中国と言えば歴史。ただ長いだけじゃなく、例えば『三国志演義』とか『水滸伝』とか、歴史を下敷きに書かれたフィクションが多いことがそのイメージを決定づけているんじゃないだろうか。2次創作的な引用を含めると、これだけ語られている歴史も珍しいと思う。

そんな『三国志演義』とか『水滸伝』は明の時代に書かれたものだが、同じく明の時代に創業した中華料理屋が山西省大同市に現存している。その名も『鳳臨閣(ほうりんかく)』。創業500年以上の『鳳臨閣』には、歴史的な伝説が2つ存在する。中華料理屋なのに……!

・伝説その1「時の帝が女将に一目ぼれ」

まず1つ目は、明の第11代皇帝・正徳帝が身分を隠して訪れ女将である鳳姐(ほうねえ)に恋をしたという民間伝説。なんだか乙女ゲームみたいな伝説だが、それゆえか、多くの映画やテレビ作品がこの噂を元に作られているという。

・伝説その2「西太后が褒めたシュウマイ」

もう1つは、清時代の独裁者・西太后に関するもの。中国史の「三大悪女」の1人として悪名高さも轟く人物でもあるけど、その西太后が義和団の乱で西に逃れた時、『鳳臨閣』でシュウマイを注文して絶賛したという。ガチの歴史的反乱を絡ませてくるところが実に味わい深い。

・迫力がヤバイ

中華料理屋の歴史に時の最高権力者が2人も絡んで来るなんてどんな店なのか。猛烈に気になったので現場に行ってみた。こちらが中国山西省大同市、大同古城にある『鳳臨閣』で……で、で、デ、


デッッッッッッッ


ッッッッッッッカ!!!

レストランに絶対この規模いらんやろ。さらに言うと、明らかに新しい。行列ができる大人気っぷりも相まってテーマパークみたいになっとる。

・冷静でいられない内装

調べたところ、大同市の古城復元プロジェクトの一環として再建が進められ、2011年に新店舗として復元・再オープンを果たしたものなのだそうな。入店してみたところ……


内装ヤベエ……!


広いだけでなく3階建てになっていて、インナーテラスとか天窓みたいなオシャレさも取り入れつつ、川とか滝まである。店の中なのに!!


席に着いた時点で情報量が多すぎて何を見たらいいか分からない。落ち着け、俺! っていうか、冷静に考えてみたら……


入口の天井、金すぎない?

怖い。伝説であれだけ歴史オーラを出しといて大丈夫なのかこれ。しかし、この杞憂は日本人特有のものなのかもしれない。席を埋める中国の民たちは、むしろその映えっぷりにテンションが上がるのみのように見受けられた。家族連れから女子会まで本当に大人気スポットである。

・高級店ではあるけど

その豪奢な趣味の外観や内装で覚悟してたけど、メニューは結構お高め。西太后が絶賛したという「百花焼売」は9個入りで68元(約1600円)だ。その辺の大衆食堂の焼売は20元(約470円)くらいなので高級店と言って差し支えないだろう。

とは言え、よく見たら刀削麺とかは普通に10元(約240円)だし、サクッと食べられる普通のメニューもあった。こういう場所で全部が高いわけじゃないのはむしろ良心的な気がする。そんなわけで気になるメニューを注文してみた。

・宮廷料理ありけり

『鳳臨閣』は百花焼売がとにかく有名なのだが、メニューを見ていたら「宮廷八宝豆腐」という料理が目についた。八宝豆腐とは中国宮廷料理や清代の文献に登場する豆腐料理らしいので、宮廷料理を再現した的なノリなのかもしれない。価格は88元(約2100円)。

食べてみると、具はイカとかエビとか海系でメインの旨みを作ってるんだけど、そんな具の中にナマコがいることが結構衝撃だった。ナマコのコリコリしたみずみずしさがあるためか、全体の味がさっぱりしているように感じられる。

Geminiによると、中国でナマコが珍味として定着したのは、明末期から清初期のようなので、なんとなくの時代考証としては合っている気がしないでもない。まあ、宮廷料理というネームバリューを抜きにして考えると味的には普通だ。

・想いを馳せずにはいられない

一方、伝説の百花焼売は、さすがに見た目から違う。フリフリがついてて、焼売が地雷系ファッションを纏っているみたいだ。この可愛さにやられたと考えると、西太后に女子みを感じずにはいられない。スマホで連写するノリで「きゃわわ」となったのかも。

思わず伝説に想いを馳せてしまうところは百花焼売の醍醐味と言えるだろう。餡がたっぷり入っていて噛んだらドバドバ肉汁が溢れるジューシーさもまた分かりやすく良い焼売という感じがする。ただ、私が注文した中で最もウマかったのは……

「糖醋丸子」だ。これ、要は単なる甘酢肉団子なんだけど、カリッカリに揚がった外側と、中の肉がジューシーさのコントラストが最高だった。口に入れた瞬間はガツッとした当たりを感じるくらい固めなんだけど、その外膜を崩すと、中から肉汁があふれ出してくる。

しかも、価格も33元(約780円)と、そこまで高くない。伝説の一品の醍醐味とは違うものの、料理人の腕前を一番感じたのであった。

・『鳳臨閣』の奥

料理においては伝説とクオリティーの両面から満足させてくれたわけだが、実は席について料理を食べただけだと魅力の半分と言っても過言ではない。何を隠そう、『鳳臨閣』にはまだ奥があるのである。さっきトイレに行った時に気づいたんだけど……

飲食する席が集まる空間と別に、奥に雰囲気の違う謎の廊下が続いているのだ。その廊下を進んでみたところ……


宮殿の中庭みたいなのがあった。


スゲェェェエエエ!

レストランの奥に中国の宮殿が連結されたかのような空間があったのだ。ドラマとか映画を撮影できそうなくらいの完成度であり、その作りこみはもはやレストランの域を超えていると言っても過言ではない。

・宮殿にフルスイングしている

日本だったら歴史的レストランにこの空間は無駄に数えられそうなもんだが、事実、宮殿部を探検してみると楽しかった。2階にももちろん登れるし、ちょっとした迷路かというくらい広い。ここまでやられたらさすがに圧倒される。宮殿に対するフルスイングっぷりに笑った。

意味不明である。が、それが良い。そんなわけで、色んな意味で中国ならではのものを感じられた『鳳臨閣』。そのカオスさも含めて、文句なしに最高だったので、もし山西省大同市に行くことがあれば寄ってみて欲しい。

・今回紹介した店舗の情報

店名 鳳臨閣
住所 中国山西省大同市平城区古城街道 鼓楼西街与華厳街交叉口
営業時間 11:30〜14:00、17:30〜21:00
定休日 無休

執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.

▼奥の細い道の先に……

▼閻魔様がいた

▼中華料理屋の奥にはアドベンチャーがあった

▼動画はこちら