「殺生丸には、娘がいる」────衝撃的なコピーとともに発表された『犬夜叉』の続編アニメ『半妖の夜叉姫』。放送は2020年秋、原作にはないアニメオリジナルストーリーだが、高橋留美子先生もメインキャラクターデザインで参加している。

今さら説明するまでもないが、『犬夜叉』は1996年から2008年まで『週刊少年サンデー』に連載され、アニメ化もされた人気漫画。連載開始は実に24年前、連載終了からも10年以上が経過している。

しかし、いま読んでみてもまったく色あせない面白さがある。新情報を待つあいだ、原点『犬夜叉』の魅力に迫りたい。原作を読破した方には問題ないが、未読の方には微量のネタバレがあるので留意して欲しい。


・おどろおどろしくも目が離せない世界観

舞台は魑魅魍魎が跋扈(ばっこ)する戦国時代。『うる星やつら』『らんま1/2』とコメディタッチの作品を連載してきた印象からすると、意外なほど殺伐とした世界観だ。

しかし実は「人魚シリーズ」(食べると不老不死になるという人魚の肉をめぐった読み切りシリーズ)のような “伝奇・怪奇もの” は高橋留美子先生の真骨頂だと筆者は思う。仏教や神道、陰陽道をベースにした妖怪や呪術の表現もリアルだ。

それでいて「るーみっくわーるど」らしい軽妙なボケとツッコミは健在。コミカルとシリアスを変幻自在に使い分けるストーリー展開がすごい。その呼吸はセンスとしか言いようがない。天が遣わした漫画の神である。


・女の子が可愛いすぎる

誰にも真似のできない「ボディライン」を描ける漫画家がいると思う。例えば貞本義行先生の少年少女、永井豪先生のグラマラス美女、武内直子先生のセーラー戦士などなど、見ただけで「◯◯作品だ」とわかるようなライン!

高橋留美子先生の描く女性キャラクターには「女の子の可愛らしさ」が凝縮されている! 立っていても座っていても可愛い。詳しい描写は控えるが、特に入浴シーンの魅力には異論ないと思う。

ラムちゃんも女らんまもスタイル抜群で可愛いけど、戦国時代をセーラー服と自転車で駆け抜けるかごめのビジュアルはもう完璧だ。こんな女の子に生まれてきたかった……と涙が出てくる。


・コマの細部にまで宿る圧倒的画力

バトルシーンの迫力やキャラクターの描き分けの妙は今さら言うまでもない。すごいのは1コマ1コマの細部だ。

ご自身でも「1 コマの中に情報量が多いって、それはよく言われます」(野田サトル先生との対談)と述べているが、例えばコマの中で会話をしていない、つまり完全に背景と化しているキャラクターにも、表情や動きが細かく描き込まれている。

見ていると、このキャラこんなことしてたんだ、と発見が尽きない。例えば日暮家で飼われているブヨ(猫)なんて、特に秘密も役割もないモブに近いような存在なのだが、「ここにもいる!」「このコマにもいる!」と追っているうちにすっかり好きになってしまった。

こんな細かい演出も、作者のキャラクター愛があってこそ。見えていないところにまで世界が広がっているのを感じて嬉しくなる。


・ちょっと大人なラブストーリー

るーみっくわーるどで描かれるロマンスといえば、すれ違いと意地の張り合い、そしてビンタで出来ていると言っても過言ではない。お互いに憎からず思っているのは明らかなのに、あと一歩のところで関係が進展しない。も〜読者はじれったくてじれったくてヤキモキさせられるのだ。

しかし、『犬夜叉』の登場人物たちは、比較的素直に相手に好意を示し、「いい感じ」になるシーンも多い。見ていてドキドキしたり、ほっこりしたりもする。

しかしその分、嫉妬だったり未練だったり独占欲だったり、ドロドロした感情がリアルに描かれる。弱く醜い人間らしさとどう折り合いをつけるかが、かごめと犬夜叉の恋愛のテーマである。相思相愛の「その先」が描かれる、と言ってもいいだろう。

そう、恋愛って「その先」が大変だよね……。両想いはゴールじゃないんよ、スタートなんよ……。


・描いているのは人間の業(ごう)

作品全編を通して描かれるのは妖怪との戦い……なのでカテゴリーとしてはバトルアクション漫画なのだが、真のテーマは人間の業(ごう)であると思う。

やはり象徴的な存在は野盗・鬼蜘蛛(おにぐも)だ。悪事の限りを尽くしてきた彼は、人生の最後に瀕死の重傷を負ってサブヒロイン・桔梗(ききょう)にかくまわれる。看病を受けながら寝たきりの鬼蜘蛛が抱くのは、感謝でも悔悟でもなく、あさましい劣情だ。怨念とも執念ともいえる負の感情から妖怪化し、宿敵・奈落(ならく)になっていくのだが……。

鬼蜘蛛の恋慕の情は、作中のあちこちで顔を出し、伏線が回収されていく。同時に、その執念も元をたどればささやかな願いであったこともわかる。

もう1つ、印象的なのが白心上人のエピソード。メインのストーリーに深く関わる人物ではないのだが、徳の高い僧侶が村のために即身仏になることを決める。しかし、生きたまま土中に埋められて初めて後悔し、村人を恨む心で命を長らえる……という話。

暗く身動きもできない土中でただ1人きり。地上では村人たちが鐘の音が絶えるのを待っている。狂わないはずがない。

そんな「人間なら誰しも持ってしまう仄暗い感情」を軸に物語が紡がれる。メインキャラクターの明るさと、合間に挟まれるコメディパートのおかげで決して暗くはならないのだが、考えさせられるエピソードも多い。


・新作アニメは

新作アニメは犬夜叉と殺生丸の子ども世代の話であることが明かされている。犬夜叉の異母兄である殺生丸は、めちゃめちゃ強い純血の妖怪で、かつ冷酷で人間嫌いの孤高の存在だった(少なくとも物語前半は)。原作中には殺生丸が誰かと恋愛関係になるような描写はなかったこと、また「半妖」であるということは母は人間の女性と考えられることから、冒頭のコピーはファンに衝撃を与えた。

また、主人公たちは「親を知らない」という設定も匂わされていて、疑問や関心は尽きない。どんな展開になっていくのか、楽しみに続報を待ちたい!


参考リンク:『半妖の夜叉姫』公式サイトサンデーうぇぶり(高橋留美子 × 野田サトルSP対談)
イラスト・執筆:冨樫さや

▼『半妖の夜叉姫』公式Twitter