いよいよ週末に迫った「コミックマーケット103」。夏コミの際に、私のリアルな装備を紹介した記事が大変参考になったと各所で話題だった。
当日には実際に私の服装を完コピし、ミレーの網とアンダーアーマーのヒートギアを着込んで、本当に快適だと述べていた人も現地で見かけた。
役に立って何よりだ。であれば、毎年の冬コミ取材の果てに行きついた防寒装備も、きっと有用だろう。
・たぶん不要
しかし、今年は不要だと思う。というのも、2023年12月28日13時発表の気象庁の週間天気予報によると、東京の30日の最高気温は驚きの15度。
31日は雨らしいが、16度もあるらしい。春かよ。ということで一応紹介はするが、天気予報が大外れしない限り、このガチな対冬コミ装備は役に立たない。
これはあくまでも、午前4時ごろに氷点下ギリギリの中で家を出て、暖房が効きすぎな始発に乗り、海からの寒風に耐えつつ粉雪の降るビッグサイト屋上でコスプレ取材を続け、再び暖房が効きすぎな満員電車で帰る……という地獄の寒暖差に晒されてなお体調を崩さずに年を越すための装備。
今年はヌルすぎる環境なので、適当な服で参加すればいい。紹介する内容は、何か別の機会にでも活かしてくれ。
・ミレーの網
まずは一番重要なアイテムから。ミレーというブランドの「ドライナミックメッシュ」というインナーだ! マジで神。必須。
冬コミ取材の真の敵は、実は寒さではない。寒い屋外と、暖かい屋内による寒暖差の波状攻撃だ。
極寒対策で厚着をした状態で多数の参加者ですし詰め状態の屋内に入ると、凄まじく汗をかいてしまう。
多くの戦利品をゲットすれば、重い荷物を運ぶことになり発汗量は増えていく。すると、再び外に出た際に汗で濡れた服が冷えまくって体温が下がり、体調を壊してしまう。
私は仕事なので戦利品を得られないが、最初から最後まで約10㎏ほどの撮影機材を常に背負っているため、屋内に入るとすぐに暑くなってしまう。
そこで、夏コミにて汗対策の神として機能したミレーの網が、冬コミでも再び神となる。こいつさえ着ていれば、暑かろうが寒かろうが、どんな環境でも汗による問題から解放されるのだ。
夏コミで紹介した際に、値段が高いからとスルーした方もいただろう。しかし冬コミでも使えるのだ。今後も参加するなら絶対に元をとれるので、さっさと買った方が良い。
なんならワンフェス、TGS、FGOフェス、ブルアカフェスなど各種リアイベの他、過酷なベルーナドームで行われるラブライブなどのライブでも有効だ。
信頼できる類似品に、ファイントラックのドライレイヤーというものがある。私も、コミケで私の記事を読んだオタクに勧められて知ったのだ。
早速購入し、めちゃくちゃ酷暑だった9月の奈良取材と長崎取材の道中で、密かにこちらを試してみた。
ミレーの網より汗の処理が微妙に劣ると思ったが、しかし着心地とビジュアルはファイントラックが優れている。
ミレーの網には、人前で脱ぐと網タイツが食い込んだセクシーすぎるボディで周囲を誘惑してしまう効果があるが、ファイントラックにはそれが無い。値段は似たようなものなので、どちらでもいいと思う。
・ジオライン
夏コミでは、速乾性能に極振りしたウェアを網の上に着るのがお勧めだった。しかし冬にそれだと寒い。速乾性もありつつ、保温性能も有したものが欲しい。
そこで気に入っているのが、モンベルのジオラインだ。ぱっと見は普通のシャツにしか見えないこちら。着るとマジですげぇ。
かつてはジオラインではなくアンダーアーマーのコールドギアを愛用していたのだが、こちらは暖かいものの、速乾性が足りないと感じていた。評判のいいジオラインを試して気に入り、乗り換えた形だ。
仕組みは不明だが、ジオラインは素晴らしい乾きの速さと、謎のヌルっとした暖かさを有している。
ジオラインには薄手、中厚手、そして厚手がある。ミレーの網と併用する場合に限り、0度くらいまでの気温なら薄手で十分だと感じている。
ただし、見ての通り防風性能は皆無。引っ張ると透けるくらい薄い。これはあくまでインナーであるという認識が重要だ。この上に何らかのシャツと、いつも着ている冬用の上着を着ると良い。
私は網とジオラインの上には、ユニクロだかの長袖シャツと、普通のライダースジャケットなどを着て冬コミに参加している。薄着に見えるかもしれないが、気温が一桁あるなら私はこれで快適だ。
ここ最近でジオラインの中厚手が出番となったのは、氷点下な山形の某豪雪な観光地で撮影した仕事の時と、釣りをしに日本海側で漁船に乗った時くらいだった。
ミレーの網を着ない場合、ジオラインの薄手だけでは心もとないと思う。着た方は分かると思うが、ミレーの網は暑かろうと寒かろうと体感温度を一定に保つ性能が意外に高い。網が嫌な人は中厚手や厚手にした方が良いと思われる。
・ここから防寒対策
というわけで、ここまでは防寒というよりも、汗対策が本体のようなものだった。ここからが本格的な防寒となる。
さて、寒いと感じた時には、一度冷静になり、具体的に寒いのは体のどの部位かを考えてみることが重要だと考えている。
これは私の見解だが、寒い寒いと言っても、多くの場合胴体部分は言うほど寒くないと思うのだ。この部分が寒いのは、それはもう着ているコートなりジャケットなりがおかしい。
いくら着込んでも寒さを感じがちなのは脚部と、手足の先端部ではないかと。
・ブレスサーモ
