
今までにおいしいものを食べて、涙を流したことはあるだろうか。料理からそこはかとなく伝わる、優しさや愛情を感じ取って、気づけば涙が流れている。人生のうちに1度あるかないかの、貴重な体験なのかもしれない。それを「至福」と呼んでも良いだろう。
・原作と料理に対する「賞賛」と「敬意」
記者(私)は最近そんな素晴らしい体験をすることができた。先日の記事で紹介した、名作漫画『ジョジョの奇妙な冒険』に登場するトリオ・トラサルディー(通称:トニオさん)の料理を再現した、茨城県の「アミーチ」で食事をしたときのことだ。この料理はただの再現ではなく、原作と料理に対する「賞賛」と「敬意」をもってつくられた作品と言っても良いかもしれない。
原作者の荒木飛呂彦先生がアミーチの料理を食べたら、なんというか感想を聞いてみたい。
・品書きも作品通り
2014年4月12日より、この再現料理の提供が開始されている。お店の前の看板には、原作と同じ品書きが。「本日の料理 お客様次第」、コーヒーとデザート付きで3500円である。ファンならこの看板を見ただけでワクワクが止まらなくなるに違いない。
・まずは水を飲め
席につくと、メニューを見るまでもなく、この料理をオーダー。最初の飲み物はガスなしの水である。この水を飲んだからといって、とめどなく涙が流れるということはなかったが、これからあの料理を食べられると思うと、思わず涙ぐみそうになる。
■前菜:「モッツァレッラチーズとトマトのサラダ」
前菜は虹村億康が最初に「ゥンまああ~いっつ」と絶叫した、「モッツァレッラチーズとトマトのサラダ」だ。真っ赤に熟れたトマト、かすかに光沢を帯びて艶やかなモッツァレッラチーズ。そしてアンチョビの入ったドレッシング。これらがしっとりと光り輝いて見える。
非常に美しい。ほのかにバジルの香りが漂い、ムショーに食いつきたくなる。トニオさんがおすすめするようにチーズとトマトを一緒に食べると、トマトの酸味と甘さ、チーズのコク、アンチョビのかすかな辛みが混ざり合って、口のなかでひとつの作品として完成されたのである。ムダがない。
・食材のグルーブ
完全に調和して、どの食材も同じだけの音量で音を奏でているようだ。たとえるなら、メンバーの呼吸が完全に一致したバンド演奏を聞いているようである。それぞれのメンバーが織り成すグルーブに自然に体が揺れ出すような心地よさ。触れているだけで幸せな気持ちになって、思わずニヤけてしまう。なんという幸先の良い前菜だろう。
■プリモ・ピアット:「娼婦風スパゲティー」
続くプリモ・ピアットは「娼婦風スパゲティー」(プッタネスカ)。あえて言おう、断言できる。ここのほどおいしいパスタを食べた経験はない。記者は飲食業に従事したことがあり、銀座のとあるフレンチや高級店専門の派遣業で務め、決して安いとは言えない店でサービスをしていたこともある。だが、そのどの店にもなかったおいしいパスタがここにはある。再現料理のこのパスタもそのひとつだ。
・麺をソースがコーティング
娼婦風スパゲティーは珍しいものではない。むしろよくあるメニューであり、誰もが一度は食べたことがあるはず。だから、突飛なアレンジはかえって嫌われるし、だからといって、どこにでもあるものではいけない。スタンダードがあるが故に難しいメニューと言っても良いだろう。
一口食べたときに、シェフの腕の高さに驚いた。麺にソースがしっかりと絡みつく、いやソースで麺がコーティングされているような気さえした。完ぺきな乳化(油と水をよく混ざり合った状態を指す)ができているからこそ、麺をコーティングしたような状態になっていたのである。
・旨みが重なって、もっと食いたくなる!
