生まれて初めて相席ラウンジに行ったら爆死した話 / あるいは哀愁に満ちた東京の夜 (その2)
・始まりはとある夜の居酒屋
コトの始まりは、2018年11月の都内某所。オッサンばかりが顔を揃えた居酒屋での、他愛も無い会話からだった。
H「ところで相席ラウンジって最近話題じゃないですか。気になりますよね」
確か、自分のケツを鏡で見たことがあるかどうか……という汚いテーマで周りが盛り上がっていた直後だったと思う。Hから唐突に相席ラウンジの話が出てきたのだ。
筆者(江川)「あー、聞いたことはあります。行ったことあるんですか?」
詳しく聞くと、どうやらHは知人と共に何度か相席系の店を利用したことがあるようだった。その場ではこれ以上踏み込んだ話には特にならず、そのうち機会があれば一緒に行きましょうという、よくある社交辞令的な感じでその話題は終了。
筆者は、この話はそこで終わったものと思っていた。しかし、それから1カ月ほど経過した12月半ばを過ぎた辺りで唐突にHから連絡が!
H「先日、お話していた相席ラウンジですが、今年中に実行したいなと思っています」
筆者「あれですかw(あの話、マジだったのかよ)」
なお、このときにAも参戦する旨が伝えられた。そして、あれよあれよという間に12月26日、よりによってクリスマスの翌日に決行することも決定。しかし、この男たちの相席ラウンジに対する情熱は一体どこから来るのだろう。まあいいや、行ってみればわかるだろう。
・いきなりの不戦敗
こうして迎えた12月26日。仕事終わりに筆者とAは、Hに連れられて夜の繁華街に繰り出した。なんだかんだ言って、女性とマッチングするというお店の特性的にもいささか緊張する。全く知らない女性といきなり同じテーブルにぶち込まれるとか、どうすればいいのだろう。
最近の話題とかぶっちゃけよくわからないぞ? 同年代ならあるいはなんとか……。1人なら確実に無理ゲーだが、とりあえず今回は経験者のHがいる。Aは……謎の余裕をかもし出しているが、アテにできるのかは正直よく分からない。
そうこうしている内に、足取り軽く先導していたHが歩みを止めた。どうやら目の前のビルの1フロアが、今回突入予定の相席ラウンジらしい。いざ入店すると……
おっさんだらけ!
えっ、女性は? どうもイメージしていたものと違う。目に入るのはおっさんの群れ。ハイパーおっさんランドじゃねぇかこれ。Hの方を見ると、彼にとってもこの事態は想定外だったようす。いつもはこうじゃないらしい。
Hが店員に確認したところによると、男女比率はぶっちぎりで男性多数。女性は絶滅危惧種状態だ。年末という時期もあってか下手すると何時間も待たされる可能性もある。ということで、時間も既に遅いこともあり今回は諦めることに。
完全に不戦敗である。なぜおっさんだらけだったのかは不明だが、もしかしたら時間が遅すぎると仕事終わりのおっさんが押し寄せてきて “おっさんランド” 化するのかもしれない。しかたが無いのでそのままなんとなく飯を食い、静かに帰路に着いたのだった……。
・年明けにリベンジ
そして年があけた1月半ば、我々3人は再び相席チャレンジにくりだすことに。さすがに前回のような失敗は許されない。確実を期すため作戦会議を行うため居酒屋へ。しかし、そもそもH以外は未体験。よく考えれば作戦も何もあったものではない。
とりあえず男は金額的にも不利なため、入店前に飯を食っておくほうがいいだろうということで食事を済ませることに。また前回の失敗をかんがみて、少し早めに入店しようという方針がなんとなく決まった。
ガバガバすぎる上に、そもそも入店してからどうするかが全く組み込まれていない方針だが、とりあえず早めの時間というのは正しかったのかもしれない。前回が年末ということも関係している気もするが、今回は飲み屋街自体に人が少ない気がする。
エリア一体に人が少ないので、恐らく店内もそう混んでないとは思うが、はたしてどうだろう? 扉の向こうはまたもおっさんランドだったりしないだろうか? 期待と緊張半々で中に入ると……
無人のロビー
前回はおっさんの群れであふれていたロビー。しかし今回は無人である。一瞬不安になったが、すぐに店員の兄ちゃんがやってきた。どうやら本来、ロビーに人はいないのが正しいあり方のようだ。こいつは勝ったか?
