電車の同じ車両に乗っている知らない人が、あなたの名前や職業だけでなく「きのう何していたか」まで知っていたら……? 急速に開発が進む顔認識技術により、街を歩いているだけで、第三者や政府機関に自分の身元を割り出されてしまうかもしれない。
Facebook写真とウェブカメラの画像を比較するソフトウェアを使えば、顔の一致・不一致をわずか3秒ほどで見分けられる。カーネギーメロン大学の研究者アレッサンドロ・アキスティ氏が、ITセキュリティイベント『ブラックハットUSA 2011』で発表した。
この調査でアキスティ氏は、大学生のFacebookプロフィール写真2万5000枚を集めてデータベースを作った。次に大学のキャンパス内にウェブカメラを設置し、通りがかりの人にウェブカメラを覗き込んでもらった。
そして、そのウェブカメラ画像を顔認識ソフトウェアが読み込み、一致するFacebookプロフィール写真を検索した。すると顔認識ソフトは3秒以内に、31パーセントの参加者の身元を特定する事に成功したのである。
研究チームはさらに、27万8000枚のFacebook写真を出会い系サイトのプロフィール写真6000枚と比較した。すると、登録メンバーのほとんどがハンドルネームを使っていたにも関わらず、10人に1人の身元を特定した。
「これにはプライバシー侵害の恐ろしいリスクがある」とアキスティ氏は話す。「本名が記載されているデータベースと連結する顔認識システムが広く採用されれば、公共の場で本来あるはずの匿名性は損なわれてしまう」。
このようなデータベースを、個人がFacebookだけをもとに作れてしまうわけで、政府機関であれば、これよりも遥かに大規模なデータベースを作れてしまうことになる。実際にFBIは、免許やパスポートの写真を何年も利用してきた。顔認識技術が法執行機関の手に渡ってしまうと、人権侵害の懸念を引き起こす。
しかし、アキスティ氏はこの技術はまだ完璧ではないことも認めた。正面から撮った顔写真が検索にはもっとも有利であり、横顔からの判別は苦手。そしてデータベースが大きくなればなるほど、比較にかかる時間は長くなり、誤判定も多くなる。アキスティ氏は「まだ改善の必要があるものの、技術が進むにつれてどんどん簡単になるだろう」と語っている。
人間の顔はDNAや指紋と同様に、個人のシンボルとなるものだが、使い方を間違えればプライバシーの侵害にも繋がる。DNAや指紋が犯罪者を特定する際に重要なツールとして使われているように、顔認識技術を犯罪者を捕まえるために利用するのは良いことかもしれない。しかし、どのように利用するとしても、人権を侵害しないようにすることがまず第一の課題となるだろう。