お好み焼き屋さんのカウンターに1人で座ってビールを飲む時間が好きだ。「愛している」と言っても過言ではない。あるいは「そのために働いている」と言っていいかもしれない。
つい先日のこと。その至高の時間を過ごしていたところ、店内が急に真っ暗になった。そして……そこから全く想像できない展開になったのである。
・店内が暗転
その日、私はいつものようにお好み焼きをつまみにビールを楽しみながら、店内にあるテレビをぼんやりと見ていた。まさに至福。そのとき、テレビが消えた。
あっ、と思っているうちに照明がすべて消え、暗闇に包まれる。ざわつく店内。ただ、ざわつきはお客さんの混乱から引き起こされたものではなく、今から何かが始まる期待ゆえに起こっているのだとすぐに分かった。
その予感を裏付けるように、店内の真ん中にライトが当たる。そこに出てきた店員さん。彼は言う。「即興劇の時間です」と。
・始まった
実を言うと、その数分前に店員さんから「即興劇が始まります」と説明を受けていた。その際に店員さんから渡されたのは、白紙の紙切れ。
なんでも、白紙の紙切れにお客さんが何らかの言葉を書き、その言葉に従って劇が進行していくのだという。
――と言われても、正直なところ何と書いていいか分からなかった。ただ、なんとかひねり出して店員さんに渡す。
そうやって集まった紙切れを、店員さんは全て床に置いた。この中からランダムに紙切れがピックアップされ、書いた言葉が読み上げられると同時に劇のストーリーが進行していくという。
・アドリブの連続
もちろん、書かれた言葉がすべてストーリーになりやすいわけではない。たまに、「どう考えても展開しにくい言葉」が読み上げられ、客席から笑いが漏れる。
それに対して、店員さん(役者さん)が強引にストーリーを展開させると、さらに笑いが起きる。あるいは、「おー」と声が漏れる。
最初は「なんだこれ?」と思っていた私も、開始2分くらいで引き込まれていった。即興だから次に何が起こるか予測がつかず、その瞬間瞬間が面白いのだ。そして何より、店員さんとお客さんの距離が一気に縮まっていく様子にホッコリする。
自分の書いた言葉が読み上げられたときは思わず下を向いてしまったが、役者さんが上手くストーリーにしてくれたので、そこまで変ではなかったようだ。ただ、これはあえて「展開しにくい言葉」を書くのが正解だったのか? と思わなくもない。
ちなみに、紙切れは全て読み上げられるので、書いた人は自動的に劇に参加する形となる。いちおう言っておくと、即興劇を見るのに追加料金的なものは一切かからない。
さて、ここで発表しよう。そのお好み焼き屋さんとは、鉄板ベイビー笹塚店。
店員さんに話を聞くと、鉄板ベイビーは新宿にも店舗があるが、即興劇をやっているのは現在のところ笹塚店のみだという(2024年10月時点)。
また、即興劇が開催されるのは毎週月曜日と木曜日の21時からとのことで、お客さんの入り具合によって時間が少し前後することもあるという。
・お好み焼きもメッチャ美味い
どうしても即興劇にばかり注目してしまうが、お好み焼きも忘れてはいけない。これがマジで美味しかった。広島風で、焼きそばはカリッと、中はフワッとした食感。
このお店では「おっこん」と呼ばれる……と思ったら、「広島ではお好み焼きのことを『おっこん』と言います」と店のメニューに書いてあったから、お好み焼きの呼び方を広島風に合わせているってことだろう。
なお、私のオススメは『海鮮おっこん(1880円)』だ。
・結婚したカップルも?
家に帰ってからもお店のことが気になったので、公式サイトを見てみることに。それによると、鉄板ベイビーの店員さんは「役者やパフォーマーなどを目指す人間ばかり」とのこと。
どうりで! あの空気感、普通の店員さんがここまでやるのか? と思っていたら、プロだったんですね。納得。
さらに読んでみると、なんと鉄板ベイビーでの出会いがきっかけで結婚したカップルもいるようだ。たしかに、あの空間はお客さん同士の距離が縮まりそう。
そういえば、当編集部には彼女を募集している記者がいたような……。
彼らにもお店のことを教えてあげようかな。
・今回ご紹介した飲食店の詳細データ
店名 鉄板ベイビー 笹塚店
住所 東京都渋谷区笹塚2-41-17 滝沢ビル2F
時間 17:00〜24:00
参考リンク:鉄板ベイビー
執筆:和才雄一郎
Photo:RocketNews24.
▼こちらは『せんじがら(530円)』というもので、店のメニューによると「広島のソウルフード」らしい