生きていれば、緊張する場面に出くわす機会はいくらでもある。例えば、結婚式などで慣れないスピーチを披露しなければならないとき。例えば、ミスを犯して客先に謝りに行かなければならないとき。例えば、意中のあのコに愛を伝えるその瞬間……。
吐きそうになることも、冷や汗が止まらないことも、誰かに聞こえてしまうのではないかと思うほど鼓動が激しくなることもあるだろう。だが、それらの緊張は理由がわかるし、経験を重ねれば少なからず慣れていくものである。だがしかし……。
理由がわからず、慣れようもないのが、路上で50mほど先に知り合いを見つけ、お互いに気付いてしまった瞬間からすれ違うまでの、“あの緊張感” である。