
以前の記事で、アフリカのデスメタルバンドの実情を詳細に伝える書籍『デスメタルアフリカ』を紹介した。この書籍は、当サイトで「辺境音楽マニア」を担当するハマザキカク氏が執筆したもので、おそらく世界でも例を見ないほど、詳細なアフリカのバンド事情を赤裸々に伝えている。
そんなハマザキ氏が編集を務めた、興味深い書籍が発売された。その書籍『共産テクノ ソ連編』は、旧ソビエト連邦のテクノ音楽について、驚くほど詳細につづられている。紹介されているアーティストの音源をYouTubeで聞いてみると、独自の道を歩まざるを得なかった共産主義国家の悲哀が伝わってくるようだ。
・テクノポップの第一人者
この書籍は、2001年より「All About」でテクノポップガイドを担当し、インタビュアー・音楽発掘家として活躍する四方宏明氏の著書である。ハマザキカク氏が編集を手掛けた、ソ連テクノの専門書である。
・ソ連におけるロッククラブ
ソ連の音楽シーンを語るうえで、欠くことができないことがある。それは「ロッククラブ」の存在だ。レニングラード・ロッククラブは1980年代のソ連のロックミュージックの中心地だった。しかし、共産党や共産青年同盟などの監視下であったため、本当の意味での自由な表現は抑圧されることとなった。
・電化政策で開発が進んだ電子楽器
テクノシーンも同様に、表現に対して厳しい監視の目が向けられていたようで、理由不明で発売禁止処分を受ける作品もあったようである。またアメリカと宇宙開発を競っていた時期は、電化政策が推進されており、この時代に電子楽器の開発が目覚ましく進んだ。代表的なものにテルミンがあり、後のシンセサイザーの発展に大きく寄与している。
・電子楽器「エクヴォディン」
さて、本書のなかで最初に紹介されているのが、ソ連電子音楽のパイオニアとされる「ヴィチスラーフ・ミシェーリン」である。ミシェーリンはシンセサイザーの前進の電子楽器「エクヴォディン」の先駆者であり、彼の率いる楽団には電子楽器奏者が存在していた。共産テクノへと引き継がれる時代の架け橋を、ミシェーリンは1950年代に築いていたのである。
・口琴テクノのコーラ・ベルドィ
次に本書で興味深いのは、ナナイ族の口琴テクノと紹介されている、「コーラ・ベルドィ」だ。ナナイ族は中国とロシアに存在する少数民族である。実際ベルドィは、生粋のアジア系の顔立ちをしており、その歌声は、のびやかなテノールで “テクノ” からは程遠い印象を受ける。実際に楽曲を聞いてみると、口琴のビヨ~ンという音以外は、なんと形容して良いのか悩む音楽だ。しかし聞いているうちに、何だかクセになるのは気のせいか……。
・地下流通で100万本
最後に、ペレストロイカ以前の抑圧的な政策の下で、爆発的に音源が広まったテクノ2組「チルナフスキー=マテツキー」。彼らのテープアルバムは、なぜか問題視されて発売禁止に。しかし地下流通で100万本が出回ったというから、驚かざるを得ない。抑圧が欲求を爆発させたとでもいうべきか。
そんな彼らは、デビューアルバムで今では考えられない手法を取り入れている。当時のソ連にはマルチトラックの録音機が普及しておらず、ハンガリー製の2トラックレコーダーで、テープを切り貼りしてアルバムの制作を行ったそうだ。ひどく音が劣化しているかと思いきや、これが音質のレベルを激しく劣化させることなく、作品を完成に導いている。これまたソ連の特殊な環境が生んだ産物ではないだろうか。
このほかにも、紹介し切れないほど多くのアーティストの、共産国家ならではの逸話がふんだんに盛り込まれている。俄然ソ連時代の音楽に興味を持たざるを得ない。興味のある方は是非チェックを。目からウロコの共産テクノがここにある。
参考リンク:共産テクノ ソ連編(Amanzon)
執筆:佐藤英典
▼ソ連電子音楽のパイオニア「ヴィチスラーフ・ミシェーリン」。楽団の演奏、テルミンが登場する
▼口琴テクノの「コーラ・ベルドィ」。映像がとてもシュール
▼2トラック録音機で作られたと思えない、「チルナフスキー=マテツキー」の曲
佐藤英典



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