ちらし寿司、ローストチキン、鯛のおかしら……ハレの日のメニューは数あれど、やはりごちそうの代表格といえばステーキだろう。

レシピ動画サイト「クラシル」で、「人気ステーキ店のシェフが教えるスーパーのステーキ肉をお店の味に仕立てる方法」が好評だという。

見てみたら、筆者の常識を180度くつがえすようなアドバイスばかりである。普通に焼くのとどう違うか検証してみた。


・検証開始

動画に登場するのは青山のグリルレストラン「The Burn」の米澤文雄シェフ。家庭と同じ条件ということで、卓上コンロとフッ素樹脂加工のフライパンで実演してくれる。「店とは火力が違うから~」という言い訳はできない。

ちなみに動画はモランボン「ステーキソース」のプロモーションなのだが、筆者の目的は美味しいステーキが食べたい、ただそれだけである。一切の忖度(そんたく)なく検証するぞ。


筆者が「ステーキの焼き方」として知っているアドバイスは「早めに冷蔵庫から出して常温に戻す」「肉をたたく」「強火で表面を焼いて肉汁を閉じ込める」「何度も裏返さない(いじらない)」である。多くのレシピサイトで推奨されていることだと思う。

今回、同じ産地、同じ大きさの肉を2枚用意した。アメリカ産の肩ロース約250グラム、500円ちょっとの肉である。

まずは片方を、これまでの知識で下ごしらえする。すでに調理の1時間前から室温に戻してある。肉を軟らかくするため、包丁の背でトントンするぞ。

ところがシェフ流は、冷蔵庫から出すのは調理の直前でOK。ここは肉の厚みによって対応が変わるのだという。

「クラシル」のチャンネルでは同じ米澤シェフが、コストコの500グラムの分厚いリブアイを焼く動画もあるので、比較してみるとよさそう。

上段の、包丁でたたいた跡が入っており、若干平べったくなっているのが自己流の肉。下段のシェフ流は、冷蔵庫から出しただけ。たたかないし、スジ切りもしない。

それでは、温度や時間などの条件をまったく同じに揃えるために、2枚同時にいくぞ。一般家庭でも家族分を1度に焼くこともあるだろうしな。

シェフ流では油の代わりにバターを投入。「え、そんなに?」というくらい、結構大量に入れる。

詳しくは動画を参照していただきたいのだが、シェフ流はとにかく「何度も返す」のである。焼き肉でも「返すのは1度だけ」ってよく聞くし、何度も返すと「まず落ち着け!」って止められるが???

自己流の方はいつもの感じで、1~2回返すだけにする。


自己流では、フライパンに接している時間が長くなるせいか、心なし焼き色が強くついた。いずれにしても弱火~中火なので、焦げることはない。ジュゥゥゥと豪快に音が立つとかっこいいが、味を追求するなら音に惑わされてはいけないらしい。

普段ステーキで気になるのは、中まで火が通っているかどうかだ。お腹が弱いので生肉が怖い。

「まだか?」「もうちょっとか?」と曖昧に火を通している時間が長いし、なんなら包丁で切って中を見たい衝動にかられる。動画では火の通り加減を外から知る方法もアドバイスされていた。

レアだとイヤなので、今回は動画よりほんの少し長めの焼き時間で調理。その後、シェフ流では結構な時間、肉を休ませる。

焼きたてのジュージュー音に惹かれるから、これも普段はしないなぁ。流行りの立ち食いステーキ店でも鉄板が熱々なうちに食べたい。


・実際に食べ比べてみる

では、実食。表面の見た目はほとんど変わらず、見分けがつかない。どちらも美しく焼けていると思う。

しかし切り口は一目瞭然。自己流の方は外側も内側も区別がつかないくらい火が通って、中心まで茶色くなっている。室温に戻すかどうかで、火の通り時間がこれだけ変わった!

自己流の方は、マズくはない。が、やはり硬い。完全に焼きすぎたー!

バターで焼くことでコクが加わり、肉としては美味しいのだが、あごが疲れてくる。もし店だったら「これを食べるなら、もう1000円出してヒレにする」というところ。下ごしらえに手間をかけたのに、である。

一方のシェフ流は、ほどよく赤みが残り、ミディアムな焼き加減で美味しそう! そう、これがステーキの断面だよ!!

そして実際に軟らかい! まったく下ごしらえしてないよ!?

両者を比べると、散々たたいたせいか、あるいは加熱によるタンパク質の変化か、自己流の方は平べったい。一方のシェフ流はふっくらしている。繰り返すが、同じフライパンで、まったく同じ時間、同じ火加減で焼いたものである。


・目からウロコ

動画の方では「どうしてそうするのか」という理由も含めて解説されているのでぜひ見てみてほしい。もちろん調理法は1つではないし、いろいろなやり方があるからこそ、料理人の個性が存在するわけだが、少なくとも普段の筆者のステーキよりは旨かった!

今回の検証では、赤身の部分は文句なく美味しかったが、やはりスジやアブラが多く可食部が少ないのがスーパーの肉の残念なところ。次は筆者好みのヒレでやってみたら……レストランの味を超えてしまうかもしれない。


参考リンク:YouTube「【プロの技】人気ステーキ店シェフが教えるスーパーのステーキ肉をお店の味に仕立てる方法
執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.

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