・女性過多
慣れているHが店員に確認すると、今回はまさかの女性過多! えっ、マジで? そんなことってあるの? こういう店って、なんだかんだ言ってもおっさんで溢れてるか、おっさんやや多めかの二択だと思ってたぜ。
店内に女性の方が多く、むしろ女性側に待ち時間が発生しているため、男のみの我々はすぐに女性たちのテーブルへと案内されることに。正直に言うと、筆者的には程よく待たされてから女性グループとマッチング……的な方が心の準備的には良かったのだが、腹をくくるしかない。
案内されたテーブルには、筆者たちと同じ3名で来店している女性グループが。ここでは女性A、女性B、女性Cとさせていただこう。全員明らかに我々よりも若い。後に年齢の話になった際になんとなく判明したのだが、全員20代前半くらいとのことだった。
・途切れる会話
とりあえず席につき、なんとなく自己紹介から始まったのだが、この時点で雲行きはかなり怪しかった。我々は何か聞かれたらホイホイと何でも答えるのだが、女性グループは1人を除き、他2名はなんというかとても控えめな方々だったのだ。
女性A「え、お名前なんていうんですか~☆」
H「自分が原田で」
A「あひるねこで」
筆者「江川です。それで、皆さんは……?」
女性B「……」
女性C「……」
全員「……」
どうすりゃいいんじゃい! ……いやわかりますよ。見ず知らずのアヤシイおっさんにあれこれ教えるのに抵抗あるのはめっちゃわかります。でも無言はイヤァァアアアアア!! 自分の発言を最後にシーンとするダメージは相当なもの。
それとも日本ではこういう場面で男性から女性に名前を聞くのは、実はNGだったりするのだろうか? 正直言うと筆者、日本で飲み会などやったことが無いので、その辺の文化や作法にはめちゃくちゃ疎く、この手の場での振る舞いに自信は皆無。
これはお手上げと原田の方を見ると、さすがは経験者。すぐさま別の話題を出してどうにか場を持たせてくれた。もう後は全て彼に任せておこう。そこでなんとなく隣のテーブルを見ると、そちらではかなりハデな女性2人がかなりにぎやかに喋りながら飲み食いしている。
1人はフラミンゴを髣髴(ほうふつ)とさせるハデでデカい上着で、もう1人は逆に薄手すぎる服装をしている。なんとなく筆者が眺めていると、店員がやってきて彼女たちになにやら話しかけた。
聞き取れないが、どうやら男性とマッチングしたことを告げにきたようす。すると、ミズ・フラミンゴから衝撃の一言が。
「は? じゃあ帰ろ!!」
そして素早く荷物をまとめると、薄手のレディと共に荷物を持って出て行ってしまった。どうやらガチで飯だけ食いに来ていたようだ。これ、お店的には嬉しくないだろうなぁ。でもミズ・フラミンゴの気持ちも良く分かる。ほとんどタダだし、ひたすら飲んで食って、マッチングしたら帰るプレイもシステム上はアリだろう。
いささか感心しながら意識を自分たちのテーブルに戻すと、原田と女性Aが頑張ってどうにか会話を途切れさせないようにしていた。ここに来て筆者も気づき始めた。女性Aはめちゃくちゃ慣れていて、しかも積極的なのだ。女性Aと会話のキャッチボールをどうにか続けることこそ、我々が生き残る唯一の方法である。
女性Bと女性Cについては結局最後までどう呼べばいいのかすら不明だったし、正直どんな声だったのかも覚えていない。2人とも明らかにガチガチに緊張というか、筆者たち以上に慣れていない感じが全開なのだ。
聞いてみると、相席ラウンジに来たのも女性Aの発案によるもの。3人は同じ職場の同僚で、「タダ飯行く人~☆」というテンションで女性Aが誘う形でやってきたのだそうだ。
・女神の離脱
