あなたは、サキスタシャ・トーロレフ国について何かご存じだろうか? 筆者は名前すら聞いたことが無かった。「国」とついているので、恐らくは国名なのだろう。全ての国の名前を諳(そら)んじられるほどしっかり暗記しているわけではないが、しかし1度も聞いたことの無い国名というのも無いと思う。きっと皆さんも似たようなものではなかろうか。

名前を見たり聞いたりしたら、絶対に思い出せる。しかしサキスタシャ・トーロレフ国など全く記憶にない。果てしなく未知の国だが、この謎の国の駐日大使館が、筆者の自宅の割と近いところにあるのを発見してしまったのだ。

・Google Map

きっかけは麻布十番にある某国大使館の詳細な場所を調べる際、フルネームで検索するのが面倒だったため、雑に「大使館」とだけ入れてGoogle Mapにて検索した時のこと。何やら画面の端……場所で言うと埼玉県に、何やら見慣れぬ名前の大使館が表示されていることに気づいたのだ。



これが「駐日サキスタシャ・トーロレフ国大使館」の存在を筆者が初めて知った瞬間であった。その瞬間の感想は「なんだこれ」というもの。聞いたことの無い名前だし、場所のチョイスもおかしい。ディスるわけではないが、どう考えても大使館を構える場所として、埼玉というのは理にかなっていないと思うのだ。意味不明すぎる。

拡大してみると、どうやら最寄り駅は東武東上線の志木駅。筆者の住んでいるところからそう遠くない。電車で5分程度なので、むしろ近所と言えるだろう。こんな近くに全く知らない国の大使館があったのか……。



気になるので、どこにあるどんな国なのかGoogleにて検索してみよう。この時の筆者は、純粋に自分が「サキスタシャ・トーロレフ国」のことを知らないだけだとばかり思っていた。Googleの驚くべき検索結果が出るまでは……


・3件

一瞬の後に表示されたGoogleによる検索結果は、まさかの3件。なんということだ。まともな国であれば、Googleの検索結果が3件なんてことはあるまい。しかも、その3件ともよくわからないWebサイトであって、結局「サキスタシャ・トーロレフ国」についての情報は得られなかった。



ちなみにTwitterでも、本記事執筆時点では「サキスタシャ トーロレフ」と言うワードの検索件数自体が0。知名度の低さはぶっちぎりだ。



深まる謎。一体「サキスタシャ・トーロレフ国」とはなんなのか……。一応外務省のHPにある、国と地域の一覧にてサキスタシャ・トーロレフ国の名を探してみるも、掲載されていなかった。少なくとも日本政府に認知されてはいないのは確かだ。しかし、世の中には「シーランド公国」的な存在もある。

疑問を解決するには、もはやこの場所に行ってみる他あるまい。ということで、大使館最寄りの志木駅に到着。Google Mapによると、「駐日サキスタシャ・トーロレフ国大使館」は駅から歩いて5分から10分程度と思われる。

静まり返った住宅街の、細く薄暗い路地を進んでいく。気のせいだろうか。目的地が近づくにしたがって、空には暗雲が立ち込め、空気が重くなっていくのを感じる。



そしてついに到着。



そこにあったのは、何の変哲もないごく普通のマンションだった。


・クロネコ

やはりこの場所に大使館が入っているとは思えない。もしかしたらGoogle Mapが間違っていたり、あるいは筆者のスマホのGPSが上手く機能していないのだろうか? 一応住所も表示されているが……。

ちょうどその時、このマンションからクロネコヤマトの配達員さんが出てくるのを発見。そうだ、彼に聞いてみよう。きっとこの辺りに詳しいだろうし、何かわかるかもしれない。


筆者「すみません」
配達員さん「はい」
筆者「このマンションに大使館って入ってたりしますか?」
配達員さん「えっ、大使館は無いと思いますけど……住所わかりますか?」
筆者「はい、これです」
配達員さん「確かにこのマンションですね……でも大使館はちょっとわからないですね」


どうやらクロネコヤマトの配達員さんも全く知らないらしい。しかし、住所的には確かにこの場所で間違いないようだ。この辺りから、雷鳴と共に激しい雨が降り始めていた。



サキスタシャ・トーロレフ国とはいったいいかなる国なのか? 大使館はここで何をしているのか? そもそも本当にここに大使館が存在するのか? 物理的な距離は近づいたはずだが、謎はむしろ深まるばかり。


・困惑する不動産会社

仕方がないので、このマンションの内覧予約などの窓口となっている野村不動産に電話してみることに。マンションの名前を告げ、ここに大使館が入居しているのかどうか尋ねてみたところ……


オペレーター「大使館は入っていないと思いますが……」


と、困惑気味。そのような記録は無いらしい。Google Mapにて大使館があるように表示されていることを告げると、むしろ驚いていた。最終手段として、1回だけマンションのエントランスから住所に記載されている部屋番号のチャイムを押してみたが、応答は得られなかった。


・Google マイビジネス

申し訳ないが、結局「サキスタシャ・トーロレフ国」についてわかったことは何もない。この後、そもそもなぜこんな意味不明な大使館がGoogle Mapに載っているのか調べようとして知ったのだが、Google Mapに場所を登録するのは誰でも可能らしい。「Google マイビジネス」というサービスから、無料でできるようなのだ。

てっきりTwitterの公式アカウントなどのように、ちゃんと承認されたアカウントからしか登録できないものと思っていたが、全くそんなことは無かったもよう。このことから、恐らく「駐日サキスタシャ・トーロレフ国大使館」というのも、誰かが独自に「大使館」としてこのマンションの一室を登録したのではないだろうか。

ググっても何も出てこないことから、完全にオリジナルのネーミングだと思われる。「Google マイビジネス」について調べる過程で知ったのだが、どうやらこの「第三者が勝手に登録できる」という仕様上、トラブルも発生しているようだ。

もし登録したのがここに住む方で、何かしらの目的があって住所や電話番号を掲載しているなら、それはそれでいいと思う。しかし「Googleマイビジネス」の仕様上、第三者による悪戯である可能性を考えると、電話をかけるのは躊躇(ためら)われる。迷惑になるかもしれないので、かけたりしない方がいいだろう。

もはや、事情を知る関係者が名乗り出てくるまでは解明されないであろう謎となってしまった気がする。サキスタシャ・トーロレフ国……いつかこの国と、その駐日大使館についての謎が解明される日は来るのだろうか。

参照元:Google マイビジネス外務省
執筆:江川資具
Photo:RocketNews24.
Screeenshots:Google Map、Twitter