クイズ、ミステリー、知られざる秘密……謎とは人の心を惹きつけるものだ。東京は浅草橋に、謎の立ち食いそば屋があることをご存知だろうか?
神田川にかかる左衛門橋の南に位置するこのそば屋。「立喰 そば うどん」と書かれた看板には重要なものが抜け落ちている。それは名前だ。名前がないというだけでとても気になる。はたしてどんな店なのか? そこで入店してみたぞ。
・店内
入り口をくぐるとすぐにカウンターがあった。店内はこのカウンターと厨房のみで、6~7人も入ればいっぱいという感じの広さ。シンプルな立ち食いそば屋である。
メニューを見ると、かけそばは税込み290円とかなり安め。私(中澤)は揚げ置きの天ぷらを見て、「春菊天そば(税込390円)」を注文した。
・深淵
厨房内では女性が1人で調理をしている。サッシの扉から差し込むぼんやりした光と、垂れ流しのテレビが、のんびりした雰囲気。店内の空気には謎の匂いさえ感じられないが、出てきたそばは……
真っ黒のつゆ。
そばが闇の奥に消えいるようなそのつゆの色はまさに深淵。都内屈指の暗黒つゆっぷりである。やはり謎の店。そこで、そばを食べながら、それとなく女性に店の名前を聞いてみたところ笑いながらも「名前はだしてない」との回答だった。
看板に名前が書かれていない立ち食いそば屋というのはたまにある。外苑前の『信越そば』や森下『芭蕉そば』などがそれ。だが、このそば屋の看板に名前がないことについては、個人的には意思のようなものを感じた。つゆも名前も闇の中……まさしく深淵のそば屋である。
・名もなき花
ちなみに、そばの味は見かけほど濃くはなく、つゆを飲んでみると醤油味の中に酸味が感じられ爽やか。そんなつゆを吸った春菊天はふわっとしており、香ばしさと少しの苦みが漂う。
激ウマというものではないが、朝にツルッといきたい時にはちょうど良いそばだ。路傍に咲く名もなき花のようなその味には、名前など必要ないのかもしれない。
(※本記事は緊急事態宣言が発令される前に取材したものです)
・今回紹介した店舗の情報
店名 なし
住所 東京都中央区日本橋馬喰町2-5-9
営業時間 7:30~15:00
定休日 土・日・祝日
Report:立ち食いそば評論家・中澤星児
Photo:Rocketnews24.
▼名前なんて些細なことなのかもしれない