かく言う私もその1人なのだが、30歳が近づくと日本を飛び出す女性が増える。それは別に本能とかそういうんではなく、女が「夢を叶える最後のチャンス」と感じるのがそれくらいの年齢、ということなのではないかと思う。

ワーキングホリデー(通称ワーホリ)制度の利用には年齢制限があり、多くの国の場合30歳までにビザを取得しなければならない。旅仲間でもある友人が悩んだ末に都内の会社を辞め、アイルランド行きのワーホリビザを取得したのは昨年のことだ。

現在31歳。人生最大の挑戦は、コロナウイルスに大きく翻弄されてしまっている。ワーホリ仲間たちが次々と日本へ帰国する中、彼女はなぜ厳戒態勢が続くヨーロッパに残留を決めたのか? 実情を尋ねるべくアイルランドへ国際電話をかけてみた

・憧れのワーホリ

ワーホリ制度とは青少年の育成や国際交流を目的とし、若年層がアルバイトしながら外国に滞在できるビザを発給するというものだ。滞在期間は基本的に1年間。現在ワーホリ協定国は20以上あるが、人気の国は抽選(場合によって先着順)となる。

よって行き先に強いこだわりがなければ「ともかく当選した国へ行く」という人も多いらしい。友人の場合も、たまたま当選したのがアイルランドとオーストラリアのワーホリビザ。まずアイルランドで1年間を過ごし、今年6月にオーストラリアへ渡る計画だったのである。

各国の厳しい出入国制限が2カ月後に解除されているとは考えにくいが、ビザ延期などの措置が講じられているのだろうか?


友人「オーストラリアのビザは失効、代金485豪ドル(約3万3200円)も返金なしだって」

──えっ! そういう連絡が来たの?

友人「自分でオーストラリア大使館に問い合わせた。 “入国できないし、来ても働けない” っていう返答。31歳以下ならまた申請できたけど、私はラストチャンスだったから…… “無理ですね” で終わりだよ」

──救済措置があってもよさそうだけど……

友人「日本ならそれもあるかもしれないけど、外国相手だから難しそうね。おまけに今はどの国もそれどころじゃないから」

──アイルランドにはしばらく居られるんでしょう?

友人「いや……6月末にビザが切れるから、それを過ぎると今のところ不法滞在になるはず」

──マジで!?


ワーホリでアイルランドに滞在中の日本人たちの多くは、3月ごろ逃げるように帰国していったのだという。それでも友人を含む少数はアイルランドへ残ることを選んだ。みな数カ月後にはビザの期限を迎えるはずだが……。


友人「私を含めて残っている人たちは、1度帰国しちゃうと次にいつ来れるか分からないのが怖いんだと思う。苦労して頑張ってやっと外国へ来れた人も多いから。もちろん、ここを動けないままビザの期限がきたら日本に帰るしかない。でも状況がよくなる可能性に賭けて、みんな踏ん張ってる感じかな」


・アイルランドの今

外務省によれば現在ロックダウン中のアイルランドにおいて、新型コロナウイルス感染者は約1万4000人(4月19日時点)。隣国イギリスの約11万人と比較すれば差は歴然である。

それでも「自宅から2km以上離れた場所へ不要な外出をした場合、2500ユーロ(約30万円)の罰金または6カ月以下の懲役」という厳しいルールが即座に発令されたなどと聞けば、日本とは比べものにならない厳戒態勢だ。

日本のニュースを見るかぎり欧米諸国では失業者があふれ、医療は崩壊寸前の様子。新型コロナウイルスが中国から発生したことで、アジア人差別が巻き起こっているとの報道もある。日本人の女が1人で生活することに危険はないのだろうか?


友人「ロックダウン前にオランダへ行った時、すれ違いざまに黒人から『コロナ』って耳打ちされた……けどそれ以外は特に差別を感じたことはないかな。そもそも外出しないから差別される機会もないよね。

私はシェアハウスに住んでいて、同居人は全員欧米人だけどみんな普通に接しているよ。顔を合わせると『エブリデイホリデイ!(毎日が休日だ)」って声かけてくれる(笑)。みんな陽気だよ。正直、日本人が思ってるほど危機感はなさそうに見えるかな」

──食べ物はあるの?

友人「それがスーパーに行けば品物は豊富にあるのよ。唯一品薄なのはパスタとか小麦粉。パスタは主食だからみんな確保してる。小麦粉に関しては個人的な予想だけど、みんなヒマだから家でクッキーとか作ってるんじゃないかなぁ」



──外出回数に制限はあるの?

友人「自宅から2km離れなければ回数に制限はないよ。買い物のほかに運動するための外出は認められていて、テニスくらいならしてもOK。でも複数人だと警察に注意されるかな。それから車社会だから検問も多いね」

──アイルランドは “ヨーロッパで最も住宅事情が悪い” と聞いたことがあるけど、家賃が払えない人とかはどうしてるんだろ?

友人「今アイルランドでは救済措置として1週間に350ユーロ(約4万1000円)が支給されているの。普通に働いてもそれだけの収入がない人もいるから、正直なところ『ラッキーだ』と思っている人も多いんじゃないかな? なんとビザを持っている外国人にも支給されるんだよ」

──ええっ、すごい太っ腹! 不幸中の幸いだね!

友人「ところが……多くの人が申請してる中、私は申請に必要な書類すら揃っていない状態なのよ。順番がいつ回ってくるかサッパリ分からないんだよね。情報もなかなか入ってこないし……どうしようもないからハンカチを噛みしめているよ(笑)」



──外国のことだから手続き系は難しいよね……

友人「こっちは暴動が起きないように、とにかく政府の動きが早いの。『明日からロックダウンですからね〜』『明日から現金配りますからね〜』みたいな感じ。それはいいんだけど、早すぎて混乱もしているよね。

例えば本当だったら私は来週からスペイン旅行の予定だったんだけど、キャンセルになったチケットは返金どころか問い合わせへの返信も一切なし。このまま泣き寝入りかなぁ」


・後悔したくなかった

新型コロナウイルス騒動に関して「日本政府は対応が遅い」という批判をよく耳にする。とはいえ対応が早すぎることもまた、諸外国で様々な問題を生んでいるようだ。国と国との間で揺れるワーホリや留学生たちへの救済については、先が見えないのが現状らしい。

友人がアイルランドに留まっていることを「不要不急」と糾弾する人もいるのだろうか? しかし何年もかけてお金を貯め、「行かずに後悔したくない」と会社を辞めてようやく掴んだ夢を手放すことは、彼女にとって心を奪われるほどの苦しみに違いない。

友人自身が「少しシャイだけどフレンドリーさはヨーロッパ内でもトップクラス」と評価していたアイルランドだが、コロナ発生後の街には “近づく人はみんな敵” という雰囲気が流れていたという。


友人「心の距離も2メートル離れている感じがする」


他人とすれ違えば決まってアイコンタクトを交わしていたアイルランド人たち……そんな人々が今はお互いに避け合っている。「コロナが収束したとき、かつての陽気な雰囲気に戻れるのだろうか」と、友人は寂しげに話した。

参照元:外務省HPアイルランド政府HP
Report:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.

▼友人いわく「アイルランドは素敵なところだけどアイスランドと混同されることが多くて、マイナーな国なんだな〜ってしみじみ思っているよ。ラグビーとかギネスビールが有名だよ!」

▼余談だが彼女の料理と撮影の腕前はプロ級