いつ頃からか定かではないが、東北地方では秋になると昼間に河川敷で鍋料理を楽しむレジャーがある。たき火でマシュマロを焼いてキャッキャウフフするようなオシャレなものではない。あくまで「鍋」である。有名な山形県の「芋煮会」のほか、秋田県では「なべっこ」と呼んで学校行事にもなっていた。

毎年9月の「日本一の芋煮会フェスティバル」(山形市)では、直径6mの大鍋に数トンの食材を入れ、ショベルカーで豪快にかき混ぜる光景をテレビなどで見たことがあるかもしれない。

しかし今年のコロナ禍。大勢の人が集まるイベントを例年どおりに開催することは難しい……ということで、なんと芋煮会を「ドライブスルー方式」にしてしまった。詳細をレポートしたい。


・事前予約制

来場は完全予約制で、事前にインターネットでチケットを購入した人だけが入場できる。このチケットが芋煮の引換券となり、1セット(4人前)2000円で販売。例年は3万食を超える芋煮を提供するが、今回は1000セット(4000食)限定の販売で、規模はだいぶ縮小している。

来場者が分散するよう、開始から終了まで1時間ごとに区切り、希望時間のチケットを購入する仕組み。

開催の少し前に、紙のチケットが送付されてきた。会場までの道のりが詳しく記載されているほか、山形県の観光パンフレットも同封されていた。


・当日の流れ

当日はチケットに記載された時間に、会場となっている河川敷に向かう。広い河原をパイロンで区切り、複数のレーンを作っていた。入場できるのは「自家用車のみ」で、ダッシュボード上でチケットを掲示しながら進む。徒歩、自転車、バイクなどでは入場できない。

芋煮を作っているのはビニールシートで囲まれたテントの中。直径6mの大鍋「鍋太郎」ではないが、それでも十分に大きい。ただし車列は次々と進むので、ゆっくり見学することはできない。残念だけれど衛生管理のためには有効だ。

順番がくると、車の窓越しに芋煮セットを受け取る。この間、わずか数十秒。ファストフード店でもこうはいかないというくらい、ものすごくスムーズだった。

当日会場での飲食は一切できず、トイレなどの設置もない。つまり現地に留まることは推奨されていない。マスコットキャラクターの芋煮マン&さとみちゃんも、マスク姿でめちゃくちゃディスタンスだ。受け取ったら、さっとその場を去るのが基本。徹底した感染症対策がうかがわれた。

きっと読者のみなさんは思われるだろう。これを「フェスティバル」と呼べるのか、と。

しかし、どんな形であっても開催したいという熱い思い、芋煮にかける情熱を感じて欲しい。芋煮会とは、単に芋を食べるだけのイベントではない。いや、芋も美味しいけれども、秋の恵みに感謝し、家族や友人が集って季節を感じる大切な年中行事なのだ。


・セット内容

セットの内容をみていこう。メインは耐熱密閉容器に入った芋煮4人前(保温バッグは筆者の私物)。

大きなトートバッグ、4人分の容器、割り箸、お玉がセットになっていて、手ぶらで来たとしても、そのまま好きな場所で広げられる親切な内容になっていた。そのほかマグネットやハンカチタオルなどの芋煮マングッズもプレゼント。

耐熱容器に入った芋煮は、2時間経ってもそのまま食べられるほどホカホカだったが、せっかくなので筆者はキャンプ場で温め直した。

子どもの握りこぶしほどもあるような巨大な里芋。粘り気があり、食べ応え十分だ。

同じ山形県でも地方によって具材や味つけが変わるといわれるが、これは牛肉が入った村山バージョン。東北らしい、甘塩っぱいスープが食欲をそそる。


・来年こそは

コロナ禍という非常事態ゆえの「ドライブスルー芋煮会」だが、よく考えられた動線に、スタッフの人数も十分に多く、ストレスなく参加できた。事務局Facebookによると渋滞や混雑も発生せず、スムーズに進行したようだ。大成功といえるのではないだろうか。

ただ、この経験を次に活かして……とはいいたくない。来年こそは通常開催できることを願うばかりだ。

ちなみにショベルカー(バックホー)は芋煮会のために毎年新車を用意し、高圧洗浄で工業用グリスを洗い落とす。代わりに食用油を塗っているから、安心して食べられるのだそう!

東北地方でこのような習慣があるのは、9月にもなると朝夕ぐっと冷え込み、温かい鍋料理が恋しくなることと無関係ではないだろう。必ずしもフェスティバルに参加することが目的ではなく、家族でも友人同士でも秋空の下に繰り出して鍋をつつくことが「芋煮」であり「なべっこ」だ。しばし秋の訪れを楽しみたい。


参考リンク:日本一の芋煮会フェスティバル協議会事務局
Report:冨樫さや
Photo:RocketNews24.
[ この記事の英語版はこちら / Read in English ]