私事で恐縮だが、筆者は油淋鶏(ユーリンチー)が好きである。しかし同時に、「やや油淋鶏アンチ」でもある。

元々唐揚げやフライドチキンといった「鶏を揚げた料理」に目がなく、例に漏れず油淋鶏も大好物なのだが、一方で「ソースがかかっていることによる若干のパリパリ感の喪失」を口惜しく思ってもいる。油淋鶏と相対するたび、喜びと歯がゆさに心が軋んでいる。

かくして長年人知れず油淋鶏への愛憎を抱えて生きてきた筆者だったが、このたび2024年6月4日に登場したファミリーマートの新商品は革命としか言いようがなかった。その名も「油淋鶏ソースinファミチキ」である。

読んで字のごとく、本商品はお馴染みのホットスナック「ファミチキ」の中に、油淋鶏のソースを入れ込んだものだという。通常の「ファミチキ」の約2倍の時間を要する製法を導入し、開発に成功したとのことである。ちなみに価格は税込258円となっている。

この製法ならば、衣の食感を一切損わず、かつ油淋鶏の味も楽しませてくれるに違いない。最近のファミリーマートは「『あなた』のうれしい」をキーワードに活動に取り組んでいるらしいが、おそらくいま日本で最もその恩恵にあずかっている人間であろうという自負さえある。



ともあれ、そんなこんなで興奮にのぼせた筆者が手に入れた実物は、見た目においては当然と言うべきか、通常の「ファミチキ」と変わりはなかった。

しかしそれを半分に割り開いた瞬間、革命の波音が空気を震わせてやってきた。衣の中から顔を覗かせる鶏肉と、そして油淋鶏ソース。ソースには生姜や青ねぎといった具材もしっかり仕込まれているのが見て取れる。

たまらずかぶりつくと、感動が身を走った。何ら湿り気を帯びていない、完璧なまでにパリパリとした歯触りに次いで、甘酸っぱく爽やかな味わいが滑らかに舌に広がる。「理想の油淋鶏」がそこにはあった

適度な厚みの衣も、過度に滴らない量のソースも、精密に計算されていると感じる。それぞれがもつれ合うことなく並び立ち、しかし手は取り合って口の中で美しく共鳴している。いま筆者はようやく、曇りなく晴れやかな心で油淋鶏と向き合うことができている。

つくづく革命である。コペルニクス的転回である。ファミリーマートの企画部にコペルニクスがいる。もっと言えば、おそらく油淋鶏アンチのコペルニクスである。「これこそが正しき油淋鶏の姿だ」と、自ら真理を導き出した天才である。



とはいえ、「油淋鶏ファミチキ」にも欠点はある。「理想」や「真理」と書いたものの、あくまでそれらには「油淋鶏アンチにとっての」という枕詞がつく。

例えば「油淋鶏の若干湿った食感こそがむしろ至高なのだ」という人が、本商品で満足できるかはわからない。また衣の中にソースを入れるという制約がある以上、「油淋鶏はソースをたっぷりかけたものに限る」という人も物足りなさを覚えるかもしれない。

が、何にせよ本商品が、このたび「新たな油淋鶏の形」を世界に提示したことは揺るぎない事実である。当記事を読んで興味の湧いた方は、ぜひとも今すぐ体験してほしい。少なくとも筆者の心は、油淋鶏ソースと一緒に、「ファミチキ」に取り込まれてしまっている。

参考リンク:ファミリーマート 公式サイト
執筆:西本大紀
Photo:Rocketnews24.