「握手券」といったら、アイドルなどのイベントでお馴染みの商材のひとつ。握手する権利を得るために購入するチケットだ。……普通はね。

ところが! 埼玉県のとあるラーメン屋さんでも握手券を販売しているらしい。しかも10円で! はたして、本当に売っているのか? そして10円の価値はあるのか!? 実際にお店を訪ねたら、ツッコミどころ満載だけど、美味しいラーメン屋さんであると判明した!!

・握手券のあるラーメン屋!

お店についての情報をもたらしてくれたのは、当サイトのアホな上司としてお馴染みのYoshioである。彼は言う。


「なんかさあ、新狭山の方に握手券を売ってるラーメン屋さんがあるんだよね。面白そうじゃない?」


正直に言おう。私(佐藤)はこの男の言うことを半分信用していない。いや、3分の2、信用していない。なぜなら、時々デマかせを言うことがあるからである。当然、この話も信用していない。

が! たまに本当のことがあるから困る。念のため、彼の証言の裏をとろうとお店にやってきた。場所は西武線新狭山駅から徒歩約10分。交通量の多い国道16号線沿いにあり、「濃厚鶏白湯らーめん」の看板が目印のお店だ。


看板にある通り、お店は鶏白湯スープにこだわっているようだ。入り口にはポールが立ててあり、日によっては行列ができることもあるようである。車では入りにくい場所にあるのだが、行列ができるということは、相当な実力店と見て間違いなさそうだ。


入店して券売機を見ると、トップには「濃厚すぎる鶏白湯」が2種(醤油・塩)、それから熊本ラーメンの「マー鶏(トリ)ックス」。そして「濃厚煮干しラーメン」と並んでいる。

一見すると、ラーメン屋さんのラインナップとしては妥当な気がするのだが……。


右の端っこの方にあった! 握手券10円!! マジだったーッ!


Yoshioが言っていたことは本当だった。Yoshioよ、疑ってすまん。今後はもう少しだけ信用するように努める


・遊び心あふれる仕掛けが満載!

さて、カウンターに座って、食券を2枚出す。1枚は濃厚すぎる鶏白湯(醤油:税込980円)。そしてもう1枚が握手券10円である。

すると、店主が「どこかで見たんですか? Instagramとか」と仰る。お店のInstagramには、過去に握手した方々との記念写真が投稿されているのである。

「インスタもホームページも拝見しました。握手、お願いします!」と言うと、食後に握手して頂けることになった。

実は店主の岸岡さんは、1973年生まれで私と同じ年である。お会いする前から私は一方的に親近感を抱いていた。その旨をお伝えすると、岸岡さんも親近感が湧いた様子で、握手券だけでなく、お店に施した遊びをいろいろと教えてくれた。


たとえば、この両替機にも遊びが隠されている。


まずは紙幣の取り出し口に「旧ザク」と記されている。ガンダム好きの人なら見ただけで「フフ……」となることだろう。取り出し口の色と形が、ガンダムに登場するジオン軍のモビルスーツ「旧型ザク」に似ているのだ。


さらにその下を見ると、埋蔵金! さりげなく置かれているから、言われないと気づかないよ。なお、こちらの埋蔵金は近日中に「〇〇金」に変わるそうだ。それは見てのお楽しみ……。


そして窓際にはバスの停車ボタンがあって、「押すとクマちゃんが登場します」とある。


どこから出てくるのかな? と思い、上を見ると何やら怪しい箱が……


ボタン押すと軽快な音楽と共にクマちゃん登場! そして再び明るい曲に導かれて、上へと戻っていくのであった。


これらの仕掛けはすべて岸岡さんの自作である。クマちゃんの仕掛けは作るのに1年かかったそうだ。「諦めなければできますよ」と岸岡さんは語る。すごい執念だ……。


まだあるんだよ! 店の外の注意書きにもこんな遊びが。「防犯ガメラ設置中」だって!


