「天下五剣」──それは、数多く残る日本刀の中でも特にその出来と由緒伝来が素晴らしい五振りの名刀のことだ。以前、当サイトでも取り上げた三日月宗近もそのうちの一振り。

今回取り上げる天下五剣の一振り「童子切安綱(どうじぎりやすつな)」はなんと、酒呑童子(しゅてんどうじ)という鬼を切った逸話を持つ名刀だ。四方からその美しい姿を眺め、さらには現代に打たれた「写し」と比較もできたので、さっそくご紹介したい!

・伝説と結びついた刀

刀剣から生まれた神様もおまつりされている奈良県・春日大社。その国宝殿では2019年12月28日〜2020年3月1日までの間『最古の日本刀の世界 安綱・古伯耆(やすつな・こほうき)展』が開催されている(観覧料:一般1000円・大学高校生600円・中小学生400円)。二階展示室は撮影禁止だが、今回は特別に取材させていただいた。

戦前に春日大社の蔵で見つかった刀を平成29年に研いだところ、平安中頃〜鎌倉初頭に現在の鳥取あたり(伯耆国)で活躍していた名工・安綱の作と発覚。それにより、安綱をはじめ「日本刀」成立前後の刀剣を集めた今回の展示を開催するにいたったという。

安綱ら「古伯耆」刀工の作刀は確認できるものが少なく、中心となる展示は史上初。中でも一番の目玉は、所蔵元の東京国立博物館からほぼ門外不出だった天下五剣の一振り・国宝「太刀 銘安綱」こと名物「童子切」だろう。伸びやかに反った姿が雄大で美しい!

「童子切」は源頼光という平安中頃の武将が、京を荒らす「酒呑童子」を退治する際に使った刀だと言われている。

鬼を切ったと言われる「童子切」の刃は一定ではなく、まるで荒波のよう。見る部位を変えると違う刀になったかのような錯覚を起こすほど、変化に富んでいる。

刃ではない部分「地鉄」に注目してみても、多様な姿を見せてくれる。キメ細やかな板のような模様の部分もあれば、荒々しい古木の表面のような部分もあり……見ていて飽きない!

中でも特に注目して欲しい点は、「映り」という地鉄部分にあらわれた刃文の影のような模様。素材や作刀時の加熱・急冷の影響が地鉄部分に出現するらしいが、不思議と新しい時代の刀にはあまり見られない、古い時代の刀の特徴ともいえる模様だ。

「童子切」にはそんな「映り」が存分にあらわれているのが大きな魅力の一つと言えるだろう。

そこで、同じく『安綱・古伯耆展』で展示されている現代の刀匠・金崎秀壽氏が「童子切」を模して(写し)打った太刀、いわば「現代版・童子切」と見比べてみたい。おお、ゆったりと自然な感じに反った姿はそっくり!

国宝である「童子切」をその「写し」と見比べられる機会は貴重だ。当然ながら刀の作り方が残されているわけでもなく、素材の成分なども正確に把握できないため、現代に限らず「同じ刀を打つ」ことは不可能だが……変化に富んだ刃文もそっくり。

「現代版・童子切」の地鉄にあらわれた模様も元の「童子切」と同じく多様。「童子切」の作者・安綱をはじめとした「古伯耆」刀工の特徴である、くっきりと模様が確認できるような肌立った感じも見事に表現されていた。凄い!

しかし、「映り」に関しては「現代版・童子切」ではほんのりと確認できる程度。そこが元の「童子切」との決定的な差とも言えるが、その変わり「現代版・童子切」では現代の不純物が少ない素材を使った、明るく冴えた美しい地鉄を楽しむことができる。

「童子切」と「現代版・童子切」を比べただけでもそれぞれの特徴が分かりやすくなるが、『安綱・古伯耆展』では「童子切」の作者・安綱の貴重な「童子切」以外の作刀とも贅沢に比較できてしまう

しかもそれだけではなく、安綱と同時代に別の場所で活躍していた名工たちの作刀と見比べることが可能だ。例えば今の京都(山城国)で活躍していた刀工一派「三条」の吉家が打った太刀を見てみると、安綱の作刀よりも刃・地鉄ともに落ち着いていることに驚く

他にも、安綱以降の「古伯耆」刀工たちの作刀がズラリと並んでいるため、「古伯耆」の特徴を自分の目で見出すことができるよ。

約1000年も昔の刀剣たちを眺めつつ現代まで残る「日本刀」に思いを馳せることができる、何ともロマン溢れる展示だった。

・見逃し厳禁

今回の展示では「童子切」をなんと、四方から眺め回せてしまう。

通常の展示ではなかなか見ることのできない裏側も(人がいなければ)眺め放題。

切っ先が自分に向いた状態だって観察できちゃう。「酒呑童子」も最期にこの光景を見たかもしれない、なんて思えるのも素敵だ。

展示は2020年3月1日まで。気になった方はぜひ、観に行ってみて欲しい。特に刀剣好きは、見逃し厳禁だ。

・今回紹介したイベントの詳細情報

イベント名 『最古の日本刀の世界 安綱・古伯耆展』
開催場所 春日大社国宝殿(〒630-8212 奈良県奈良市春日野町160)
開催期間 2019年12月28日(土)~2020年3月1日(日)
(※前期:12月28日(土)~1月26日(日)/後期:2月1日(土)~3月1日(日))
営業時間 10:00〜17:00(入館は16:30まで)
(※特別開館延長日 2020年2月3日(月)・2月8日(土)~2月14日(金)は 10:00~19:00 (入館は18:30まで))
休館日 2020年1月27日(月)~1月31日(金)
入場料 一般1000円・大学高校生600円・中小学生400円

参照元:安綱・古伯耆展公式Twitter
Report:伊達彩香
Photo:RocketNews24.
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▼「日本刀」のスタイルが成立する前、古墳時代後期の刀。この時期の刀で、肌や刃が見える保存状態はとても貴重。

▼ギリギリ「日本刀」のスタイルが確立する前後の刀。刃はほぼ真っ直ぐだが、持ち手のあたりから急に反るのが特徴的。

▼安綱の子・真守の作刀も武士に愛された。この太刀には武田家が柳沢吉保から「借りパク」されかけたことがあるらしい。

▼「借り出し」中の柳沢吉保が勝手に自分の家の家紋をつけて作った「ハバキ」。もらう気満々か。

▼この展示中にしか買えない「童子切」などの名刀グッズも豊富。

▼『安綱・古伯耆展』オリジナルグッズには、可愛いデザインのものもあるよ。

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