我々のテーブルにおいて、世界の中心は女性Aで、筆者たち3人が彼女の出す話題に必死に乗っかるという形式が出来上がっていた。なお途中で女性Aが何度か席を外したタイミングがあったが、その間は完全に静寂である。このテーブルの全ては彼女のコミュ力と話のネタ数にかかっているのだ。
その存在感は、さながらドラクロワの絵画に登場する、民衆を導く女神さながらである。女性Aが あひるねこ のビートルズの上着に突っ込み、あひるねこ はビートルズが描かれた上着を着ていながらビートルズにそう熱心ではないことをネタにしたり、筆者は学生時代のネタなどを持ち出してどうにか会話を続けること1時間半ほど。
……
事態は急展開をむかえた……
女性Aが突如として戦線離脱したのだ……。
さすがにもうやってられんとなったのだろう。身を引いてスイーツなど食べながらスマホを弄り出してしまった。まあ、わかります。いや凄いよね。見知らぬおっさん3人と会話を続けるとかマジで。
しかしこれでは、我々としても万事休す。もうアカンのでは? そろそろ楽になってもいいのでは? 筆者が原田へそんな意図を込めて視線を飛ばすと、きっと同じことを考えていたのだろう。
原田「そろそろ時間なので、この辺で」
彼のこの台詞は正直なところ正確ではない。はっきり覚えていないのだ。知らない女性とのテーブルで会話を続けられず、気まずい沈黙に襲われること数十回。そのつど多少は広がりそうな話題を探して必死に脳をフル回転させる作業で、かつて無いほど筆者は疲弊していたせいである。
疲弊しているという点については、恐らく原田も あひるねこ も、そして喋り続けた女性Aも同様だろう。会話がいつ途切れるとも知れない緊張感からくるヒリついた空気で満ちた1時間半であった。女性Bと女性Cにとっても、やはり居心地が悪かったのだろう。彼女たちも安堵の表情を浮かべていた。仕方が無いと思う。
・無駄に刺さる別れの挨拶
すこしホッとしながら荷物をまとめつつ、筆者たちはなんとなく別れの挨拶を口にした。
「じゃあどうも……」
「また機会があれば……」
「ありがとうございました……」
誰が言ったというわけでもなく、こんな感じのありきたりな挨拶だったと思う。なんとなく会釈しながら席を立つと
_人人人人人人人人人人人人人_
> 女性陣「さようなら!」 <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
この1時間半で最大のテンション。音量的にも込められた気持ち的にも最大出力である。いやまあ、確かに今後会うことも無いとは思うし、心労の耐えない時間だった……ッ! しかし別れの挨拶に最大のエネルギーを持ってくるとは予想外。なんてへヴィなエンターテインメント!!
そりゃあ女性たち的にも、もう1ラウンドとか絶対イヤだろう。筆者たちもその気持ちはわかるし、会話が盛り上がらないというのはこちらの準備不足や引き出しの少なさのせいもある気がする。
我々があらゆる場面で女性を盛り立てられるナイスなジェントルマンであればこうはならなかったと思われるが、哀しいかなただのおっさん。それも多分陰キャ寄りの。その自覚がある以上、元気よくさようならと言われたら素直に返すしかない。
「さよなら」
「さよなら」
「さよなら」
出口への道すがら他のテーブルをちらりと見ると、スーツ姿のおっさんたちとやや派手めな女性たちのテーブルがめちゃくちゃ派手に盛り上がっていた。あぁ、こういうパターンもあるのか……楽しそうだなぁ。
店を出てからの道すがら、何件かキャバクラ系の店の呼び込みなどあったが「女の子いますよ~」といった呼び込みが、これほど色を欠いて聞こえたのは人生で初だった。繁華街の看板やらネオンって、いささか下品だと思っていたけど、無の境地で見るとキラキラしてて結構綺麗なんだなぁ。こうして我々3人は、ただただ静かに帰路に着いたのだった。
Report:江川資具
Photo:RpcketNews24.