・激しい攻防
とりあえず「ビットコインをくれるなら今すぐくれ」と軽めのジャブを入れてみたところ「ビットコインのアドレスを教えてほしい」と将軍。昨日までとはまるで別人だ。ちなみにビットコインのアドレスとは「口座番号」のようなものらしい。
そして約1000万ドル相当のビットコインを受け取るには、いったん私が700ドル(約9万7000円)を将軍に支払う必要があるという。なるほど……なめんなよ詐欺野郎。
対して私は「将軍がジャスティンビーバーを歌ったら教える」と返した。時刻は深夜0時29分。ここから「払え」「歌え」の激しい攻防が21時過ぎまで続くことになる。
将軍は「取引が完了次第(700ドルをもらったら)スムーズに歌わせていただきます」と言う。絶対に嘘だし、仮に本当だったとしてもお金を払って「将軍のジャスティンビーバー」なんか絶対に聞きたくない。
・リクエスト曲
さて、私のリクエストは、ジャスティンビーバーの『BABY』である。サビの部分だけでいいから歌ってくれとお願いすると……
やはり「先に700ドルを支払ってください」と将軍。こちらも譲るわけにはいかない。「将軍が歌ったらお金を払う」と伝えると……
「Appleギフトカードを知っていますか?」「すぐに購入できる場所を知っていますか?」と急に作戦を変えてきた。こちらとしてはビットコインだろうがAppleギフトカードだろうが関係ない。
「Appleギフトカードは知っているし、すぐに購入できるから、とにかく先に歌ってほしい」と返すと「私はすぐにあなたのために歌おうとしています」と将軍……やる気はあるのに行動できない人は嫌いだ。将軍のくせに全然男らしくない。
その後も「歌ったらAppleギフトカードを買う」「歌おうとしている」「声を届けようとしている」という不毛なやり取りが続いた。さっきから将軍はずっと歌おうとしている……こんなに歌おうとしている人間はなかなかいない。
こうなったら……
Appleギフトカードの写真を見せるしかないないだろう。徐々に前のめりになる将軍。「全身全霊で歌います」……この頃には「約1000万円のビットコイン」という存在は完全に忘れていた。ただシンプルに「買わせるか・歌わせるか」の勝負なのだ。
Appleギフトカードの写真を見て一瞬ふらついた将軍……しかしすぐに「ボイスメッセージを送るにはカードが必要です」と息を吹き返した。クソッ、しぶとい。
こちらも「仕事が終わるまでに歌わなかったらAppleギフトカードは買わないで帰ります」とタイムリミットを定めて、さらに「将軍のこと信じてる」と送ってみたものの……
仕事が終わっても連絡は来ず。このまま「歌おうとしている」「歌ったら買う」の攻防が永遠に続くのだろうか。途中、LINE通話(電話)がきたが……相手の声が聞こえないし、こちらの声も届いていないらしい。やはり「音声メッセージ」を送信してもらうしかないようだ。
・必殺技
ふたたび「Appleギフトカード」の写真を送り「あなたの歌が聞きたい」「はやくAppleギフトカードを買いたい」「あなたを信じている」と攻めまくる。
徐々に怒り出す将軍……こっちも腹が立ってきた。時刻は21時過ぎ。もう一気にフィニッシュまで持って行くことに。「あなたはチャンスを逃します」「もう帰る」と送ったところ……
「ちょっと待って」「私は今あなたのために歌っています」と将軍。「もう待てない」と突き放して、最終奥義「カウントダウン」を繰り出すと……!
将軍「YES」
果たして将軍は歌うのか、歌わないのか……!
!!!!!!!!!!!!!!!!
歌声があまりにも予想外だったのはさておき、米国陸軍省の将軍……を名乗る男は、たしかにジャスティンビーバーを歌っていた。
そしてなんとその後も……
▼将軍、涙のアンコール
ジャスティンビーバーを熱唱する将軍。歌声は明らかにアメリカ人の発音ではなかったし、言うまでもなく将軍ではないだろう。正体はただの詐欺師なのだ。
歌声を確認してメッセージとスタンプを送った後、もちろんブロックした。詐欺される側の気持ちが将軍に少しでも伝わったなら幸いである。
別れの時が来たようだ……そういえば、リクエストしたら一瞬だけアイコン画像を写真にしてくれたよね。他人の画像を使うのはよくないけど、あの時は少しだけ友達になれた気がしたよ。短い間だったけどありがとう。そしてさようなら、将軍。
【完】
執筆:砂子間正貫
Photo:RocketNews24.
ScreenShot:LINE(iOS)