先日Nintendo Switchで発売された『秋田・男鹿ミステリー案内 凍える銀鈴花』。ファミコンやゲームボーイの画面を彷彿とさせるカクカクのドット絵に、限られた音階で表現されるピコピコ音。みちのく秋田を舞台に「ファミコン風コマンド選択型アドベンチャー」が帰ってきた。

ちょっとプレイしてみたら、やたら詳しくご当地の観光案内をしながら犯人を追い詰めていく火曜サスペンス的な展開、「それ気づく人いるの!?」というローカルネタ……ツッコミどころ満載の独特の世界観が広がっていた。


・総当たりのコマンド選択式アドベンチャー

プレイヤーは警視庁の刑事となって、相棒のケンと特殊詐欺事件を捜査する。グラフィックは8bit風の背景画と人物のみ。バトルシーンも食事シーンもすべて「会話テキスト」で表現される。

オープニングムービーなんて無駄なものはなく、一緒に捜査を担当してきたはずのプレイヤーに、「これまでのあらすじ」をイチから説明してくれるケン。目に映る風景も、食べている食事の味も、すべてケンのセリフで表現されるので、やたらと彼が説明口調なのは責められない。

ゲームシステムはコマンド選択式のアドベンチャー。「ばしょいどう」「しらべろ」「みせろ」などの選択肢から、必要なコマンドを選択すると物語が進行する。

しかし「ここはこのコマンドしかないっしょ」というような “匂わせ” はまったくない。同じコマンドを何回か選んだり、決められた順番で選んだりしないとフラグが立たないことも多い。思いもよらない選択肢がビンゴだったりするので、もはや「総当たり方式」だ。め、めんどくさ……!

最近ではもっぱら自由気ままなオープンワールドゲームばかりプレイしていただけに、筆者の中でギャップがすごい。同じテキストを繰り返し読むことでしか真実を見いだせないサウンドノベル隆盛期を思い出した。メモを取りながら必死で分岐点を探したなぁ、『かまいたちの夜』……。


・ちょいちょい入れてくる秋田ネタ

会話は軽妙でテンポがよい……のだが「秋田新幹線は最後の30分だけ進行方向と座席が逆」「秋田犬は “あきたけん” ではなく “あきたいぬ”」など、ちょいちょいローカルネタを入れてくる。おそらく大半のプレイヤーはまったく気づかずスルーするようなニッチなネタばかりだ。ホント「誰得!?」である。

登場する風景や食べ物、飲食店はみんなモデルがある(と思う)。たとえば真っ黒いスープが有名な「末廣ラーメン本舗」、稲庭うどんの「佐藤養助商店」、銘菓「金萬」などなど。綿密な取材を行ったことがうかがえる。

そしてここは、先日「うどん自販機のパウンドケーキ」をご紹介したポートタワー・セリオンじゃないか! 「気づく人は気づく」「でもたいていの人にとっては意味がない」イースターエッグが随所にみられる。狂気のこだわりである。


・あふれ出る昭和感

特殊詐欺グループが捜査ターゲットであることや、UberEATSらしきデリバリーサービスが登場するところをみると、舞台は現代である。しかし、あふれ出る昭和感……! まさに火曜サスペンス劇場の世界である。

あっちもこっちも古くさく、ちょっと野暮ったく、どこか懐かしい。同人ゲームでさえ市場にあふれる便利なツールを使えばいくらでもリッチなゲームを作れるのに、あえて古めかしく作ってあるのだ。それが斬新。


そう、かつてゲームとはめんどくさいものであった。描かれていない部分は想像力で補い、ゲームオーバーを繰り返し、やり直す手間を惜しまない。古き良き時代(?)を思い出させてくれるゲームである。

筆者もすぐに結果が出るインスタントなエンタメにすっかり毒されているなぁ。もう少し我慢強くならなければ。ちょっとクラッシュするくらいで『サイバーパンク2077』を返金申請したことを後悔している。いや、していない。

Nintendo Switch版『秋田・男鹿ミステリー案内 凍える銀鈴花』は税込2000円で販売中。PS4版、Steam版も近日中に公開とのこと。前作『伊勢志摩ミステリー案内 偽りの黒真珠』もぜひどうぞ。


参考リンク:『秋田・男鹿ミステリー案内 凍える銀鈴花』公式サイト
Report:冨樫さや
ScreenShot:『秋田・男鹿ミステリー案内 凍える銀鈴花』
Photo:RocketNews24.