離を近く保つ工夫が可能」と分析している。


・同僚とは距離が近いが、こじれる例も

同僚についてはだいぶ距離が近く、大多数が「5メートル以内」となった。ただし、自由回答ではやはり「遠のいた・近づいた」両方の意見があり、中には深刻な例も。

たとえば「オンラインの発言で、仲間の本音や微妙な心の内を知ることになったが、理解に苦しんだ。感覚の違いで、同僚だと思いたくなくなった」という回答。

在宅勤務中のつきあいは、家庭生活がチラ見えするなど、より「素」に近い自分が出てしまう側面もある。良し悪しがありそうだ。


・距離を縮めるポイント

上司や同僚らと距離が近いと感じる人ほど、仕事に対するモチベーションが高い、という結果も出ている。たとえ不仲ではなくても、距離があると「他人事」になりやすく、仕事上の相談もしにくいだろう。

テレワーク環境下で重要だと思うことを尋ねると、もっとも多いのが「雑談」や「対話」を求める声。方向性やビジョンを示す上層部からのメッセージも望まれている。

たとえば社長からの定期的なメッセージ発信、オンライン朝礼、1on1ミーティング、社内広報、チャットツールを使った雑談などが挙がっていた。

筆者も実感するが、周囲でBGMのように流れる会話は情報収集に本当に有益。とくに新人のときは、なにげない会話を聞き流しているだけで上司の方針や、こういうときはこうしたらいいのか、というヒントが得られたりする。それがないのは、正直つらい。

他方でただのおしゃべりだと、誰かが一方的に話していたり、興味のない私生活の話題だったりして、イライラすることもまた事実。なのでメンバーが共有できるセミオープンな業務用チャットツールが、ちょうどいいのかもしれない。

物理的な距離なら工夫次第で乗り越えられる。しかし心理的に違う星雲にいる人とは、やはり仕事がしにくい。せめて同じ国にいるくらいには感じたいと思う。あなたの会社はいかがだろうか。


参考リンク:PR TIMES
執筆:冨樫さや
Photo:PR TIMES、RocketNews24.