お好み焼きと言えば関西や広島が本場。きっと一番古いお好み焼き屋もその辺にあるのだろう。先日広島に行く機会を得たため、是非ともお好み焼きのルーツを攻めてみたい。

そう思ってググったところ、意外にも現存する日本最古のお好み焼き屋は東京にあることがWikipediaに書かれていた。それが昭和12年か13年に創業した、浅草の「風流お好み焼き 染太郎」。

さらに意外だったのが、「関西風」という呼称よりも「広島風」のほうが先に知られたらしいということ。マスコミが先に広島風を広めたそうだ。ほーん、広島風って結構強いのか。それなら広島風の元祖の店と、東京の最古の店を食べ比べてみたら面白いのではないか?

・みっちゃん

ということで始まったこの記事。ちなみに筆者は、今までの人生でレンチンする冷凍のお好み焼きしか食べたことが無い。それもはるか昔、中学生くらいが最後。

もはやお好み焼きがどういうモノだったのか、そのビジュアルすらおぼろげだ。食べ方とかわからんけど、まあ何とかなるやろ? という感じでフラッとやってきたのが、広島市内にある「みっちゃん総本店」の八丁堀本店。


公式HPにも、“広島の街に「お好み焼き」を誕生させた” とあるが、ここが「広島風お好み焼き」の元祖の店の1つらしい。開店とほぼ同時刻に来たが、すでにめちゃくちゃ並んでいる。


行列から明らかだが、中は完全に満席だ。コロナ対策の透明なプラ板で隣とは仕切られており、1人分のスペースは何品も注文するには狭いかもしれない。正面が他人のグループな点が少し気を遣う。


自分で焼くのではなく、店員さんが出来上がったものを持ってきてくれる仕組み。種類は豊富だ。初心者すぎてどれを頼むべきか迷うぜ。


とりあえず間違いなさそうな「特製スペシャル(1540円)」は確定として、隣のテーブルに居た広島県民のファミリーに声をかけ、「最もオーソドックスだと思う」という意見を参考に「そば肉玉子(869円)」もオーダー。

ファミリーの父親は広島生まれ広島育ちな高純度広島人らしいので、きっと間違いないだろう。メニューにも定番って書いてあるし。これでちょっと豪華なスタイルと基本スタイルの両方をカバーできたのではなかろうか。

さらに彼のおススメで「広島の人はほぼ食べる」らしい「コウネ(858円)」と、コウネを食うならマストというビールも、中ジョッキで(550円)オーダー。死ぬほど混んでいるため、お好み焼きの到着には時間がかかるもよう。


ということで、先にコウネがやってきた。牛の肩バラ肉の一部らしい。ググったら広島の名物だとか、ソウルフードだとか言われているもよう。全然知らなかったぜ。


食べてみると、味付けはかなり淡白。しかし肉自体に脂が多く、食べ応えがコッテリ気味だ。あと、肉質が硬めで噛み応えがある。完全に酒のツマミ


コウネをクッチャクッチャしながらビールを飲みつつ待つこと15分ほど。「特製スペシャル」が到着。


上は見ての通り玉子、そして底面は薄い皮のようなもので覆われている。もしかして、底面のこの薄いヤツが生地に該当するのだろうか? 


そうであれば生地自体は全体量に対し、かなり少ない気がする。その代わり、大部分を占めているのが焼きそばだ。周辺の麵はカリカリ気味だが、内部はもっちりしているのが面白い。


ソースは甘めで、デフォルトでたっぷりかかっている。オタフクソースだと思う。広島県民には追いソースをする人も多いらしい。そのためのソースがテーブルに置かれていた。


続いて届いたのが、定番だという「そば肉玉子」。こちらも基本構造は「特製スペシャル」と同じ。


例えば粉モノ繋がりで、もんじゃ焼き や たこ焼き の場合、バージョンを変えると生地に混ぜ込んでいる出汁の種類を変えてきて、同じ店でも味がかなり違っているケースがある。

