
夏も近づき、書店では自由研究を意識した子ども向けコーナーが充実してきている。筆者も物づくりは好きだし、何かネタになることはないかと1冊の雑誌を手に取った。1924年創刊、戦前から続く子ども向けサイエンス雑誌『子供の科学』(税込770円 / 誠文堂新光社)だ。
パラパラとページをめくったら、その誌面に度肝を抜かれた。とても子ども向けとは思えない。といっても、内容がいかがわしいとか、暴力的だとかではない。書いてあることがまっっったくわからないのだ。筆者がアホなせいなのか、それとも子どもたちが賢すぎるのか、2020年7月号を例に、どんな内容だったかご紹介しよう。
・巻頭特集は「分子調理学」
筆者も「分子ガストロノミー」という言葉は知っていた。料理を「化学反応」ととらえ、経験や勘ではなく、仮説と実証で論理的に解析していく新しいムーブメントだと理解している。確か海外セレブを中心に流行したのではなかったか。
今月号の『子供の科学』では「料理のロジック」と題して分子調理学、分子調理法を紹介している。例えば卵料理を説明するキーワードは「タンパク質の熱凝固」「メイラード反応」「卵白の起泡性」……といった具合だ。長年の職人修行によって体得する「あんこ」の茹で具合も、顕微鏡で見ると「ちょうどいいタイミング」がわかるらしいぞ。
コラムでは「料理を式で表す」という試みが紹介されていて、固体・液体・油脂・気体と併存・分散・抱合・重層の記号を組み合わせて表現する。ラーメンは「(S1/W)σ(S2+S3+S4+S5+S6)」で、味噌汁は「(S1+S2)/ W」だそうだ。ドコノ国ノ言葉デスカ?
こんな高度な内容なのにも関わらず本文は全ての漢字にふりがな付き! これは一体、何年生を想定しているんだ!? 読者の未来が末恐ろしい……。
・自作パソコンでプログラミング
誌面では多くのページを「ジブン専用パソコン ラズベリーパイ」の特集に割いている。パソコンを組むには、別途オンラインストアでキット(税込2万8600円)を購入する必要があるが、完成すると文章作成やプログラミングができるらしい。
特集や連載ではジブン専用パソコンを使って行う実験や電子工作の例が多く紹介されていて、今月号ではプログラミング言語「Scratch(スクラッチ)」による「感染症拡散シミュレーション」を解説していた。
人に見立てたボールをランダムに動かし、陽性者が陰性者にぶつかると感染。治癒や死亡は考えず、全員が陽性になるまで続けるというごく簡単なシミュレーションなのだが、小さい頃からこんなことをして遊んでいたら、そりゃ科学好きな子どもになるはずだ。ちょっとうらやましい。
筆者は過去にスマホアプリを作りたいと思い、見よう見まねでJavaScriptをいじったことがある。プログラミングは「理系の仕事」というイメージがあるが、実際には文法に従って命令文を順番に積み重ねていく作業であり、作文に近いのではないかと思う。
一方で先日「動き続ける太陽に対して、どこに日よけを置いたらもっとも効率がよいか(=日焼けしたくない)」という問題で筆者はしばしフリーズした。位置や空間や物理を直感的にとらえる力、そしてそれを数字や化学式のような記号に変換してスッと理解できる力が、理系脳じゃないだろうか。別次元の住人かと思うくらい思考回路が違うと感じる。
・付録は安心のペーパークラフト…と思いきや
とじ込み付録はペーパークラフトのロボットだった。ああ、これなら安心、筆者でも作れる! 雑誌の付録としてはよくあるパターンだし、ようやく知っている場所に出たという感覚。
ガチャ○ンみたいな一見のんきなこのロボットには、風車や滑車、リンク機構などロボット工学の基礎が詰め込まれているらしい。風車部分はいろいろなパターンがダウンロードでき「風車の形や足の長さを変えると、動きがどう変化するのか、キミも研究してみよう」だそうだ。
市販品によくある「レーザーカット済みパーツ」というぬるま湯に慣れてしまった身には、イチから紙片を切り出す本当のペーパークラフトは少々面倒だったが、組み立て自体は簡単だ。
『子供の科学』では、接着は基本的にセロハンテープである。ボンドの方がずっと早くて強いのに……と思ったが、ハッと気がついた。おそらく何度も分解して、自分なりに改造するためだ! 現に顔パーツは、後から上位バージョンに作り替えられるようになっていた。
ボディの紙パーツはすぐにできたのだが、ロボットが歩行する機械部分を作るには#14と#30の輪ゴムが必要だという。
筆者は「ははーん」と思った。輪ゴムに規格があるとは知らなかったが、普段から手芸はやるので、テグスや針金のようにナンバーでサイズを表していることは察しがついた。
#14は家庭でも使う一般的な輪ゴムサイズのようだったので、#30の輪ゴムを買いに行こう。図解では雑誌の付録なんかを留めている平ゴムのように見える。どこの家庭にもあるわけではないが、珍しいというほどでもないので入手できるだろう。
……が、100円ショップにはなかった。書店の文房具コーナーにもなかった。かくなる上は、とホームセンターに行ったところ、確かに輪ゴムがズラっと並んではいたが、説明書にあるような#30で幅2.5mmなんて商品はない。それどころか「#270」「#370」など、明らかに桁の違う商品が並んでいる。
後でググって理解したが、輪ゴムのナンバーは「折径(おりけい)」という長さのようなものを表しており、#30は折径120mmを意味する。それと切幅をかけ合わせ、多種多様なサイズが展開されている。ロボットに必要なのは切幅2.5mmという細いもので、一番近いのは#310の3mmだと思うのだが、ホームセンターでは扱ってなかった。
さらに調べるとアイ・ジー・オーというメーカーから、ずばり「折径120mm × 切幅2.5mm」の業務用輪ゴムが出ていることがわかったのだが、ネットショップでは500gで1045円……本誌より高いじゃないか! しかも500gも輪ゴム要らん!!
詰んだ……。
こんなニッチな材料を指定してくるとは、あなどれない……。KoKa(コカ=子供の科学)読者のみんなには#30は常識なのか。
あきらめの悪い筆者は、20mmほど長かったホームセンターの#370の輪ゴムを切って縫い合わせ、滑車に使ってみた。
見た目はちゃんとできた。どこか愛嬌のある可愛いヤツだ。
サーキュレーターなどで風を当てると背中の風車が回り、滑車と連動して6足歩行するはずなのだが……
ただ風圧で吹っ飛んでいくガチャ○ンができた。
・日本の未来は安泰だ
子どもの「理科離れ」が指摘されて久しいが、このような雑誌が毎月発刊され、読んで理解している子どもたちがいるという事実に、筆者はただただ驚嘆した。読者ページでは「Unityに一歩を踏み出せないです」という小学6年生の悩みや、「ジブン専用パソコンを買います」という小学4年生のおたよりが紹介されていた。彼らがいる限り、日本の未来は安泰である。
冨樫さや












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