特に面積が広い脚部は大切だ。ここを何とかするだけでだいぶ変わる。しかし、この部位でできることは多くない。ぶっちゃけタイツを はくくらいだろう。
色々あると思うが、私が個人的に気に入っているのは、ミズノのブレスサーモ for Activeの中厚と厚手だ。冬コミには中厚で、もっと過酷な現場には厚手を はいていく。
ブレスサーモにはfor Dailyもあるが、こっちは微妙なのでお勧めしない。理由は後述する。
・靴下
足の防寒も重要だ。ビッグサイトの屋上で何時間も撮影していると、足の爪先が寒さで痛くなってくる。
立ちっぱなしによる踵付近の痛みと寒さによる爪先の痛みが混ざり合ってよろしくない。夏コミには無い苦しみだ。ぶっちゃけ、冬コミで一番つらいのは足かもしれない。
夏コミでは汗捌(さば)きの素晴らしさとサポート力の高さから、ガッツマンの100㎞行軍用靴下をお勧めした。あれは真に良いものだ。
しかし、冬コミでガッツマンは寒い。五本指ソックスが駄目なのだ。表面積が大きくなるせいで、放熱性が高まってしまうのだろう。
そこでお勧めなのが、薄くて速乾性能の高い五本指ソックスの上に、普通の指が分かれていない靴下を重ね履きすることだ。
私が使用しているのは、Injinjiのライナークルーという極薄のインナーソックス。薄いのにGUとかの靴下よりだいぶ丈夫で、よく乾く。Amazonは高いので、ヨドバシで買うと良い。
その上に履くのが、モンベルのメリノウールの靴下。写真のこれが中厚だったか厚手だったかは忘れた。これも、高いクッション性能と保温性能を持っていて素晴らしい。何なら家でも履いている。
このセットはマジでヤバい。足の防寒の “答え” が出てしまったと思う。これで駄目なら、それはもう靴を変えるしかないのだ。
上位互換が出ない限り、もう二度と防寒系靴下を紹介する記事は書けない。暖かい靴下は昨今多いが、だいたいが時間と共に蒸れてクソになるし、暖かさに全振りで歩くことを考えていなかったり、耐久性に難がある。
しかしこの組み合わせは暖かさとドライ感がダンチで、その上いくらでも歩ける。
金はかかるが、このセットを知るともう他は全部クソに見える。やたら丈夫で、エクストリームなスポーツでもしないかぎり何年も持つため、何だかんだで元をとれる。
買う際には、モンベル店舗で実物を確認した方がいい。底や側面にサポートが入っていて厚みが変則的だったり、丈や種類が複数あるからだ。
・ヒートテックは地雷
この手の防寒装備で絶対に話にあがるのは、ユニクロのヒートテックだろう。吸湿発熱素材で、着るだけで暖かいというもの。
素材の性能については間違いなく、実際に暖かい。仕組みそのものは上でお勧めした、私も実戦投入しているミズノのブレスサーモと変わらない。
しかし私がヒートテックを着るのは寝る時と、パジャマのまま家から出ないと決め込んだ時だけだ。外出時や、寒冷地での取材・撮影現場では絶対に採用しない。
理由は一つ。ヒートテックは暖かいばかりで、全く汗が乾かないからだ。そしてヒートテックの吸湿発熱性能は、湿り気を感じるほどに濡れてしまうと無力。
汗をかいて湿ったヒートテックは、ただの乾きの悪い寒い布となってしまうのだ。脱いだ方が暖かい。
夏コミでのエアリズムは無力なだけだったが、冬コミでのヒートテックはデメリットの大きさからして地雷だ。着ていくと、背中あたりが汗でベチャっとなったまま乾かず、それが冷えて寒さに震えるしかない。
ユニクロの商品開発班は、荷物を背負って寒暖差の激しい場所を短時間で行き来する肉体労働の現場を想定していないと確信している。
綾瀬はるか の顔と髪のメイクが崩れないくらいまでの運動がヒートテックの許容範囲。CMに隠された真のメッセージはこれだと思う。
ブレスサーモのfor Dailyをお勧めしないのも同じ理由だ。for Activeと比較してめちゃくちゃ安い(Amazonのセールだとヒートテックより安い)のだが、機能性はヒートテックと変わらないと感じた。
・防寒は金で買うもの
というわけで、これが毎年の厳しい冬コミ取材の果てに行きついた、私がリアルに実戦投入している冬コミ対策だ。
まあ実のところ、冬コミどころか、その他の寒冷地での撮影仕事でも同じような装備で挑んでいる。変えるのはモンベルの靴下を厚手にするとか、そういうグレードアップのみ。
金額的に安くないので、ハードルの高さは否めない。しかし、これまでの冬季の撮影仕事の経験上、費用対効果が高いのはアウターよりもインナーで、インナーの性能は価格に比例するし、これが宇宙の真理だ。
“安くていいもの” は、未だ存在しない。”安くてもそう悪く無いもの” は存在するが、安いなりの快適さしか得られないのが防寒装備業界だと感じている。
そういえば手について紹介していないが……これはフォトグラファーという職業上、指先まで防寒・耐水しつつも機材の細かい操作が不可欠という特殊な事情があり、他の部位よりも専門性の高いセレクトになってしまっている。
金もかかるので、書いてもその時点でスルーされるだろう。たぶん同業者や、その他の寒い中で細かい手作業をしなければならない趣味・職業の人にしか需要が無いと思うので、ここでは紹介しない。
コミケ会場で聞かれたら普通に教えるし、気が向いたらブログかYouTube辺りで紹介するかもしれない。
参考リンク:気象庁
執筆:江川資具
Photo:RocketNews24.