何かとファーストインプレッションが大事な世の中。名前の重要度は増していると思う。飲食業界においても、まず、名前でビビらせるみたいな新商品やメニューは多い。

しかし、立ち食いそば屋には名前を掲げていない店がたまにある。馬喰町にもそんな店名のない立ち食いそば屋があるため改めて真の名前を聞いてみた

・コスパ良い看板

馬喰町で靖国通りを秋葉原方面に向かうと、ビルの高い位置に「立食そば」とだけ書かれた看板がある。まっ黄色であることが幸いしてか、小さいのに遠くからでも目が引かれるくらい目立っているこの看板。コスパが良いとはこのことか。

確かに、店のファンではなく道行く人にアピールするなら、店名を書くよりも、まずは「立ち食いそば屋がここにある」というのが分かる方が大事だ。この看板はシンプルだが、必要最低限のことは満たしていると言える。しかしながら、店の前に行くと……


店名がないのである

目立ちたいのか、目立ちたくないのかどっちなんだよ! そこで店主の前田さんに真の名前を聞いてみた。


前田さん「そば千です」


──店名を掲げてないのはなぜなんですか?


前田さん「そば千自体はここで50年くらい続けてるんですが、当時から名前がなくて、『黄色い看板のそば屋』とか、当時の店主の名前から『いとう』と呼ばれてました。店名を掲げないのは、その当時からの伝統を受け継いでいる感じですね」


──掲げなかった理由は何かあるんですかね?


前田さん「私は店主になって5年くらいなので当時の理由までは……。っていうか、ロケットニュース24読んでます


──え、ありがとうございます。


前田さん「元々IT関係でして、そっちに興味があるので、googleのニュースとかでもよく表示されてます」


──まさか、こんな年季入った硬派なそば屋の店長からITとかgoogleという言葉が飛び出すとは。っていうか、IT関係から転職するにはハウツーを活かせなさすぎな職場であるように感じるが……


前田さん「売上管理はエクセルで完璧です」


──いや、確かにそりゃそうかもしれないですけど……


前田さん「監視カメラもこだわってますよ」


──ハウツー活かすのそこ!?


前田さん「実は、バイトで入ったおふくろが20年くらい店を継いでまして、もう継ぐ人がいないって話を聞かされてたんですね。そこで3カ月手伝うくらいの軽い気持ちで入ってみたら、あっという間に5年が経ってました」

──とのこと。前田さんは今でも趣味で自作パソコンを組み上げたりしているらしい。渋すぎる店の外観からは想像できない人生がそこにあった。

転職全盛期の現代日本だが、ITから『そば千』の店主なんてホント人生いろいろである。そんな人生の味が染み出しているのか、『そば千』のつゆはコクを感じる深い味。暗黒つゆが今日も身に沁みやがるぜ。

・今回紹介した店舗の情報

店名 そば千
住所 東京都千代田区東神田1-17-4
営業時間 平日3:00~19:00
定休日 土・日・祝

執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.


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▼ちなみに、これは「大海老天そば(税込み540円)」

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