喫煙所には「相撲王エリア」とある。つまり「スモーキングエリア」だ。


ツッコミどころ満載じゃねえか! おそらくこれでも全部発見できてないので、まだまだありそうだぞ。どんだけ遊びを詰め込んでいるんだよッ!


・ラーメンのこだわり

しかしながら、この店は仕掛けが面白いだけじゃない。ラーメンにもしっかりとこだわりが詰め込まれている。看板商品の濃厚すぎる鶏白湯ラーメンには、上州地鶏を大量に使っているという。


たしかに味は濃い。鶏出汁がしっかりときいていて、ひと口でその旨味に魅了されてしまう。だが、くどさはなく、後口が非常にサッパリとしている。


そういえば、卓上に貼られた食べ方3箇条の1つに、「パンは最初に食べるべし」とあった。麺を食べる前に最初に頂いてみると、これがウマい! ポタージュを思わせる濃厚スープとパンの軽やかな食感がよく合っている

ちなみにパンは追加でトッピング(税込110円)が可能だ。おかわりしたいところだが、まずは麺を食べないとな。


麺に使用しているのは、国産小麦の「ゆめちから」だ。ベーカリーで使用されることの多いブランドで、パン用強力粉としてよく知られている。

これを使うことで、細麺でありながらしっかりと歯ざわりを実現している。濃いスープと食感の強い麺が組み合わさることで、食べ応えがあってなおかつオリジナリティの高い1杯に仕上っている


とにかくスープが美味くて、丼の底まで夢中ですすり上げてしまった。パンの追加をし損ねた。それにも増してオススメしたいのがライスだ。この味は絶対ライスに合うはず! もしも訪ねる予定の人は、ぜひライスも付けて欲しい。ムショーに米を食いたくなる味だ。


・楽しんでもらうために

それにしても、どうしてこんな面白要素を詰め込んだ店にしたのだろうか? 岸岡さんに話しを聞くと……。


岸岡さん「この場所で21年商売をしてるんですね。以前は「香麺」という名前で13年間、豚骨ラーメンをやってました。自分の作りたいラーメンが変化して、2016年から今のスタイルで商売しています。

今のやり方で始める前に、「ラーメン学校」に行ったんですけど、そこで教えて頂いた先生が良い方で、「美味しいものを作っているだけでは、経営は上手くいかない」というようなことを教えて頂いたんですよね」


佐藤「たしかに、美味しさは大前提ですけど、それだけでは関心を持ってもらいにくいかもしれませんね」

岸岡さん「そうですね、楽しんで頂きたいという気持ちも大事だと思っています。握手券は売れなくてもいいんですよ。話題作りですから。

それから、僕だけが楽しくやってても他のスタッフがさめてたら、お客さんにそれが伝わっちゃうでしょ? だからスタッフにも理解してもらってます。一緒に楽しんでもらえるように。お客さんにここで楽しんで頂きたいんですよね」


佐藤「それ、すごく良くわかります。いろいろなお店を訪ねますけど、スタッフがやらされている感じのお店って、楽しそうな仕掛けがかえって辛くなりますもんね」

岸岡さん「そうなんですよ。だから、スタッフも一緒に楽しめるような店づくりを心がけてます。今の世の中いろいろありますけど、まずは自分のできることで、自発的に楽しんでいけるように、これからもやって行きたいと思ってます」


佐藤「美味しいラーメンをありがとうございました。同い年の岸岡さんの積極的な姿勢に刺激を受けましたよ。楽しかったです!」

岸岡さん「こちらこそ、ありがとうございました!」


こうして、私は固い握手をして店を後にした。お店もラーメンもさることながら、何より岸岡さんの人柄が1番の魅力である。楽しく食事をしたいと思う方は、ぜひ一度訪ねてほしい。


・今回訪問した店舗の情報

店名 上気元いただき
住所 埼玉県狭山市下奥富610
時間 11:00~15:00(L.O.14:30)
定休日 木曜日

参考リンク:上気元いただき、Instagram @happy_itadaki
執筆:佐藤英典
Photo:Rocketnews24