誰もが1度くらいは「もう働きたくない」と頭によぎったことがあるハズ。……が、資本主義の現代社会は「働かるざる者食うべからず」である。そんな中で「働きたくない」と公言したら、ある意味で “人間失格” の烙印を押されかねない。だがしかし……。
つい数カ月前にTwitterでバズった大阪のとある飲食店のご主人は、堂々と「働きたくない」と公言している。お店の名は『梅田羊肉串』──。私(サンジュン)の「大阪で絶対に行ってみたいお店No.1」だ。
・働きたくない店主
開店時間も閉店時間も気分次第。入店するにはお店のSNSのフォローが必須で、プロフィールには「働きたくない店主」と記載されている梅田羊肉串。ご主人の名は尾儀洋平さんという。
尾儀さんがバズったツイートは「串打ちしてくれる人は羊肉串食べ放題」という内容で、それまでは店名になっているにもかかわらず、しばらく羊肉串を提供していなかったんだとか。その理由が「とにかく店主は働きたくない、とくに串打ちは本当にやりたくない」だというから驚くしかない。
羊肉大好きっ子として、当初は『梅田羊肉串』の料理に惹かれていたが、ここまで振り切っているとお店そのもの、つまりご主人に興味が湧いてきた。そしてついに先日、大阪で念願の『梅田羊肉串』に足を運んできた次第だ。
・出たとこ勝負
ツイートから察するに、ご主人は相当な変わり者。SNSを通じて事前の許可取りも考えたが、文字だと上手く真意が伝わらない可能性もある。ここは出たとこ勝負が最善策……! というわけで入店直後に身分を明かし、取材させてもらえないかお願いすることにした。すると……
「はぁ、じゃあどうぞ」
なんという脱力感……! わかっちゃいたが想像の6倍くらい変わってるぞ、この人。……が、私には超強烈な助っ人がいた。同じく大阪入りしていた、当サイトの「亀沢郁奈」だ。
場合によっては「デリカシーに欠けている」と言わざるを得ない亀沢だが、ズケズケと人の懐に飛び込む能力は図抜けている。この日も「じゃあ飲み始めちゃっていいですか?」などと軽口を利きつつ、梅田羊肉串を心底楽しんでいた。つ、強いぜ亀……!
で、梅田羊肉串は「飲み放題1時間1000円」「永久に出てくる料理が営業時間中は1000円」という変わったシステム。ドリンクは冷蔵庫からセルフサービスで、ゴミの片付けも客が行うスタイルだ。
・料理は超ウマい……が
さて、乾杯しつつ適当に飲み始め、1品目に出てきたのが茹でた羊肉。そしてこれが激ウマ! ちょっと感動するほどウマかった。……が、ご主人によれば「ネットで検索したレシピです」とのことであった。そ、そうですか……!
さらに亀と適当に飲みつつ次の料理を待っていたところ、ご主人がカウンターから客席側に移動し始めた。カウンター席に腰かけたご主人が始めたのが……
大乱闘スマッシュブラザーズ。
変わってる……やっぱりこの人変わってるよ……! その後も初めて店を訪れたと思(おぼ)しきカップルの入店を「なんか違ったんですよね」とあっさり断ったご主人。この時点では私も「マジで本当の変わり者なのかな?」と思っていた……のだが。
・ただの変わり者では無かった
その後、何人かの常連さんの様子を見て、なんとなくご主人の目指す店がわかった気がする。というのも、常連さんたちは特に気負うことも無ければ無礼講でもなく、ただただ普通に梅田羊肉串を利用していたのだ。
出勤前にご飯を食べに寄っただけの女性。ご主人と大乱闘スマッシュブラザーズの勝負をしにきた男性。そしてかなり夜遅くに、ちょっと一杯やりに来た男性客。私にとってはアウェイだったからこそ、常連さんたちにとって梅田羊肉串が「超ホーム」であることがよく伝わってきた。
また、ご主人に突っ込んだ話を伺おうとしたところ「マーゼル大阪に載ってるんでそれを見てください」と言われたためマーゼル大阪より引用するが、要するにご主人の「働きたくない」の真意は「好きな人や好きな空間のためだけにしか働きたくない」という意味なのだろう。
だからご主人は合わないと思えば容赦なく入店を断るし(この日だけでも6名!)、逆に常連さんたちとは和気あいあいと穏やかな時間を過ごしていた。尾儀さんにとって『梅田羊肉串』は、ようやくたどり着いた理想郷なのかもしれない。
ちなみに亀沢はかなり『梅田羊肉串』がお気に召したようで、その日に会った全ての常連さんたちと数年来の友人かのように接していた。帰り道に「いい店だったねー!」としつこいくらい言われたが、確かにいい店だった。むしろ羨ましさすら感じた次第である。
なお、途中でウワサの「羊肉串の串打ち」も体験させてもらったが、それより印象的だったのはご主人の秘めたる闘志。漂々とした風貌とは裏腹に「好きな人たちと空間を守る」という強い意志を感じずにはいられなかった。人間だもの、入店を断るのも勇気がいるぜ?
誰にでもオススメできる店では無いし、入店を断られていい気持ちになる人はいないハズ。ただ「こういう店がもっとあっていい」と思ったし「むしろこういう店が増えていくのでは?」とさえ感じた。
ご主人は「お客さんは料理じゃなくてこのコミュニティにお金を払ってくれてるんじゃないですかね」と言っていたが、その通りなのだろう。その源にあるのはご主人のヤバいくらいの気合い、肝の据わり方。梅田羊肉串、相当ヤバいお店でした。
・今回ご紹介した飲食店の詳細データ
店名 梅田羊肉串
住所 大阪市北区堂山町6-14 第1松栄会館301
時間 ご主人の気分次第
休日 日曜日
参考リンク:マーゼル大阪
執筆:P.K.サンジュン
Photo:RocketNews24.
[ この記事の英語版はこちら / Read in English ]
▼こちらがバズったツイート。
お待たせしました、羊肉串についての発表です。
とにかく店主は働きたくない、とくに串打ちは本当にやりたくない。
なので店名になっているにも関わらず長いこと羊肉串を出していませんでした。
ほんの少しぐらいは申し訳ないとは思っています。そんな感じでぬるりと串打ちをフェードアウトした↓ pic.twitter.com/jRagfpJiIU
— ホワイト企業 梅田羊肉串@働きたくない店主 (@yanrouchuan) May 24, 2023
▼開店時間も気分次第。当日、オープンするのかハラハラしたーーー!
興が乗ってきたので5分後開けます。 pic.twitter.com/kaUpSc4DZK
— ホワイト企業 梅田羊肉串@働きたくない店主 (@yanrouchuan) August 4, 2023