北極冒険家の荻田泰永氏が、間もなく冒険に向けて旅立つ。それに先立って2014年1月21日、彼の壮行会が行われた。
会場となった東京都内のカフェには、今回の冒険の秘密兵器とも呼べる「ドライスーツ」と「フォールディングカヤック」が用意され、荻田氏自らが無補給単独徒歩で北極点に到達するための計画を発表したのである。最重要課題は「リード」と呼ばれる氷の裂け目を、いかに超えて行くかだ。
・荻田氏の北極点到達スケジュール(変更する場合もあり)
2月6日 成田空港発バンクーバー入り(装備品・食料の調達)
2月12~26日 イカイレット(カナダ、フロビッシャー湾の町)でトレーニング、準備(寒冷地訓練)
2月27日 イカルイットからレゾリュート(カナダ最北の村)へ定期便で移動
3月2日 レゾリュートからディスカバリー岬へチャーター機で移動
3月3日 北極点へ向けて歩行開始
・「極地冒険」と呼ぶにふさわしい
順調に行けば最大50日で800キロを踏破し、4月20日頃に北極点に到達する見込みである。しかし、当然簡単な道のりではない。800キロもの距離を100キロを超える荷物を持って歩き続けるのである。平地をそれだけ歩くだけでも至難のわざ。気温はマイナス50度、ホッキョクグマに遭遇する危険も想定される。「極地冒険」と呼ぶにふさわしい困難が待ち構えていることだろう。
・20年前とは冒険環境が異なる
さらに問題なのは、氷の状態だ。人類が世界で初めて無補給単独徒歩で北極点に到達したのは、20年前の1994年のことだ。20年前と現在とでは確実に冒険環境が異なっている。北極海を覆う海氷が減少し、風や海流に揺り動かされやすくなっているからだ。衝突した海氷は山のような乱氷帯となり、日に数キロも進めないような障害となる。
・ドライスーツとフォールディングカヤック
もっと性質が悪いのは、リードと呼ばれる氷の裂け目である。氷の裂け目が行く手を阻み、時には何キロも迂回を余儀なくされることがある。そこで今回用意されたのが、ドライスーツとフォールディングカヤックだ。
ドライスーツは防寒着の上からでも着用できる服で、全身をすっぽりと覆う、いわば着る浮き袋である。着用して氷の裂け目から海に飛び込めば、泳いで向こう岸にたどり着ける。ただし、低温の海中に浸かることは身体への負担も大きい。したがって、泳げる距離はせいぜい100メートル前後が限界だ。
・カヤックを用いた例は過去にない
それ以上の裂け目を渡るために持っていくのが、フォールディングカヤックである。このカヤックは折り畳み式で、重量は15キロ。姫路の「バタフライカヤックス」が制作した特注のもので、今回の冒険のために創意工夫が施されているそうだ。これがあれば、巨大な裂け目に遭遇しても渡ることができると想定している。フォールディングカヤックを使って北極点を目指したケースは過去になく、成功すれば荻田氏が世界で初となる。
ただしフォールディングカヤックがどれだけ生かされるのかは、現地に行ってみないとわからない。従来の約100キロの荷物に15キロのカヤックがプラスされることで、どれだけの肉体的な負担を強いられることになるのかも、冒険が始まるまでわからないのである。準備はおこたらないものの、とにかくやってみることでしか答えは得られないのだ。
・過去10年間で成功者ゼロ
無補給単独徒歩、つまり途中で補給を受けず、一人で荷物を引いて歩いての北極点到達は、今まで1994年と2003年の2例しかない。さらに近年は氷の状態も悪くなってきている。もし成功すれば、世界から注目を集めることになるだろう。そして日本人としては初の偉業となる。何としてでも成功してほしい。
・冒険をネットで応援できる
ちなみに今回の冒険を、個人で応援することができる。クラウドファンディングサイト「シューティングスター」から可能だ。参加すると、北極点の氷をもらえたり、北極点で掲げる旗に名前を書いてもらえる特典がうけられる。さらに、荻田氏と日本の事務局とで行われる衛星電話の音声も聞けるそうだ。臨場感あふれるレポートで、北極を体感できるのではないだろうか。荻田氏の冒険を応援したい方は、ぜひとも参加すると良いだろう。
とにかく冒険の成功と荻田氏の無事を願ってやまない。スタートまでまだ少しあるが、万全の準備で臨んで頂きたい。
参考リンク: シューティングスター「荻田泰永 北極点無補給単独徒歩到達への挑戦」、Facebook「荻田泰永 北極点事務局」
Report: 佐藤英典
Photo: RocketNews24
▼都内で開かれた壮行会、大勢の支援者が集まった
▼自ら今回のチャレンジについて説明する荻田氏
▼これがドライスーツ。防寒着の上から着ることができ、水に入ると身体が浮く
▼そしてこれがフォールディングカヤック。カヤックを携行して北極点に挑むのは、荻田氏が初となる