が、少なくとも「みっちゃん」のような広島風お好み焼きの場合、生地そのものは薄く硬めに焼かれている。そのため、生地で味の違いは生じにくそうだ

したがって店ごとに生じるウマさの違いは、投入する具材、そして焼きそば部分の焼き加減や使用するソースの影響がメインかもしれない。生地のクオリティよりも、具材と焼き加減が重要みたいな。なかなか興味深い体験だった。


・染太郎

続いて場所を東京に移し、やってきたのは浅草。現存するお好み焼き屋の中では日本最古とされる「風流お好み焼き 染太郎」だ。「みっちゃん」は普通のビルに入っていたが、こちらはいかにもな雰囲気の建物。


店内は撮影禁止なためお見せ出来ないが、自分のテーブルで自分のオーダーしたものを撮る分にはOKとのことだった。自分で焼くスタイルで、テーブルごとに鉄板が用意されている。

ということで、注文したのは豚肉と揚げ玉、キャベツ、卵の入った「豚玉(950円)」。店員さんに聞いて、1番ベーシックなものがこれとのこと。

他には「牛天」や「生えび天」などあるが、基本的には具材が違うだけのようだ。そしてオーダーは、丼に入って生のまま届く。


ここからDIYするのだが、インストラクションは超シンプル。混ぜて、油をひき、焼くと。完全に初めてだから緊張する。


とりあえず混ぜて


鉄板に油をひき(テーブルにラードみたいなものが置いてある)


投下! キレイに丸くなっているが、筆者の危うい手つきを見かねたのか、店員さんがやってきて整えてくれた


片面を約5分ずつ焼いて完成。ひっくり返すのにちょっと手こずったが、なかなか上手くできた気がする。


「みっちゃん」では完成品が出てきたが、こちらではソースや青のり、マヨネーズ等も全てセルフ! 体験としてのエンタメ性は、「染太郎」に分がありそう。まあ、そこは本質ではないと思うが。


食べてみると、(自分で作ったのでなんとなくわかってはいたが)野菜のザクザク感が非常に強い。「みっちゃん」の広島風は焼きそばでモチっとしていたが、「染太郎」はキャベツでザクザクだ。

そして、ソースも完全に別物だと思う。甘くなく、どちらかというとしょっぱさが勝る。厚みのある生地との一体感もグッド。腹に括った一本槍で戦っているような、素朴な美味さだ


思っていた以上に、広島風の元祖と東京の日本最古の店のお好み焼きは違っている。どちらが美味いか……と言われると、正直困る。料理としてのクオリティで言えば、ぶっちゃけどちらも同じくらいではなかろうか

味付け自体が、甘い広島風元祖 vs しょっぱい日本最古で正反対だし、生地も広島風では底敷き程度の役割しか果たしていないような感じだったのに対し、日本最古は生地がメイン。

もはや別種の料理では? というほどに違う。確かにどちらも小麦粉を使っているのは確かだが、サンドイッチとハンバーガーくらい別物だと感じた。


・雰囲気の差

あまりに味も仕様も違いすぎるため、それぞれのお好み焼きから漂うイメージの差に注目した方が面白いかも知れない

完全に筆者個人の感性によるものだが、「みっちゃん」の広島風は複数人でワイワイやりながら、主食みたいな扱いでゆっくり食べる……みたいな情景がイメージされたのだ。

それに対し日本最古の「染太郎」は、小腹が空いた時にサッとやってきてパパッと焼き、バッと食べて素早く小銭で払い、風のように立ち去るような、そういうイメージ。お好み焼きの扱いは、あくまでスナック

もちろん、それぞれに対し、このイメージのような食べ方が正解というような主張ではない。だが、それぞれを食べながら直感的に思い浮かんだ光景はこんな感じだった。

ここで気になってくるのが、もう1つのビッグな勢力「関西風お好み焼き」だが……まあ、それはまた機会があった時にとっておこう。

参考リンク:みっちゃんWikipedia
執筆:江川資具
Photo:RocketNews24.
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▼コウネは広島県公式Twitterも推している。ガチらしい。