私は鳥取県中部と西部のハーフ。鳥取は横に長い形をしていて、東と西では文化も言葉も全然違う。私の実家は中部だが、いつも心には西部のスピリットが燃えている……とか言うと中部が気を悪くするだろうか? どのみち純度100%の鳥取県民なので許してね!

そんな私の魂の故郷こと境港市は鳥取県西部でも最西端に位置し、鳥取と島根を足して鬼太郎で割ったような独特の文化を多く有する土地だ。今回は私が特にオススメ(?)する風習『法事パン』についてご説明しよう。

・法事パンの分布図

法事にパンを配る風習は米子(鳥取西部)や松江・出雲(島根東部)といった境港の周辺地域でもみられるそうだが、詳しい分布図は不明。ちなみに私の実家がある鳥取県中部には、そのような風習は絶対に無い。


ただ松江市出身の佐藤記者は「法事パンの存在は知っていたが、少なくとも個人的には、松江で法事パンをもらった覚えはない気がする。でもお隣の安来市には、法事パンの風習があったと思う。興味がないので詳しくは知らんが」と証言。

以上のことから、法事パン文化が現在も色濃く残っているのは、やはり境港市なのではないか? という気もする。が、確信はないのであしからず。ひとまず法事パンに興味がある県外者は境港市を目指しておけば間違いないはずだ。


・法事パンとは

さて法事パン文化とは、法事を行う側が参加者にアンパンやクリームパンを配るというものである。

1人あたり平均5コくらい配るので、家にはアンパン入りのダンボールが山積みに。

で……この法事アンパン、なぜか信じられないくらいウマい。世界一を名乗っていいと思う。

法事アンパンの特徴は、包装が法事仕様になっているところ。

ケシノミがこしあん、黒ゴマがつぶあん(私は絶対つぶあん派)。この少しつぶれたビジュアルが「法事のアンパンだなぁ」って感じするぅ〜〜〜!

フワッとして、シトッとして、それでいて歯ごたえがあり、素朴で、でも古臭くない。私は割とアンパンを買うほうの人間だが、これまで法事アンパンを超えるアンパンに出会ったことはない。少し不謹慎だけど、法事が楽しみになっちゃうクラスのおいしさなのである。


・境港の超名店

今さらながら法事パンのウマさの秘密を知りたくなった私は、ウチが法事パンを発注しているパン屋に直接聞いてみることにした。近年は法事パンを手がけるパン屋が少なくなり、素人がウカツに手を出せる領域ではなくなってきている。

境港市中野町の住宅街に突如出現する『足立製パン』は、時間帯を問わず行列が出現する人気店。

境港出身の友人いわく「境高校の生徒や上道校区民はマジで足立製パンが大好き」であり、「境港市民のソウルフード」と呼ぶべき絶大な存在感を放っているそうだ。法事パンの取材で訪れてる場合じゃない気もするが、このさい仕方ない。

種類の豊富さは東京のパン屋が全裸で逃げ出すレベル。見てるだけで幸せな気持ちに!

アンパンとクリームパンをミックスして法事パンとする家庭も多いらしい。ウチはアンパンだけ派だった。

通常商品としてのアンパンもある。もちろんおいしいが、法事パンとは少し違う気がするんだよなぁ? 違いますよね?? 教えて、足立製パンの人!


足立製パンの人「材料は同じですが、法事用のアンパンはサイズ大きめでアンコも多めに作っています。大きいほうが見栄えがいいですからね」

──やはり、そうでしたか! ちなみに法事じゃなくても法事アンパンを注文することは可能ですか?

足立製パンの人「え? はい、できます。法事以外の注文はほとんど無いですが、町内会の集まりで配る用などの注文も、稀にあります」

──最小で何個から注文可能なんですか?

足立製パンの人「えっ? いやぁ……別に何個からでも大丈夫ですよ。3〜4日前までにご注文いただければ、お作りできます」


・朗報にもほどがある

なんと、個人向けの小ロットでも注文可能であることが判明した足立製パンの法事パン(価格は税抜1コ150円)。法事のときしか食べられないと思ってきたが……これは朗報すぎる!!!

なお法事パンの注文数は月によってバラつきがあり、圧倒的に3月が多いのだそうだ。これは一周忌より春の彼岸を盛大に弔うという、この地方独自の文化「ふじ(諷誦)」の影響によるものと思われ、ますます奥が深い鳥取県西部の法事事情なのであった。

とにかく何が言いたいのかというと、境港へお立ち寄りの際は足立製パンへ足を運んでみてくださ〜〜〜い!


・今回ご紹介した店舗の詳細データ

店名 足立製パン
住所 鳥取県境港市中野町5576
時間 7:30〜19:00
定休日 日曜日

執筆:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.

▼足立製パンで1番か2番の人気商品だという『明太フランス』(税込270円)

▼2番目か3番目に人気だという『クロワッサン』(税込172円)

▼うちの叔母さんイチオシの『ピリエドゥオル』(税込259円)

▼叔母さんが2番目に推す『ジャーマン』(税込151円)

▼私がアンパンの次に好きな『かりんとう』(税込259円)