群馬県の最北端に位置する「みなかみ町」。緑豊かな山々に囲まれたこの町には、「土合(どあい)駅」という地下駅が存在する。

プラットホームは地下およそ70メートルにあり、地上改札までの階段は462段におよぶそうだ。

エレベーターやエスカレーターもなくて少々不便な駅だが、ダンジョンを探検しているような気分が味わえると評判らしい。今回はグンマーの人気観光スポット「土合駅」をレポートしていこうと思う。


・駅のホームは地下要塞!?

まずは群馬県と新潟県を結ぶJR上越線の電車に乗り込む。

しばらくガタンゴトンと揺られながら県境にある “秘境駅” を目指していく。

車窓から眺める山間部は風情があって素晴らしい。このような景色を見るたびに、もし自分がここで暮らしたら一体どんな生活を送るのだろう……というイメージが膨らむ。


旅情に浸っていると電車がトンネルに突入。少しして目的地「土合駅」の地下ホームに到着した。

人がたくさんいて想像より賑やかである。日曜日ということもあってか、観光客らしき人々がゾロゾロと下車していく。


ホームに降り立った瞬間、ひんやりと冷たく湿った空気が肌にまとわりついてくる。過ぎ去っていく電車の風で肌寒さが増すものの、シーンと静まり返った薄暗い空間はどこか心地よい。


がらんと広い巨大トンネルの存在感たるや……もしかしたらここは秘密の地下要塞なのではないか、と思えるくらい魅力的だ。


蛍光灯に照らされてボンヤリと浮かぶコンクリート壁は、われわれ駅利用者に恐怖心を抱かせるような迫力がある。

もしこの場に筆者以外誰もおらず、ひとりぼっちだったとしたら結構ビビってしまうかもしれない。


やや緊張しつつも周りを観察していると……あれ、「上りホーム(東京方面)」が見当たらないではないか。

地下にあるのは「下りホーム(新潟方面)」のみ……単線(上下線共有)かとも思ったが、どうやら上りホームは地上にあるらしい。

なかなかおもしろい構造をしている駅だ。そろそろ改札出口へ向けて「土合駅」の名物階段をのぼってみるとしよう。


ホームを抜けると美しく壮大で過酷な階段が姿をあらわす。のぼり口付近は記念写真を撮る人が多数。

小さく光るてっぺんを皆一様に見上げていた。胸が高鳴ると同時に、無事のぼりきれるだろうかという一抹の不安がよぎる。


ふと、年季の入った案内看板が目についた。モグラのキャラクターいわく、ここ「土合駅」は “日本一のモグラ駅” とも呼ばれているのだとか。

そう言われてみれば確かにモグラの巣穴っぽい駅だ。これほど地下深くにあるプラットホームは滅多にないだろう。



・462段の階段をのぼってみた

階段は5段ごとに踊り場が設けられている。ほどよく休憩を挟めるので比較的のぼりやすい。

足元を見てみると階段に番号が記されていた。のぼってきた段数がわかりやすくて助かるし、少しずつ達成感を味わえるのは結構うれしい。


200段目あたりから気圧の変化によって耳がツンとしてきた。途中、踊り場のベンチに座って “耳抜き” をしながら少々休憩。

額にジワリと汗がにじむ。地上に近づくにつれて気温がどんどん上がっていくのを肌で感じる。


350段目……ハァハァと息があがり汗だく状態。再びベンチで休憩したいところだが……すでに満席。

てっぺんまでもう少し、このままがんばろう。


最後のステップ、462段目をのぼりきってゴール。……なんと心地よい疲労感なのだろう。

駅の階段をのぼっただけなのに達成感がハンパない。まるで山の頂に立っているような気分だ。実に気持ちがいい。

たっぷりと余韻に浸ったあとは、地下エリアに別れを告げて改札出口へと向かう。



・意外な事実

目の前には広々とした連絡通路。窓から差し込む太陽光が眩しい。通路の奥に見えるのは屏風(びょうぶ)っぽい謎の仕切り板。その先に改札出口があるのだろうか。

歩みを進めていくと……


「お疲れさまでした」と書かれた扉が出現。ねぎらいの言葉をかけてくれるとは嬉しいものだ。

いよいよ外に出られるぞと思ったのだが……


まだまだ階段があるらしい。扉に書かれた文言によれば、改札出口までは残り143メートル。階段は残り2カ所で24段ある模様。

「土合駅」の名物階段は462段だと思っていたが、正確には “486段” だったということか。なるほど、あのときに喜ぶのはまだ早かったわけだ。気を取り直して先に進むとしよう。


扉の奥にはブロック塀に囲まれた細長い通路があった。

窓から木漏れ日が美しく差し込む幻想的な空間。光と闇のコントラストがたまらない。苔の生えた壁や寂しげな蛍光灯を見ると “隠し通路” のようにも思えてくる。


残り24段の階段を軽やかにのぼり、やっと改札出口に辿り着いたぞ。なかなかノスタルジックな改札口だ。もぎりの駅員さんや自動改札機はどこにも見当たらない。きっぷは回収箱に入れるが、交通系ICカードの場合は……


最寄り駅などで乗車分を申告して精算するのだそうだ。

わりと面倒……。電車で「土合駅」へ向かう際は、きっぷの利用をオススメする。

改札付近に「乗車駅証明書」を発行する機械があるので、この駅から乗車する際は “証明書” を必ずゲットしておこう。


とりあえず外に出て駅舎を眺めてみる。ものすごく尖った形をしていてカッコイイ。青空に三角屋根が突き刺さりそう。

よく見ると漢字の「土」と「合」が合体したような見た目をしている。駅名にちなんでデザインしたのだろうか。



のんびりとしていたら帰りの電車の時間が近づいてきた。

地上にある上りホームへ移動したあと、しばらくしてやってきた電車に乗り込む。地下と地上とではホームの雰囲気が全然違っていておもしろかった。

「土合駅」で過ごした時間は、ダンジョン(ゲーム)を攻略するときの感覚に似ている。

地下を探検したり、出口を求めて階段をのぼりまくったり、隠し通路っぽいところを歩いたり……。ここはゲームのようなスリルや興奮を味わえる場所、と言っても過言ではない。

もし、一風変わった非日常的なひとときを過ごしたければ、ぜひ “日本一のモグラ駅” こと「土合駅」に行ってみてはいかがだろうか。


参考リンク:みなかみ町観光協会
執筆:古沢崇道
Photo:RocketNews24.
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▼きっぷ売り場のカウンターで飲むアイスコーヒーは格別

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