
2014年3月、北極冒険家の荻田泰永氏はこれまでにたった2人しか達成し得なかった偉業に挑む。無補給、単独、徒歩での北極点到達だ。途中で補給をうけることなく、直線距離にして約800キロメートルの北極点まで、最大50日間かけて独りで歩き続ける。
・冒険の本当の魅力
「過酷」という言葉でさえも生ぬるいと感じるほど、壮絶な冒険に違いない。なぜ彼はそのような挑戦をするのか? 彼を冒険に駆り立てるものは何のか? 荻田氏にインタビューしたところ、彼の言葉から、冒険の本当の魅力が見えてきた。
・モヤモヤしたエネルギー
大学を中退した彼は、先輩冒険家である大場満郎氏の存在をテレビで知ることとなる。若者と共に北極へ行く旅を企画していた大場氏に、手紙を書き、この旅に同行するのである。大学を中退したことで、モヤモヤしたエネルギーのようなものだけが、彼のなかに残っていた。しかしそのエネルギーの使い方が分からず、日々をたんたんと過ごしていたという。北極への旅はそのエネルギーを使うのに、ふさわしい機会となったのである。
・単身北極へ行き、挫折を味わう
だが、初めての経験を終えた当初は、「また(北極に)行こうとは思わなかった」と振り返る。日本に帰ってきて、日常生活を送るうちにまた行きたいという気持ちがふつふつと目覚め、翌年一人で北極へと旅立ったのだ。
「自分の力を試したいという気持ちが強かった」
あえて一人で行くことを選んだのだが、これが失敗に終わる。大場氏がいるのといないのとでは、冒険そのものの質が明らかに違っていた。
・本格的に北極冒険に挑む
自分の力のなさを痛感したのだが、そこで彼の冒険は終わらなかった。いや、むしろ本格的に北極冒険へとのめり込んでいくことになる。ところで冒険とは何なのだろうか。彼の考える定義によれば、冒険には次の3つの要素が含まれている。
1.危険であること
2.主体性があること
3.試行錯誤をともなうこと
ただ単純に危なければ良いというものではなく、また僻地に行くことだけが冒険ではない。挑む者がリスクと主体的に向き合い、行動を選択し、試行錯誤をして目的達成を目指さなければならない。したがって、僻地に行くのは目的のための手段であり、裏を返せば日常にも冒険はありえるのだ。
・常に変化する氷の状態
北極冒険の非常に難しい点は、北極海に浮かぶ氷の上を歩くことにすべてがある。氷は常に同じ状態ではなく、「リード」と呼ばれる巨大な亀裂の発生や、氷と氷が衝突して「乱氷帯(らんぴょうたい)」と呼ばれる氷の山が築き上げられる。リードによって、何キロメートルも迂回を余儀なくされることもある。変化する氷のうえを、100キログラムにもなる荷物を持って歩かなければならない。少しでも判断を誤ると、行程が狂うだけでなく、命を落とすことさえもあり得るのだ。
・救助要請をしても2日かかる
「物事は極めてシンプルです。死なないためにどうするか、それしかない」
単純な言葉ではあるが、何度も死線を越えてきたからこそ、言える言葉ではないだろうか。半径500キロメートルのなかに、誰一人おらず、自分だけが氷の上を歩いている。何かあれば救助を呼ぶことも可能なのだが、現場に到着するのには2日程度かかるそうだ。救助が必要な状態をあらかじめ想定して、2日前に救助を頼む者などいるだろうか。危険な状態は突然起きる。つまり判断を誤ると、タイミングを逃してそのまま命を落とすことも考えられるのだ。
・「楽しくない(笑)」
頼りになるのは自分だけだ。そのヒリヒリするような緊張感のなかで、目的を達成することが彼の愛する冒険なのである。
「難しい目標のために、考えたり行動したりしたい。そのプロセスのなかにいたい」
彼は冒険の奥底にあるものに、魅了されているのである。辛くはないのだろうか? 本当に楽しいのかと尋ねると、「楽しくない(笑)」とニヤリ。だが、その口ぶりからは楽しくて仕方がないという雰囲気も伝わってくる。
・想像を絶する旅
ちなみに今回の挑戦では、リードを超えるためにフォールディングカヤックを使用する計画だ。出発地のカナダでテストを予定しているが、その結果もそのときまでわからない。とにかく北極の氷に降り立つまで、歩き出してからも、何が起きるのかわからない。
想像を絶する旅は間もなく始まる。どうか、日本人初となる単独無補給徒歩を何としても実現して欲しい。
参考リンク: 北極冒険家荻田泰永のページ、Facebook、著書「北極男」
執筆: 元ほぼ津田さん(佐藤)
以下の写真はFacebookページより
▼装備品の一部
▼栄養補給の必需品、カロリーメイト
▼ホッキョクグマの足跡
▼つらら状になったホッキョクグマのおしっこ
佐藤英典





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