
今から3年前の2014年春、ある男はたったひとりで北極点を目指していた。過去20年の間に、誰も成功しえなかった北極点無補給単独徒歩での踏破。その男、荻田泰永(おぎた やすなが)は冒険開始から44日目にして途中撤退を決断。13回目の北極徒歩遠征の冒険の幕を閉じた。
この時、日本国内では彼の挑戦を知るものはほとんどいなかった。だが、それから現在に至るまでの間に、テレビ出演を果たしたことで、彼の冒険を応援する人が増え、再び挑戦の機会を得ることとなった。今回目指す先は南。そう、南極点に向けて、無補給単独徒歩を始めるのである。
・松本人志さんも驚愕
荻田が北極冒険に最初に挑んだのは、2000年のことだ。それから現在までの18年間に、北極圏各地を約9000キロも踏破している。その営みは、TBSの番組『クレイジージャーニー』でも取り上げられ、番組ホストの松本人志さんをも驚愕させた。
驚くのもムリはない。約50日間をかけて800キロもの距離をひたすら歩き続けるのである。それも無補給で。
・予想不能な北極冒険
冒険に必要な物資をソリに積み込んで、ただただ歩き続けるのだ。ソリの総重量は約100キロ。平坦な道のりを、100キロのソリを引いて歩くだけでも至難のわざ。しかも、彼の行く先は穏やかな道のりではない。「リード」と呼ばれる氷の裂け目を越えなければならない。「乱氷帯」と呼ばれる氷の山を踏み越えて行かなくてはならない。
何より、北極に陸地はない。氷の上を歩くために、前に10キロ進んでも、氷が10キロ押し戻される可能性だってある。進んでも進んでも押し戻されることだってあるのだ。北極を無補給で踏破しようと考えること自体がムチャであり無謀だ。
そんな北極男が、2017年11月、北極冒険に匹敵するムチャな冒険に乗り出す。それは「南極点無補給単独徒歩」による踏破だ。南極は北極と違って陸地がある。その分、冒険は楽なのでは? と思われるかもしれない。だが、まったく異なる困難が待ち構えているのだ。
・過酷を極める南極冒険
スタート地点のヘラクレス入り江から南極点までの距離は1130キロ。南極大陸は内陸に進むほど氷床(雪が堆積した氷)が厚く、しかも山脈もあるため極点までの往路は常に登り坂。最高地点の標高は4200メートル、南極点でも標高2800メートルの高地だ。山をかわしながら、ひたすら氷の上を歩き続ける。
無補給なので、今回も100キロ近い重量のソリを引き続けることになるのだ。風は、標高の低い沿岸部に吹き下ろしてくるため、常に向かい風。状況だけを考えても、まともな挑戦ではない。極地冒険家による極限の挑戦である。
・両極に到達するのが真の狙い
今回の挑戦「南極点無補給単独徒歩到達」に成功すれば、日本人初の偉業となる。だが、これは荻田にとって通過点。本当の狙いは、「南北両極点 無補給単独徒歩到達」にある。もしも南極踏破後に北極での挑戦にも成功すれば、世界初の大偉業だ。南極踏破はその大偉業の前提になる。荻田自身はこの挑戦について次のように語る。
「南極は初めて、というか南半球に行くこと自体初めてなんですよ。ワクワクもドキドキもしています。初めて北極に行った時にも、同じようにドキドキしていました。最初に北極に行ったのが今から18年前。あの頃と同じようにワクワクドキドキしています。
今回の新しい挑戦に期待しています。今の自分の力なら南極点到達はできると思います。『また始まる』っていうこの気持ち、きっと歩き出したら『コレだ!』って思い出すんでしょうね。とても楽しみです」
想像を絶するような危険を前にして、ワクワクを感じることができるとは。さすが極地冒険家である。
・南極で「お悩み相談」?
ちなみに冒険がスタートした後に、荻田はTwitterで「お悩み相談」を行う予定なのだとか。彼いわく、南極冒険中の50日は、毎日12時間、ひたすらただ歩くだけの日々。その単調な営みのなかで、少しでも考える機会が欲しいとのこと。人の相談に乗っている余裕などあるのだろうか?
とにかく、彼はまた冒険の地に赴き、日本人が誰も成し遂げていないことに挑戦する。
・南極点無補給単独徒歩到達のスケジュール
2017年11月10日 日本出発
11月15日 プンタアレナス(チリ) → 南極大陸へ移動
11月18日頃 ヘラクレス入り江よりスタート
2018年1月7日頃 南極点到達予定
協力:荻田泰永南極遠征事務局
Photo:荻田泰永, used with permission.
執筆:佐藤英典
佐藤英典


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