昨年末のインド旅行中、カレーに「当たって」しまった私は10日10晩を苦しみ抜いた。インド人と日本人では胃の耐性が異なるのかもしれない。この記事を執筆するため日本からポケモンカレーを持ち込んでいたのだが、「逆にインド人がお腹を壊したらどうしよう」と不安になってきたぞ。
私は宿泊先で世話になっているインド人に、ポケモンカレーの件を正直に話してみることにした。すると「俺を日本の記事に出してくれよ」とノリノリの様子である。本人が食べたがっているんだから止めることもないわよね? ってことでさっそく準備を開始した私。
……ところが、ここで予想外の問題が勃発したのである。
・決めつけ、カッコ悪い
“ホテル支配人” という肩書きのせいもあってか、私はフィローズ氏のことを「40歳くらいだろう」と決めつけていた。しかし実際の年齢は26歳! 彼は紛れもない「フィローズ君」だったのである。外国人って大人びて見えちゃうんだよネ……。
さて、 “予想外の問題が起きた” と聞いて「おおかたポケモンカレーに牛肉が入っていたんだろう」と決めつけた読者もいるかもしれないが、さすがの私にも “インド人が牛肉を食べない” という知識くらいはある。ポケモンカレーに牛肉が使用されていないことは調査済みなのだ。
ところがパッケージをシゲシゲと眺めたフィローズ君、不思議なことに「豚肉が入っているでしょう?」と決めつけてくるではないか。「そう、ポーク&ベジタブルカレーだよ!」と答えた私。すると彼は、とんでもないことを言い出した。
フィローズ「俺、イスラム教徒なんよ」
・危ないとこやで
「インド人=ヒンドゥー教徒」と、決めつけていたウッカリ者は私である。規律の厳しいシーク教徒については以前の取材で学んだが、ターバンの有無などで見分けがつくとタカをくくっていた。確かにインドでは人口の約80%がヒンドゥー教徒なのだが、イスラム教徒も実は約15%いるのだという。
イスラム教徒が豚肉を食べられないことは周知の事実である。フィローズ君は「ゴメンネ〜」と笑ってくれたから良かったが、熱心な信者に対して食肉を勧めることは「仮にウッカリであったとしてもメチャクチャ怒られる危険がある」のだと教わった。危ないとこやで……!
日本は仏教国とはいえ、比較的信心深くない国民性であるように思う。しかし他国では生活の中心に宗教があるという人も多いのだ。もう少し考えておけばよかったと猛省した次第である。ごめんなフィローズ君、この企画は断念することにするよ……。
フィローズ「でも、記事には出してくれよ!」
「日本人は “こういう画” が欲しいんだろ?」とばかりに、ポケモンカレーを持ち様々なポーズを決めてくれるフィローズ君。豚肉を食べてはいけないけれど、豚肉料理を持つこと自体は問題ないようだ。
・別のインド人登場
ところがしばらくして救いの神が登場した。たまたま遊びに来たフィローズ君の友人(ヒンドゥー教徒)が「日本のカレーを食べてもいい」と名乗り出てくれたのである。ありがてぇ……!
サモサの切れ端にポケモンカレーを乗せ、器用にすくいとるラビさん(32)。気になる感想は……?
ラビ「………………………………………」
長き沈黙のあと「ちょっと待ってろ」と言い残し、ラビさんは席を立った。怒らせてしまったのだろうか?
すると数分後、どこからか「ひよこ豆カレー」を仕入れてきたラビさん。「インドのカレーも食べてみて」ということらしい。ひよこ豆カレーはおいしかったが、ついにラビさんの口からポケモンカレーの感想が語られることはなかった。
ラビさんの行動が「これこそ本物のカレーだ」という無言のメッセージだったのかどうかは定かでない。しかし「妻に食べさせたい」と余ったポケモンカレーを持ち帰ったことから推測するに、彼にとっても今回の体験は刺激的なものだったのではないだろうか。
ちなみにイスラム教徒であるフィローズ君だが、宗教上は禁止されていない「牛肉」も食べないのだとか。理由を聞けば「だってなんかキモいじゃん」との答えである。よく分からないがフィローズ君がそう言うならそうなのだろう。
ひとくちに「イスラム」「ヒンドゥー」と言っても、細かくは宗派や信仰心など個人によって異なるようだ。「ポークがダメならビーフカレーを」とかいう単純な話ではないので、外国人と接する時は注意するようにしたい。
Report:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.
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