食べると口にほんのりとした粘りが残り、一口食べることに、口元にソースの旨みが余韻のように残る。この余韻がクセになって、食べるほどにおいしさが増していくようだ。作中で億康はこう言った。「食えば食うほどもっと食いたくなる味」、アミーチの娼婦風スパゲティーは本当にもっともっと! と欲しくなる味である。積算的に旨みが増していく。
■セコンド・ピアット:「小羊背肉のリンゴソースかけ」
そしてメインは「小羊背肉のリンゴソースかけ」。これはレシピが明かされていない一品だ。小羊は好みが分かれる、というのも特有の臭みを持っているからだ。もし小羊があまり好きではないという方は、この料理を食べてもらいた。「臭みがある」というイメージは払しょくされるはずだから。臭みがないどころか、りんごの芳醇な甘さと酸味と一体になって、旨みが研ぎ澄まされている。都会の高級店でも、こんな品のある小羊を食べることは難しいのではないだろうか。
■デザート:プリン
何より感動したのがデザートだ。デザートはもちろんプリン。これまた珍しいものではない。誰でも知っているスイーツ、これを一口食べた瞬間に、本当に涙が出そうになった。「食べる」という表現がふさわしいかどうかさえもわからない。なぜなら、食べた瞬間に消え入ってしまったからである。よく「ふわり」とか「とろける」とか表現として使われるのだが、それは固形のものがゆるやかに溶けることをあらわしている。
・いたわってくれるような甘さ
しかしここのプリンは、「消え入る」もしくは「口のなかになじむ」と言った方が良いくらいだ。逆に元が固形であることさえも、疑いたくなってしまう。しかもその甘さがこのうえなく優しいのだ。まるでいたわってくれるような、静かな甘味に本当に涙が出るほどに感動した。どこまで人の気持ちがわかるんだ、そう尋ねたい衝動に駆られたほどである。
・トニオさんが実在したら、こうなったはず
トニオさんがもしも実在したら、本当にこんな料理を作るんじゃないかと思う。3500円でここまでの料理を作るのは、アミーチのシェフとトニオさんしかいないはずだ。料理を愛して、人を癒すことを考えている人だから、「おいしい」を越えて行く料理を作れるのではないかと思う。
ちなみにこの再現料理は2014年4月末までの提供を予定しているそうだ。お店に行くときは予約を忘れずに。それから再現料理だけでなく、そのほかのメニューも大変おいしいので、イタリアンが好きという人は、一度行ってみて欲しい。おいしさに感動して思わず身震いするはず、涙も流れるかも。
・今回ご紹介した飲食店の詳細データ
店名 TRATTORIA E PIZZERIA Amici
住所 茨城県つくば市手代木286-1
時間 11:00~14:30(L.O.14:00)、18:00~23:00(L.O.22:00)
定休日 なし(年末年始のぞく)
Report: 佐藤英典
Photo: Rocketnews24
▼店前の品書きまで再現。「なんだ? お客様次第って……」
▼まずは水を飲もう。涙がドボドボ出てこないが、料理を食べられる興奮で思わず涙目になるかも
▼まずは前菜「モッツァレッラチーズとトマトのサラダ」
▼チーズとトマトを一緒に食べると……
▼「ゥンまああ~いっつ」
▼続いてプリモ・ピアット、「娼婦風スパゲティー」
▼食べるほどに旨みが重なって行くようで、本当にもっと食べたくなってしまう
▼そして、セコンド・ピアット「小羊背肉のリンゴソースかけ」
▼料理が進むたびに感動が深まっていく、おいしさと感動で胸がいっぱいになってきた
▼デザートのプリン。ソースのかけ方まで再現している
▼いたわるような甘さに、言葉が出ない。シェフの優しさがひしひしと伝わってくる
▼ちなみにワインを飲もうか迷って、あえてイタリアの「メッシーナ」というビールを飲んだ
▼そのほかの料理も大変おいしい。前菜、豚肉のテリーヌ茹で卵入り
▼生シラスのペペロンチーノ、からすみ添え
▼仔牛のロースト
▼木苺のティラミス
佐藤英典
























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